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「私まだ水汲みの途中だから」
そう言ってヨワは斜面をざくざくと登った。振り返った時ロハ先生とバナードが目に入ってちょっと湧き起こった罪悪感を散らす。ここには男が三人も四人もいるのだ。女の自分ばかりが重い荷物を担当することはない。たとえ残された男性陣の内ふたりが六十五歳の高齢者だろうと、万年運動不足のひ弱な学者だろうと構わない。どんなに軽い荷物だってすぐに気づいて持ってくれる異性に、夢見る浮遊の魔法使いがいたってなにも悪くない。
「水瓶のほうが絶対重いのに」
ヨワの背中に恨めしい視線を送るリンを置いて、ユカシイとロハ先生とバナードはそそくさと山を登り出した。
「そこ待てよこら!」
結局、山賊ひとりを引きずって運んできたリンが音を上げてヨワに泣きつこうとしたので、それを吹き飛ばしてからもうひとりの山賊をヨワが運ぶことになった。ささやかな夢がとても遠く感じた。
西の山端に日が沈む頃、ダゲンの山小屋はチーズの香りがもわもわと充満していた。たまねぎとコーンのピザに、トマトソースとバジルのピザ。窯で焼き立てられたばかりのそれが冷めない内に早く食べてと言わんばかりに湯気を昇らせている。
ヨワとユカシイは待ちきれず顔を突き出して目一杯空気を吸い込んだ。
「今が食べ頃」
「間違いない」
「冷めたらおいしくないわ」
「まったく。食べるしかない」
ぽとり。ピザの船から落ちたコーン船員をヨワの指が救おうとしたその時、さらに焼き上がった二枚のピザを手にしたダゲンが現れた。
「ヨワ」
「なにもしてません!」
「なに言ってるんだ? そろそろみんなを呼んできてくれ」
テーブルにピザを並べてダゲンはまた窯の元に戻った。つまみ食いをしようとした瞬間は見られていなかったようだ。




