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狼シェフと愉快なレストラン  作者: ただっち
第1部:怪盗&侍編
34/48

柴犬刑事の油断

 そこから30分後。

 激しく激怒した紅葉をようやくなだめて、事情を説明した。

 いやぁ、怖かった。

 まさか、紅葉が包丁を持ち出してきて「人の恋人盗るなんてどこのオス犬だ!!」って怒鳴ったときは昼ドラを思い出したぜ。

 

 「いやぁ、ごめんなさい。 まさか、時雨さんの相棒だったとはつゆ知らず……とんだ失礼を」

 「いやいや。 気にしてないよ。 まだ未遂だったから逮捕せずに済んで何よりだ」

 「紅葉、お願いだから……確認してから行動してくれ。 頼むよ?」

 「うう……だって……迅雷の事がすごく好きなんだもん……だから、誰かに盗られるなんて……許さない!!」

 

 あー、また怒りのボルテージが上がっちゃったみたいだ。

 仕方がない。

 

 「雨宮さん、紅葉に近づきたいので来てもらっていいですか?」

 「はい、構いませんよ」

 

 と、俺は雨宮さんを引き連れた状態で紅葉に近づき……。

 

 「んっ……///」

 「……落ち着いたか?」

 「ふ、ふにゃ~」

 

 バタン、と紅葉は再び顔を赤めて倒れてしまうのだった。

 

 「お熱いですね」

 「うう……雨宮さん、言わないでください……」

 

 俺も同様に顔を真っ赤にしていた。

 未だに紅葉にキスするのが馴れない……。

 恥ずかしい。

 

 「えへへ、いいね照れて。 青春してるね~」

 「茶化さないでくださいよ、雷オーナー。 は、恥ずかしいんですから」

 「えへへ~」

 

 尻尾を振りつかせて、雷オーナーはこちらを見てにやにやしている。

 もうこう言うときのオーナーは意地悪なんだよな。

 

 「さあ、楓~ねんねんころころ……!!」

 

 厨房から楓を抱き上げながらご機嫌に歌ってきたハスキー先輩と雨宮さんの目が合った。

 

 「あ、雨宮ユリウス……」

 「冷血の狩狗……久しいな」

 「なぜお前がここに……って、そうか……お前、泥棒系専門の刑事だったな」

 「ええ。 だから、私は君を逮捕する気はないからご安心を」

 

 どうやら旧知の仲のようだ。

 まあ、仲が良い訳ではないようだが。

 なにせ、殺し屋と刑事だからな。

 

 「あう?」

 「あれ?楓~ほらほら、ねんねしなきゃだめですよ~」

 「キャッキャッキャッ♪」

 「もう、かわいい♪」

 「バカ弟子ぃぃ……そこ替われぇぇ!!!」

 

 迅凱仙のいつものやりとりに、思わず口をぽっかりと開けて唖然として雨宮さんは眺めていた。

 まあ、そうだろうな。

 

 「愉快なところですね……ここは」

 「まあ、楽しいですよ」

 「なるほど……だから、時雨がここをお気に入りと言っていたのか……納得した」

 

 ふふっと笑みを浮かべて、雨宮さんも楽しそうにしている。

 すっかりと迅凱仙ペースに乗り始めたようだと俺も可笑しくなって笑っていたのだった。


そして時間は流れて……閉店時間。

 どうにかお店の方は無事に終わることができた。

 まあ、お客様たちには手錠の事をからかわれてしまったけど。

 仕方がないだろう。

 

 「そろそろ犯行時刻ですかね……」

 「いやぁ……今夜しか書いてなかったから……曖昧ですね……きっと書いたやつはバカだな」

 「また、シロンったら……」

 

 と、すっかりレストランの常連になったシロンさんと吹雪さんは閉店後も店内に残って俺の警護をしてくれている。

 って言うのは建前で……。

 

 「いやぁ……楓くんかわいいな♪」

 「もう、本当ね……」

 

 ハスキー先輩に抱かれてすやすやと眠っている楓を囲んでニコニコ微笑んでいる。

 

 「かわいいだろ~♪」

 「いやぁ……もう、天使だよね」

 「母性本能を擽るこのかわいさ……本当に天使ね♪」

 「はいはい、赤ちゃん目的な人たちは捌けててくださいな」

 

 そういって紅葉は、ハスキー先輩たちを店内の奥へと押しやる。

 すっかりと紅葉は、盗人を殺す気まんまんでいるようで、全身に重火器を装備している。

 一番目立つのは、背負っているロケットランチャーだろう。

 いったいどこから持ってきたんだよ……。

 

