表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼シェフと愉快なレストラン  作者: ただっち
第1部:水無月編
28/48

回想禄~【天海の陰陽師その10】

霊力を高める滝【忘れじの滝】。

 御山の力が溜まる場所……いわゆる、パワースポットだ。

 僕が全て使い果たしてしまった霊力を完全回復させるには、この滝に浸かる必要があるのだ。

 簡単な表記をするならば、ゲームとかでよくボス戦の前に回復の泉とかあるじゃん?

 要はあれなんだよね。

 とはいっても、今回はそんなゲームみたいに特定の場所にたどり着いたら敵がいない……だなんて言うご都合主義な展開は存在しない。

 

 「待てぇぇ!! 彼岸!!」

 

 兄弟子たちや、三将が追いかけてくる。

 水無月女史によって、彼らはきっと催眠状態にある。

 だから、冷血の狩狗は彼らを殺すことはできない。

 

 「ナイトさん。 絶対に危害を加えちゃダメだからね!!」

 「分かってるよ!!」

 「すみません……忘れじの滝まであと少しです」

 「あぁ、任せろ」


 冷血の狩狗さんは更にスピードを速くする。

 と、同時に森の木をいくつか倒し、道を塞ぐのだった。

 だがまあ、こんなのはほんの少ししか時間稼ぎにはならないだろう。

 しかし、その少しさえあれば……。

 

 「着いたぞ!!」

 

 こうして忘れじの滝に冷血の狩狗は着くことができるのだ。

 

 「ほら彼岸。 早く霊水へ」

 「はい!! 」

 

 僕は急いだ。

 兄弟子や三将が来る前に急いで霊力を回復させなきゃ。

 服を脱ぎ捨て、滝へとどうにか入り、僕は滝に打たれ始める。

 うん……少しずつだけど、回復している。

 けど……。

 

 「もっと早く……」

 

 僕は集中する。

 大気、滝、そして自身の内なる力に呼び掛ける。

 数多の聖なる力たちよ……。

 御山よ……。

 僕に力を……。

 みんなを助ける力を……。

 

 「彼岸!!」

 

 三将、そして兄弟子たちの怒号がこだまする。

 急げ……もう少し……もう少し……。

 

 「彼岸、来るぞ!!」

 「彼岸くん!!」

 

 冷血の狩狗や紅葉くんの声が聞こえる。

 あと少し……。

 ……。

 ……。

 

 「見つけたぞぉ!! 彼岸!!」

 「皆のもの、かかれぇ!!」

 

 三将の掛け声に、一斉に陰陽師たちは術をこちらに向けて放つ。

 流石に三将たちもあわさると、強力な術になっている。

 

 「紅葉!!」

 

 と、冷血の狩狗は紅葉くんをその術から庇うように覆い被さる。

 だがその心配はいらない。

 なぜなら彼らは【守護の結界】で守られているからだ。

 

 「なっ……!! なんだと!!」

 

 操られている兄弟子たち、そして三将は驚いていた。

 まあ、そりゃそうだろうね。

 たかだか1人の陰陽師によって数十人分の術を止められたのだから。

 

 「お待たせしました……」

 

 そう言ってザバァッと僕は滝から出た。

 おっと、そう言えば裸だったな。

 服着なきゃ。

 

 「おのれ、彼岸!! 我らの術を……!!」

 「兄弟子……そして、獄炎に珊瑚……」

 「「あぁ??」」

 「全方位陰陽術【蠱毒返(こどくかえ)し】」

 

 その言葉は光となって御山を包み込んだ。

 蠱毒返しとは以前、冷血の狩狗に使った薬による催眠状態の解除の術。

 云わば、解毒の術だ。

 そして、この山全域にそれを僕は発動した。

 つまり、この山にいる者は全ての催眠状態から解放されると言うことだ。

 バタバタと毒を身体から出された兄弟子や三将たちは気を失って倒れていく。

 どうにか間に合った……。

 

 「ナイトさん、もう大丈夫だよ」

 「ん? あぁ……すまない」

 

 結界内でぎゅーっと紅葉を抱きしめ守っていた冷血の狩狗の腕から解放された紅葉くんはぴょこんと耳を動かしぐぐっと身体を伸ばしている。

 

