ユーマとヒノカ
ユーマとヒノカが街で休暇を楽しんでいる頃。
イーステル本土にある軍本部では各地で教育課程を終えたユーマやヒノカを含めた新兵達の配属先と軍服の“色”を決める会議が行われていた。
戦場においては実力が全て、というイーステル軍創設者の理念からイーステル軍には階級制度が存在しない。
しかし軍内部での上下関係は必要な物だ。
故にイーステル軍は軍服の色で階級の上下が決まる。
基地司令クラスは黒服、カナタのような部隊長クラスは紺色、その他一般兵は深緑といった感じだ。
「では次に例のカナタ・マシロから推薦されているユーマ・カザギリとヒノカ・マシロについてですが――」
「昨日の最終試験で同基地の正規ライダー搭乗のハガネ6機を2機で全滅させたらしいな。
それも10分掛からずに」
「あの基地の正規ライダーは実戦経験に乏しかったとは言え、隊長は前線を経験した事もあります。
カナタ・マシロから送られてきたシミュレーションのデータから見ても、訓練中に襲撃犯を全滅させている事から見てもユーマ・カザギリは紺にするべきです」
「そうですね。ヒノカ・マシロに関しても他の基地の新兵とは比べるまでもない成績です。
マシロ家のご令嬢だからという訳ではなく、彼女にも間違い無く紺の資格はあります」
「襲撃事件で4名も若いライダーを失ったというのにあの基地は今期豊作だな。
司令官には報奨も考えておくか」
「しかし、紺色2人ですか。
ヒノカ・マシロは問題無いのですが、ユーマ・カザギリのシミュレーションのデータや実機の稼動率を見ますと、これは――」
「2人目のカナタ・マシロといったところか。
うーむ、やはり専用機は必要だなあ。
これでは敵ではなくユーマ・カザギリにハガネを使い潰されかねん」
「開発局の連中は張り切ってますよ、ヒヒイロカネよりも高性能な機体を作ってやるってね」
「はあ、開発資金だって馬鹿にならんというのに……まあ良い。これもイーステルを守る為だ。
開発局の連中には好きにさせろ。
では次の基地の新兵について――」
本部でこのような会議が行われているとはつゆ知らず。
ユーマとヒノカは車を預けたホテルから車を出してもらい、街を一望出来る展望公園で夕暮れを眺めていた。
「ねえカザギリ」
「ん?」
「今日はありがとう。食事だけじゃなくて映画館とかショッピングとか……楽しかったわ」
「そりゃあ良かった。色々考えた甲斐があったよ」
展望公園の展望台から街を見下ろす2人。
眼下に拡がる街は人が行き交い、車が行き来し、リニアモーターカーが通り過ぎて行く。
何処にでもある街並み。
その街並みを眺めるユーマは何故か悲しげに目を伏せる。
夕暮れに染まる街とアステリアに焼かれた故郷を重ねて見てしまったのだ。
ユーマの握り締める拳に力が入る。
そんな時だった。
強い風が2人の間を吹き抜けた。
「あう」
「大丈夫か?」
飛んできた木の葉が夕陽に照らされて輝くヒノカの長い白髪に絡んでしまった。
その木の葉をユーマは取ってあげると、髪を手櫛で整えていく。
「あ、ありがとう」
「良いよ別に。風も出てきたし体を冷やす前に帰ろう」
「え、ええそうね」
並んで歩く帰り道の2人。
ヒノカの顔が赤いのは、夕陽に照らされたからではないのだというのは誰の目から見ても明らかだった。




