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安心しきった表情で身をゆだねたヨワに、胸からじんわりとにじみ出てくるものがあった。手足の先までそれが浸透すると、無闇に引き寄せられる力が霧となって散る。リンはこれが幸せだと理解した。
パーティー会場は抜け出した。あいさつに行ったベンガラとハジキが、キラボシにはうまく言っておくとうなずいてくれた。
帰りの馬車も用意されていたけど、城下町まではそれほど遠くない。リンとヨワは手を繋いで街道を歩くことにした。冬の夜風は冷たい。だがけして、ふたりの心まで凍えさせることはできない。
「なあヨワ。家さ、海の見えるところに建てないか」
「港町?」
「そこまではさすがに遠いから、高い丘を探してさ。見つかるかな」
「きっと見つけるよ」
「毎日帰るんだ。その家に」
「待ってる。温かいごはんを作って」
繋いだヨワの手を通して、幼い男の子と女の子の笑い声がリンの耳に聞こえた。
ヨワたちの物語を最後まで見届けてくださり、心からお礼申し上げます。ありがとうございました。