 「彼岸くん、これで水無月を……」

 「うん! 冷血の狩狗さん、お願いします」

 「分かった!!」

 

 こうして、冷血の狩狗は僕と紅葉くんを再び引き連れ、本殿へと向かうのだった。

 

 

 本殿は凍結されていた。

 氷に覆われ、そしてそこで儀式をしていた女も凍結されていたのだ。

 そのそばで、雷さんは吹雪様と何やら会話をしているようだった。

 僕たちはそこに合流した。

 

 「いやぁ……それにしても、吹雪殿……操られるなど情けない」

 「言い返す言葉もありません」

 「お陰で肺まで凍りついていて冷たかったですぞ」

 

 普通、その状態だと冷たいでは済まないはずなのだが……。

 

 「ふむ、彼岸くんたちの方も、無事に済んだようだね」

 「はい」

 「雷おじさん、無事だったんだね。 良かったぁ♪」

 「紅葉きゅん~心配してくれたのかな? おじさん嬉しいなぁ♪ さあ、このあと二人で布団の中で……」

 「やめろ」

 

 ゴツン、と冷血の狩狗の拳は神社内に響くような痛さの音を響かせたのだった。

 

 「吹雪様、他のみんなの催眠は解き、今は忘れじの滝に居ます」

 「えぇ。 あの解けた瞬間、私は陰陽術【蠱毒返(こどくかえ)し】の陣形が山を覆っていた事に気づきましたよ。 よくやってくれました……」

 「あと、僕……遂に、【破邪の法】が使えるようになりました!! それで、水無月は倒せました」

 「遂にやったのね、彼岸。 よくやりました……師匠として誇らしいですよ」

 

 吹雪様の優しい手が僕の頭を撫でた。

 ふふっ……撫でられるのいいよね。

 

 「さて、では……あの女をこの神社から追い出して、楓くんを探す儀を執り行いますか」

 

 そう言って吹雪様は、凍結した水無月女史を強制転移させようと札を取り出した。

 その札を当てれば、あの女はこの場から消える……。

 だが、それは叶わなかった。

 なぜなら、吹雪様の持っていた札は放たれた矢と共に彼女に突き刺さっていたからだ。

 それも、深々と……。

 

 「し、師匠!!」

 

 僕は倒れる吹雪様を抑えた。

 冷血の狩狗、そして雷さんは即座に臨戦態勢に入った。

 ひとまず矢を抜き、僕は吹雪様の傷を癒した。

 これくらいならば、余裕だ。

 

 「いったい誰が……」

 

 周りを見ると、水無月女史が以前連れていた執事たちがすっかりと周りを囲っていた。

 やつらの手には武器が持たれている。

 

 「水無月様をお迎えに上がりました」

 「ほう……ではさっさと……」

 「ええ。 その前に……」

 

 と、一人が水無月女史を覆っていた氷を割ったのだ。

 

 「ゲホッゲホッ……氷付けになるのはこれで2度目よ」

 「そんな、私の術を」

 「さて、ではこれで発動よ♪ 不倶戴天の舞ぃぃぃ!!」

 

 氷から出た水無月女史は、最後のひと躍りを終える。

 その瞬間、御山に満ちていた霊気、そしてこれまで楓さんを探すために溜めていた霊力が全て水無月女史に流れ込み始めるのだ。


 「うふふふ……あはは♪」

 

 こんな尋常な霊力は感じたことがない。

 なんだ、この途方もない邪悪な力は。

 

 「これで、これで……私は不死身になったのよぉ!! ではまず、手始めに……」

 

 そう言って水無月女史は助けに来た執事を次々と殺した。

 彼女が手を振りかざすと、彼らの内臓が次々とぶちまけるれたのだ。

 

 「遅かったから、お仕置き♥️」

 「なんてことを……」

 「さてさて……お楽しみはこれからよぉん♪」

 

 水無月はまるで指揮をするかのように手を振り上げると、忘れじの滝で気を失っている兄弟子たち、そして三将がそれに呼応するかのように引き寄せられたのだ。

 山積みにされた彼らの上に、水無月女史は立つ。

 まるで玉座に座る女王のように。

 

 「さあて……この子達……新たなる化け物になって私に服従しなさい……」

 

 禍々しい霊力が兄弟子や三将たちに注がれ、彼らは邪気に満ちた存在へと落とされたのだった。

 

