獅子座の略奪愛は叶わない
監禁されてから2日目。
人間の順応というのは恐ろしいものだな、と感じる。
すっかりと、この小屋での生活になれてしまった。
「レオ、出来たよ」
「わーい♪ 迅雷の作ったご飯だ♪」
鎖で動ける範囲内に、どうにか調理場もあってね。
幸い、食材は床にあった貯蔵庫にだいぶあったからな。
「迅雷がこんなにも料理旨いだなんて♪」
「いや、まあ……見習いとは言え色々教えられてるからな……」
とは言っても、俺の腕は紅葉たちには程遠い。
精々、一般家庭レベルに過ぎない。
紅葉やハスキー先輩みたいに、色とりどりな品を作ることはできない。
調理スピードも遅いし、味付けも自分好みになってしまうし。
それでも……。
「美味しい♪」
こういって嬉しそうに食べてくれるのは、悪くない。
レオはむしゃむしゃと美味しそうに俺が作った品々を食べてくれる。
少し焦げてしまった卵焼きや、ソーセージ……切り方が少し雑なサラダ。
少し固めになってしまったお米、味噌の量が少し多くてしょっぱくなってしまったお味噌汁も。
本当に美味しそうに食べてくれる。
「ほら、レオくん。 お口にお弁当ついてるよ?」
と、俺はレオについた米粒をひょいっと取ってパクっと食べる。
「///」
「ん? どうした?」
「……ズルい……」
「えっ?」
「あ、いや……なんでもないよ」
顔が赤いな。
あれ、味付け辛かったかな?
「味、変だった?」
「ううん、違うの!! すごく美味しいよ♪」
レオはガツガツと食い入っている。
というか、食事の度に毎回俺の膝の上に座って食べるんだよな。
まあ、椅子もひとつしかないから仕方がないけど……首もとにレオのふさふさの毛並みが当たって正直こちょばしい。
「もぐもぐ♪」
「美味しい?」
「うん♪ いつも、こんな料理食べられないから……」
「そうなんだね……」
レオは自身の過去は明かしてはくれない。
けど、話さずとも辛く苦しいということは、彼の表情から伺えた。
だから、俺は深くは聞いていない。
いつか話してくれるかもしれないしね。
とは言ってもだ……まずはここから逃げなくては。
「それにしても……あの獅子座の使者はあれから姿を表さないね……」
「う、うん……そうだね」
あの筋肉質の男は、俺をここに連れてきて、そしてレオをここに寄越してからと言うもの奴は現れない。
まるで、ここに連れてくることが目的だったように感じてしまう。
「紅葉たち……どうしてるかな……」
「……」
「レオくんも……寂しいよね……」
「僕には迅雷が今いるから、淋しくないよ」
すり寄ってくるレオは本当に暖かい。
思わずぎゅっと抱き締めてしまうほどに。
「あっ……//」
「しまった。 ごめんね、ご飯食べてたのに」
「いいの……迅雷、ちょっとこのままでいて……」
「うん……」
なんだか眠くなってきてしまう。
不思議だね……。
まだ出会って2日なのに……こんなにも落ち着けるだなんて。
そして俺はレオを抱き締めたまま、眠ってしまうのだった。
深い深い……夢の世界へ。
【その頃……】
天野迅雷誘拐から2日。
白魔導師シロンと雨宮ユリウス刑事、そして重火器を完全武装した紅葉は、現在迅雷が監禁されている小屋の付近に来ていた。
「ふむ……やはり、この付近に強力な結界が張られている……しかも、強力な幻覚を見せる類いのものだ」
シロンは、手元にある本を開き、口元で呪文をぶつぶつと唱え始める。
そして、スッと手を翳すとガラスのように結界は砕け散る。
「魔力解除」
「ほほう、これが魔法……」
「くんくん……迅雷の匂いがする」
「油断するなよ、紅葉……これ程の結界を張れる相手だ……」
「シロン殿……どうやら、奴が来たようだ」
そう言って雨宮刑事は背中に背負っていた弓矢をスッと取り出して、戦闘体勢に入る。
同様に紅葉も、両手にVz61を構えている。
『ふはははは♪ 良く来たね……』
「獅子座の使者!!」
「いや……こう呼べばいいか……星の魔導師レオ」
『貴様……やはり、白魔導師シロン』
声だけは辺りに響き渡る。
が、星の魔導師レオは姿を見せない。
「ふむ……警戒しているね……レオ」
『貴様……迅雷は渡さないぞ』
「いいや、迅雷くんは返してもらうよ……なにせ、紅葉がこれ以上暴れられても困るしね」
シロンの横で、殺気をむき出して辺りを伺う狼獣人の紅葉の姿を見て、くすりとレオは笑う。
『ふふっ♪ そんな、狼になにができる……』
「おい、挑発するな!!」
シロンが声を荒げるが、一足遅かった。
紅葉は、ぎろりと一本の木を目掛けて弾丸の雨を放つ。
幹には弾丸の跡が付いていくが、一点だけ……丁度弾丸の跡が付かない場所があった。
そこから、マントを翻しレオは現れた。
「おっかないおっかないねぇ……」
「あれが……レオ……」
見るからに、がたいが良く……そして、なにより大きい。
「怯える必要はないよ……なにせ、僕がいるのだからね」
「言うね……白魔導師……」
レオはマントから二丁の拳銃を取り出す。
とは言っても実弾の入った一般的な拳銃とは形状が全く違う。
「それが、魔銃レグルス……あらゆる魔法を撃つことができ、様々な武器に変形することが可能な道具……」
「ふふっ♪」
「だからどうした」
紅葉は再び弾丸を放っていく。