 「紅葉……怖いよ……」

 「とか、言いつつ……彼岸もフル装備じゃん」

 

 と、紅葉は彼岸の格好を見てそう言う。

 確かに、普段仕事の時以外に着ない獣人陰陽師の正装と、陰陽術を発動させるための札を手に常備している。

 完全に臨戦態勢だった。

 

 「さてさて……そろそろ、深夜になります。 今夜……と言うと23時59分までに……ですので、あと数分以内には……!!」

 

 ガシャン……と、突然迅凱仙のホールの照明が落ちた。

 辺りが森の中であるということもあり、真っ暗闇が俺たちを襲った。

 

 「うわっ!! 停電?」

 「皆様、動かず騒がず……奴が来たようです」

 『ふふっ♪ お待たせいたしましたよ……俺様の愛しい愛しい獲物ちゃん♪』

 

 ホール内に広がる声……野太く、そしてなにより威圧感のある声だ。

 

 『獅子座の使者……ここに見参!!』

 「彼岸、どの方向かな?」

 「ホールから厨房に向かって斜め上」

 「了解」

 

 紅葉は装備していたと思われるサブマシンガンを容赦なく撃つのだった。

 耳を破くような激しい銃声が続く。


 『おっと、危ない♪』

 「彼岸、今度はどこ?」

 「えっと……ぎゃん!!」

 

 と、何かに殴られた音が聞こえ彼岸の声が途切れた。

 

 『だめだめ、狐くん。 居場所は教えちゃ……』

 「紅葉、スタッフルーム入り口の上の天井だ」

 「はーい」

 

 ハスキー先輩のご指摘通りの場所を、紅葉はすかさず蜂の巣にしていく。

 

 『おー、怖い怖い。 早く、仕事を終わらせなきゃな♪』

 「迅雷!!」

 

 紅葉の声が聞こえる。

 あれ?なんだろう。

 なんか……眠く……。

 

 『あはは♪』

 

 パッと照明がつくと、俺の身体は何かに持ち上げられて宙に浮いていた。

 見上げると、仮面で顔を隠したがっしりとしたライオンの獣人が俺を持ち上げていた。

 

 「ふふっ♪ 迅雷は確かにいただいたよ♪」

 「手錠が……!! いつの間に……!!」

 「相変わらず間抜けだね、ユリウス」

 「貴様ぁぁぁぁぁぁ!! 迅雷を返せ!!」

 「嫌だよ~これから、迅雷くんは俺様とあーんなことやこーんなことをして楽しむんだから♪ それでは、バイバーイ♪」

 

 そういってライオン獣人が放った煙幕に包まれると俺の視界は真っ暗になった。

 こうして俺は誘拐されたのだった。



という訳で、俺はどこかの小屋に居た。

 当然ながら、手足を縛られている。

 とは言ってもだ……そこまでギチギチではなく、小屋から逃げ出せないように鎖で一定範囲内しか移動できない程度だ。

 

 「ここは……」

 

 と思い、辺りを物色してみるがなんの手がかりもない。

 あるとすれば、一人用のベッドと簡易的な机と椅子くらいだ。

 他には何もない。

 ここの持ち主は、物を置きたがらない傾向があるようだ。

 

 「いったい何で俺が……」

 『ふふっ♪ 目が覚めたようだね』

 「そ、その声は……!!」

 

 小屋の中に響き渡る低い美声……紛れもなく、あのときのライオン獣人の声だった。

 

 『ようこそ、我が城へ……とはいっても、何もない小屋だが』

 「お前、俺を拐ってどうする気だ?」

 『ふふっ♪ 宝物ってのはね、誰の目にも触れないようにするのが鉄則……だから、お前はずーっとここで暮らして貰うのさ』

 「なに!?」

 『まあ、安心しな……こんなところで一人じゃ寂しいだろ? 一匹仲間を加えてやるよ』

 

 そうライオン獣人の声が途切れたと思ったら、天井からドサッと小さな影が落ちてきた。

 よくよく見ると、それは子供のライオン獣人だった。

 

 「痛いよぉぉ……」

 

 まあ、ゴツンと頭から落ちてきたからな。

 子供のライオン獣人は泣いていた。

 

 『そいつとせいぜい……仲良く待ってな』

 

 そういい残して、ぶつりと会話は途切れたのだった。

 

 「くっ……!! あ、大丈夫?」

 

 と、俺は泣いている子供のライオン獣人の方へと駆け寄る。

 少したんこぶができてしまっているようだった。

 

 「ううっ……」

 「わぁ!!」

 