 邪気に身を侵された陰陽師たちは、みるみると邪悪な色に染まっていく。

 水無月女史が彼らの肉体に流し込んだのは、死者の怨念……それも、最悪な罪人たちの負の感情だ。

 不倶戴天の舞は、怨みを残して死んだ罪人たちを甦らせ、新たな身体を与える儀式。

 つまりは、あの兄弟子たちはもはや肉体を捧げられた生け贄……。

 そして、憑代(よりしろ)なのだ。

 そうなってしまえば……もはや、人とも獣人とも言えない存在に落とされる。

 すなわち、正真正銘の【化け物】にされるのだ。

 

 「いやぁぁぁ!! みんながぁ!!」

 

 あまりの光景に狼狽する吹雪様は、軽く錯乱状態になっている。

 雷さんは、そんな師匠の首筋に軽く一撃を入れ、彼女を眠らせた。

 

 「流石にこの光景は、もう2度と見たくはありませんでした……」

 「雷さん?」

 「彼岸くん。 よく聞け。 今ならまだ彼らを救える」

 

 そう言って雷さんはギロリと水無月女史を見る。

 

 「あらあら、(ライ)さん……まさか、不倶戴天の舞の解除方法をご存知なのかしら?」

 「その質問には答えない……けど、今にお前の出鼻をへし折ってやると言うことだけは言っておこうかな」

 「ふふっ……負けず嫌いですね。 さあて、化け物どもよ……紅葉くんを私の前に連れてきなさい……その子は私のペットにするのですからね」

 

 水無月女史の号令に、化け物たちは一斉に動き始める。

 ゆらりゆらりと、まるでゾンビのように動き、獲物を狙う。

 

 「バカ弟子。 今度こそ守れよ……楓くんとの約束だろうに」

 「ええ。分かっていますよ、師匠。 彼岸のお陰で解毒できなかった薬品も消してもらいましたからね」

 

 そう言ってしっかりと紅葉くんを抱き上げ臨戦態勢を冷血の狩狗は取っている。

 

 「雷さん!! 僕はどうすれば!!」

 「君は獣人陰陽師だ……とすれば、やることはひとつだ。 彼らを祓え……それが、君の仕事だ」

 「魂の浄化……ですね?」

 「そうだ。 邪気に侵された陰陽師たちより高い霊力を持つ君にしか出来ないんだ」

 

 となると……またあの【破邪の法】を使うしかないのか?

 いやでもあれは……。

 

 「おっと……破邪の法を使ったらダメだからね。 あれは、邪気を全て消滅させる術……そんなことしたら、彼らはあの水無月のように消されるからな」

 「はい……心得てます」

 

 破邪の法は文字通り、邪を滅する方法……今の兄弟子たちに使ったら、彼らごと消滅させかねない。

 ならば、一人一人祓うしかないのか。

 面倒だが……やるか。

 

 「守護の結界よ、皆を留めよ!!」

 

 僕は邪なるものに落ちた彼らを結界で封じ込める。

 守護の結界はなにも、自分達を守るために使わなくても良い。

 このように、捕縛する用に使うこともできる。

 

 「"邪なる者たちよ、森羅万象の(ことわり)を受け、自然ならざる魂との決別を……"」

 「ふふっ……それは、だめね。"邪なる者たちよ、森羅万象に逆らう気高き罪人よ、閻魔の言の葉をすり抜け……"」

 

 水無月は僕の陰陽術に対して、全く逆の術をわざと詠唱し、僕の浄化の術を相殺させていた。

 くそ、負けるか!!

 

 「"邪なる者たちよ、英知に授かりし水面へと沈む月光を受け、その身を浄めたまえ"」

 「"邪なる者たちよ、怨念に満ち溢れし魂に新たなる肉体を捧げよう、その身を侵したまえ"」

 「"理に抗いし魂よ、消えよ"」

 「"理に抗いし魂よ、宿れ"」

 

 聖なる光と邪悪なる光が、守護の結界に向けて衝突する。

 僕の方には祓うことが出来た兄弟子たちが、水無月女史の方にはより黒く染められた兄弟子たちが。

 白と黒……この力は対等にぶつかり合っている。

 

 「みんなを助けるんだ!!」

 「あははっ♪ 無駄よ♪」

 

 怨念のどす黒い力が次第に侵食していく。

 物量が違いすぎる。

 怨念の力が……!!