が、レオはその弾丸を魔銃を鞭に変形させ凪ぎ払う。
「ふふっ♪ 無駄無駄♪」
「では、こちらはどうかな」
雨宮刑事は、矢を放つ。
しかも軌道を読まれないように、矢に矢を次々にぶつけて翻弄する。
「ユリウスくん……流石だね……でも……」
鞭の形状から今度は剣に変形させ、襲い来る矢をレオは確実に見切り、切り落としていく。
「ふはははは♪」
「銃弾もダメ……」
「矢もダメ……となると」
「魔法しかないよね」
そう言ってシロンは再びぶつぶつと呪文を唱え始める。
だが、それを許すレオではない。
素早く剣から銃に変形させ、シロンに向かって魔法の弾丸を放つ。
が、それはシロンによって既に予期されていた事だった。
弾丸はシロンに当たることなく、上空に弾き飛ばされてしまう。
まるで花火のように美しい光を現出させていた。
「甘いよレオ……僕がその程度を回避できないとは思わないでね」
「ふん、やるな……白魔導師」
「そして、終わりだよ……【幻影解除】」
シロンの手に握られた本から凄まじい光が辺り一面に広がると、周りの景色は一変する。
これまで見えなかった木々に取り付けられた数々のトラップ、そしてレオの本当の姿を。
「やはり……お前は……」
「くそっ!! 迅雷は渡さないぞ!!」
そう言ってレオは小屋へと逃げる。
それを紅葉たちは追うのだった。
「待っててね迅雷……もうすぐだからね!!」
夢……それは、忘れていた記憶を思い出す事の出来る場である。
目覚める頃には忘れてしまう……だが、稀に覚えている場合がある。
それが、夢の面白さ。
そして、夢の儚さである。
「ここはどこだ?」
俺は先ほどまで、レオくんとご飯を食べていたはずだ。
なのに、何故……何故、ここにいるんだ。
「おひさ~迅雷」
「あれ?楓?」
白衣の下にオレンジ色のパーカーを着ている眼鏡をかけた狼獣人……こいつは俺の前世の存在。
つまりは、生まれ変わる前の存在だ。
魂は輪廻のようにこの世を廻る。
それを解き明かした天才がこいつ……楓だ。
「楓がいるってことは……ここは……」
「そうだね。 君の夢の世界だよ」
「だよな……」
辺りを見回しても、なにもない。
白い白い空間が無限に広がっているだけだった。
「ふむ……それはそうと……紅葉と恋人になったんだって?」
「あ……うん、そうだよ」
「まさか紅葉が迅雷の事好きでなんてね……」
「うん、意外だった」
「まてよ……迅雷って僕の生まれ変わりだよな……って考えると、これって近親相姦……」
「やめなさいよ!!」
頬を赤めて尻尾を振ってる楓に、思わずツッコミを入れてしまうのだった。
近親相姦の発想まったく無かったのに……嫌なイメージがついたな。
「まあ、紅葉を幸せにしてやってくれ。 これで公認のカップルだな」
「うぅ……あ、ありがとう」
「む?」
突然、楓は目を細めて空間の一点を見つめる。
どうしたんだ?急に。
「ふむ……迅雷……。 どうやら、君の夢に誰かが侵入してきたようだ」
「侵入って……前の彼岸みたいな術か?」
「いや……あれより、深部に行ける類いのものだ。 ふむ……これは、魔法だね」
「魔法……」
そう言えば楓はシロンさんと大学で友達だったんだよな。
そりゃ、魔法くらい知ってるか。
だから楓が魔法と発言しても驚かなかった。
「しかも、精神系の……ぐぅぅ!!」
「か、楓!!」
苦しそうに頭をおさえ、楓は苦しんでいた。
じたばたと暴れまわる楓を俺は必死に止めるが、流石は獣人。
力が違いすぎて、吹き飛ばされる。
「ぐぅぅぁぁぁ!!」
辺りに苦しみの声が響き、楓の姿は消えた。
「楓!!」
虚空に響く俺の声をよそに、上空から子供が降ってくる。
その子供はくるりと一回転し、地面にスタッと着地する。
「ふふっ♪ お待たせ、迅雷」
「えっ……レ、レオくん?」
しかしながら、普段と様子が違った。
なんでこんなにも禍々しく感じてるんだろう……。
「ふふっ♪ まさか、迅雷の中に別の魂が混ざってたとはね」
「なっ……!!」
「でも、安心して。 その魂は閉じ込めた。 もう、これで邪魔者はいない」
「レオくん?」
「そんなよそよそしく呼ばないでよ……レオって呼び捨てにして……迅雷……」
不気味に笑みを浮かべるライオンに、人間の僕は恐怖を感じた。
あの笑顔から見える鋭く恐ろしい牙をちらつかせる恐ろしい獣に。
「レ……レオ……?」
「えへへっ……これで、迅雷は俺様のものだぜ」
「その口調……って、まさか君が」
「そう、獅子座の使者……迅雷を拐った男さ」
「そんな馬鹿な!!」
「えへへ♪ 本当に覚えてないんだね……まあいい。 それでも俺様はお前を愛するんだぜ」
一瞬レオの顔は悲壮感あふれる顔つきになったが、すぐに笑顔になりペロリと舌を口から出している。
まるで獲物を捕らえた蛇のようて、俺は睨まれた蛙のように怯えるしかなかったんだ。
「さあ、迅雷……もう二度とお前を……」
ゆらりと俺に近寄る。
俺は前述の通り、蛇に睨まれた蛙のような状態だ。
体が硬直して動けなかった。
そして、まさにレオが俺に手をかけようとしたとき、ガシッとそれを掴み彼を投げ飛ばす者が現れた。
「誰だ!!」
レオの怒号にも怯まず、そこに凛として立っている狼の名は……。
「紅葉!!」