 ぎゅっと俺の身体を掴んで、ライオン獣人はすり寄ってきた。

 仕方なく俺は、彼が泣き止むまでそっと抱き寄せていた。

 

 「ほら、大丈夫大丈夫……痛いの痛いの、飛んでいけ~」

 「ぐすっ……ぐすっ……」

 「痛いの痛いの、飛んでいけ~」

 「うう……あ、ありがとう」

 

 ようやく落ち着いた子供のライオン獣人は涙目で俺にお礼を言ってくる。

 まあ、泣いてる子供がいたら放って置けないさね。

 

 「君も拐われたのかい?」

 「うん……お兄ちゃんも?」

 「そうなんだよね……何が目的で俺なんかを拐ったんだか……」

 「……ねぇ、お兄ちゃんの名前は?」

 「あぁ……自己紹介が遅れたね。 俺の名前は天野迅雷。 レストラン迅凱仙でコック見習いとして働いてる人間さ」

 「ふーん……料理人さんなんだね」

 「君は?」

 「僕? 僕はね……レオだよ」

 

 レオって……誘拐犯と同じ名前?

 偶然か?

 まあ、同じライオン同士だからそう言う名前多いのかもな。

 向こうは体格ががっしりしてたのに、こっちはちんまりしていて、むしろ可愛らしいしな。

 

 「レオくんね。 よし、どうにか隙を見て一緒に逃げようね」

 「うん……そうだね……」

 

 この時俺はよく見ていなかった。

 この小さいレオくんが不敵に笑っているところを。

 そして、このレオくんこそが誘拐犯であったことをね。

 そんなことを知らない俺が次に取った行動と言えば……。

 

 「とりあえず寒いから、レオくんこっち来てくれる?」

 「うん」

 

 と、俺はレオくんをぎゅっと抱き寄せる。

 

 「わっわっ……//」

 「あー、やっぱり暖かいや」

 「じじじ、迅雷さん??」

 「あ、ごめん!! つい、紅葉にやってるように……嫌なら離すけど……」

 「い、いや……いい……このまま……♪」

 

 どうしたんだろう?

 レオくんの鼻息が荒く、心臓の音がバクバク聞こえる。

 緊張してるのかな。

 まあ、そうだよね。

 初対面の奴に、急に抱き寄せられて怖がらない人は居ないだろう。

 とりあえず……ここからどうやって抜け出すか。

 それを考えなくては……。

 


【~一方その頃、迅凱仙では?~】

 

 「離せぇぇ!!」

 「彼岸、バカ弟子……しっかり紅葉くんを押さえていなさい」

 

 半壊寸前のレストラン【迅凱仙】の穴の空いた天井の下で、狼獣人【紅葉】は取り押さえられていた。

 と言うのも、あの天野迅雷が拐われた後、かなり暴れまわったらしく重火器などを使って破壊の限りを尽くしたらしい。

 流石に危険になったと感じた全員が止めて、ようやく今拘束している状態なのだ。

 お陰で、レストランの店内は荒れ放題だった。

 

 「それで、シロン殿……先程の話は本当か?」

 「ええ。 間違いないでしょう……」

 

 雨宮刑事と白魔導師シロンは、先程現れた泥棒の話をしていた。

 シロンの顔つきは、すっかりと仕事状態のそれになっており、普段持ち歩いている彼の能力を高める本も開きっぱなしになっている。

 つまりは、シロンは本気状態であるのだ。

 

 「僕の魔力圏内にいる限り、逃がしはしない……けど、向こうも同様の使い手のようだ。 うまく身を隠している」

 「同様の使い手……つまりは、シロン殿と同じく魔導師」

 「うん。 そうだね。 しかもこの魔力は知っている……そして、名前を聞いて思い出したよ」

 

 ふぅ……と、一呼吸起き、シロンは言う。

 その事実を。

 

 「【星の魔導師レオ】……それがあいつの名前だ」

 「星の魔導師?」

 「かつて存在したとされる魔法使いの称号でね。 記憶を操る魔法を得意としていたと言われているよ」

 「え?ちょっとまって……」

 

 そういって吹雪はシロンの話を強制的に止める。

 

 「言われてるって……まるで死んだ人みたいに語ってるけど……」

 「あぁ、そうだよ。 今から15年前……星の魔導師レオは謎の病で死んだ。 後にそれは、毒を盛られたと言うことが分かったがな」

 「誰がそんなことを……」

 「獣人を惑わし、獣人を実験道具にしか思わない男……」

 「って、おい!! それって……」

 「その通りだよ、冷血の狩狗。 当時、星の魔導師に毒を盛って殺したのは……水無月秀さ」

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