 

 「彼岸!!」

 「くっ……」

 

 強すぎる……。

 人間の怨念って、ここまで強くなるのか。

 

 「兄弟子たちを助けなきゃ……」

 「無駄よ♪」

 

 水無月女史は次々に兄弟子たちに邪悪なる魂を注いでいく。

 やめろ!!

 やめてくれ!!

 これ以上、入れ込まれたら……祓えたとしても廃人になってしまう!!

 

 「あはは♪ さようなら……未来あった獣人陰陽師の皆さん」

 「やめろぉぉぉぉ!!」

 

 その声は届かない。

 僕の兄弟子たちは、三将は……邪気に完全に飲み込まれてしまったのだった。

 もう、こうなったら……廃人になってしまってもいい。

 僕は彼らを祓う。

 命は救う。

 この罪は背負おう。

 

 「もういいや……もういいんだ……」

 

 こうなったらやけくそだ。

 もうどうなってもいい。

 もういい……なにもかも……。

 もういいんだ……。

 その日、僕の育った神社は無くなった。

 その日、僕と一緒に過ごしていた獣人たちは、獣人陰陽師としての存在を亡くした。

 その日、僕は泣きながらやけくそになった。

 業火に包まれる神社、邪悪な者に取り込まれた獣人。

 それを泣きながら僕は打ち祓う。

 思い出の場所も、思い出の人たちも……みんなみんな。

 例えこれで彼らが廃人になろうとも……。

 

 「さようなら……」

 

 その言葉は重く辛く残酷な現実を醸し出していた。

 みんなの思い出は今となっては塵となって消え去る。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 僕は退魔の札を持って水無月女史に立ち向かう。

 この惨状を引き起こした者に。

 この事件を生んだ、あの女に……。

 

 「きゃははは♪ 彼岸ちゃん、いいわねその表情……素晴らしいほどの顔よ」

 

 あの女……あの白衣を着た女……。

 水無月と名乗ったあの女は、絶対に許さない。

 

 「まて、彼岸!! 先走るな!!」

 

 僕を止めようとする冷血の狩狗の声は僕には届かなかった。

 

 「彼岸!! やめなさい!!」

 

 僕に命令をする雷さんの声も届かなかった。

 

 「彼岸くん!!」

 

 ピタッと、僕は怒りに任せ自暴自棄になっていた動作を止め、声の方へと歩み寄る。

 

 「紅葉……くん」

 「あ、良かった……彼岸くん」

 

 声の主は僕と同じ年なのに冷静すぎる知性を持っている尊敬すべき友である狼獣人の紅葉だ。

 紅葉は僕に近寄り、ギュッと後ろから抱きしめ涙を流していた。

 

 「こ、紅葉!?」

 「彼岸くん……ダメだよぉ……怒りに任せて、自暴自棄になったら……だめだよ……もう誰かを失いたくないんだよ……」

 「紅葉くん……」

 「ふん、ガキ……よくも、よくも邪魔を……せっかくの楽しい絶望シーンなんだから、邪魔しないでよ。 お前をペットにするのはやめだ……兄と同様に殺してやるよ……!!」

 

 ピタッと、水無月はその喋りを止める。

 それはそうだ。

 大気が震えるほどに、あの人の怒りは漏れているからな。

 

 「おい……水無月……今、何て言った?」

 

 あんなにもドスの効いた声で、あんなにも強烈な殺気を放てるだなんて。

 流石は伝説の殺し屋【冷血の狩狗】。

 末恐ろしい。

 

 「ふふっ……へへっ……あははははっ♪ 流石は、検体01号。 素晴らしいね……流石は、あたしのダーリンが求めた獣人ね」

 「黙れ……お前の……お前らのくだらない研究のせいで、楓は……」

 「あははははっ。 ゴミ虫が、いくらほざいても、なんにも……」

 

 グチャ……っと、まるでトマトのように水無月の顔面は潰れた。

 というか、潰された。

 すごい勢いで飛んでいった岩が、彼女よ顔を押し潰し、貫通して彼方へと飛んでいった。

 

 「ふぅ……ふぅ……」

 

 怒りに満ちた顔をした雷さんは、投石ならぬ投岩をしたのだ。

 その辺に埋めていた庭石を引っこ抜いて投げたらしく、近くにはぽっかりと穴が開いていた。

 いや、それにしたって……あのサイズの岩を抜いて投げるって、どんな力だよ。

 

 「楓くんをバカにすることは許さない……そして、あの子が命を懸けて守り抜いた我が天使……いや、紅葉を悪く言うこともな……万死に値する」

 

 今、紅葉の事を天使って言ったか?

 き、気のせいだよね?

 

 「さあ、彼岸くん!! 今のうちに、封印を!!」

 「いいえ……滅します!!」

 

 僕は天に向かって札を5枚投げつける。

 札たちは、まるで吸い寄せられるかのように5ヵ所に展開し、光を帯び始める。

 

 「"我が名、彼岸の名の元に命ずる。 命の火よ、命の水よ、命の木よ、命の土よ、命の光よ……邪なる者に永遠の裁きよ……輪廻より外れし者に永久なる終わりを……"」

 「あははははっ!!」

 「!!」

 

 グニャッと気持ちの悪い体勢で、顔のない……いや、顔が潰されたはずの死体は起き上がった。

 そして、みるみると顔が生えていく。

 そんな、ありえない。

 

 「うふふっ……あははは♪ 残念ね……」

 

 そう言って、水無月はペッと口から血を札に向かって吐き付けた。

 すると、みるみると白かった札が黒く染められ、灰となってしまった。

 

 「うふふっ……残念ながら、もはやあたしは不死身で最悪で最強な生き物になっているのよ」

 

 邪悪な笑みを浮かべ、水無月は笑う。

 笑う……笑う。

 

 「あはぁ♪ じゃあ、ほら彼岸くん……もう一人、残ってるし……きちんと、絶望しようね♪」

 

 そう言って水無月女史は吹雪様に向けて邪気を放つ。

 次第に守護の結界さえも貫き中に侵食する邪気だが、ピタリとそれは止まった。

 

 「あら? なによ、なんなのよ!! ほら、さっさとそこのバカ狐を侵すのよ!!」

 

 水無月女史は気づかないのだ。

 邪気は……邪気の元になっている魂たちは震えているのだ。

 これからされることにな……。

 

 「くそ、なによ怨念ども!! なんなのよ!!」

 「水無月、気づかないのかい?」

 

 雷さんは哀れそうに水無月女史に言う。

 残念そうに、ざまあみろと言わんばかりの顔で。

 

 「はっ!! なによ、今さら……」

 「上を見てごらん……水無月」

 

 そう彼が促し上を見る水無月が見たのは、12体の式神たちが舞っている様子だった。

 

 「なっ……!! なによ、あれ!!」

 「陰陽術奥義【破邪の法】……さようなら、水無月女史」

 

 その瞬間、水無月には聖なる光が差し込みその身に宿した邪悪な魂たちはみるみると浄化されていく。

 

 「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!」

 

 彼女の持っている不死身の力は所詮は霊力による異常な回復力があってのもの。

 そんな彼女の力は今失われていく。

 もはや、羽をもがれた虫だ。

 そして……。

 

 「あぁ……ぜっがぐ、ぜっがぐ得だぢがらが……」 

 

 見た目も老婆のような姿になった。

 白髪に老けたしわくちゃな顔。


 「水無月女史、もうまもなく君は老衰で死ぬ……それが、不倶戴天の舞で得た力を失った代償だ」

 

 残酷にも雷さんからそう告げられた水無月女史は、涙をこぼす。

 わめく。

 無様にわめく。

 

 「い、いやばぁぁ……まば、じにだぐない」

 

 地に這う。

 泣きわめく。

 わめく……わめく。

 先程までの美貌も、先程までの余裕も、先程までの命に対する考えも……なにもかも今の彼女にはなかった。

 

 「いやぁぁぁぁ……ぁぁ……っ……」

 

 そして水無月女史は、その肉体の老化に伴って息を引き取ったのだった。

 なんというか、呆気ない死だったと思う。

 あんなにも他人の命を弄んだ女は、自ら死を招き入れたのだ。

 本当に……呆気ない死だった。

 こうして多くの者を巻き込んで、メチャクチャにしたのに彼女は、その責任をなにも取らずに無責任に死んだのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