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狼シェフと愉快なレストラン  作者: ただっち
第1部:水無月編
27/48

回想禄~【天海の陰陽師その9】

邪悪な触手は僕たちを絡めとることは出来なかった。

 何故ならば、僕が【守護の結界】を展開しているからだ。

 

 『あははっ♪ 死ねぇ死ねぇ死ねぇ♪』

 

 触手たちは一斉にこの結界を破壊しようと鞭のように攻撃を続ける。

 しかしながら、こんな巨大で破壊的な攻撃にさえ結界はびくともしない。

 

 「流石だね彼岸くん。 つい先程の神社で見たものより、密度が濃く頑丈だ。 これならば、暫くは持つな」

 「でもどうするんだ師匠。 今の水無月に物理攻撃は厳禁なんだろ?」

 「うむ。その通りだ。 邪気に対しての物理攻撃はご法度……あの邪気には陰陽術で対抗するしかない」

 「じゃあ師匠が……」

 「いいや。 今の私ではあれほどでかくなった邪気は無理だ……だからこそ、だからこそ彼をつれてきたのだ」

 

 そう雷さんは僕を見つめる。

 まあ、でしょうね。

 と言う状況だった。

 

 「でも、あれほどにでかいとなると、よほど強力な術じゃなきゃ無理ですよ」

 「あるだろ……陰陽術奥義【破邪の法】が」

 「確かに破邪の法なら、確実にあれを倒せる……」

 

 けど、僕はその術を使うことができない。

 否、成功したことがないのだ。

 何度も何度も挑戦した。

 そして、忘れじの滝で霊力を上げて挑戦もした。

 でも、発動できなかった。

 あの術には12体の式神を召喚する必要がある。

 だが、僕がこれまで出せたのはギリギリで11体が限度。

 しかも、11体目を召喚したら霊力を使い果たしてしまい、僕は気を失ってしまう。

 この状況下では、それは最悪の事態だろう。

 

 「雷さん。 僕には……」

 「できるよ!!」

 

 ガシッと僕の手を掴んで紅葉くんは言った。

 力強く、そして暖かい。

 先程まで捕らわれ苦しめられていた子供とは思えない程に、彼は優しさで満ち溢れていた。

 

 「紅葉くん……どうして……どうして君は……僕は君を守れなかったのに。 どうして僕なんかを……」

 「信じるよ!! だって、彼岸くんは友達だもん!! それに、彼岸くんが頑張ってたの見てたもん!! 大丈夫!! うまくいくよ!!」

 「紅葉くん……」

 「だから、できるよ!! 彼岸くんなら、できる!!」

 

 こんなにも力強い言葉を僕は友達から初めて聞いた。

 いいものだね……友達って。

 

 「分かった。 やってやろうじゃん。 獣人陰陽術奥義【破邪の法】を」

 

 僕は懐から儀式用の札を12枚取り出した。

 そして、指を噛み自身の赤い血で札にそれぞれの印を記していく。

 赤々とした文字の羅列は、やがて札と共に光を帯び始めるのだ。


「式神【(ねずみ)】」

 「式神【(うし)】」 

 

 十二支の神を象った式神は、僕の呼び声に呼応するように召喚に応じる。

 ここまでは全然楽だ。

 ここまでは……。

 

 「式神【(とら)】」

 「式神【うさぎ】」

 「式神【(りゅう)】」

 「式神【(へび)】」

 

 くそっ……だんだんきつくなってきた。

 

 『あははっ♪ 無駄無駄ぁ♪』

 

 外では激しい破裂音がでるほどの触手の猛攻がこちらに向けてなされている。

 が、守護の結界はまだ破られない。

 

 「式神【うま】」

 「式神【(ひつじ)】」

 「式神【(さる)】……はぁ……はぁ……」

 

 ここまでで9体。

 あと、3体だが……結界の方にも意識を回しているため、中々次に繋げられない。

 

 「はぁ……はぁ……」

 「彼岸くん!! 頑張って!!」

 「はぁ……はぁ……うん!!」

 

 紅葉くんは、僕のことを必死になって応援してくれた。

 こんなにも小さく、こんなにも優しい友達を僕は今度こそ守って見せる。

 

 「式神【(とり)】……はぁ……はぁ……」

 「あと二体……彼岸頑張れ!!」

 「彼岸くん、すまない……頑張ってくれ」

 

 冷血の狩狗や雷さんも応援してくれている。

 さあ、ここからだ……。

 手が震える、足も震える、身体は軋むし、目も霞む。

 正直、立っているのさえやっとだ。

 

 「はぁ……はぁ……くっ……式……神……【(いぬ)】……うっ……」

 

 やばい、倒れる。

 

 「しっかり、彼岸くん!!」

 

 地に落ちかけた僕を紅葉くんと冷血の狩狗は持ち上げ支えた。

 

 「彼岸くん、僕やナイトさんが支えるから!!」

 

 そう言って紅葉くんは僕の身体にぎゅっと抱きついてきた。

 冷血の狩狗も、力強い程にがっしりと僕の身体を支える。

 

 『ほら、油断しなぁぁぁぁぁい』

 

 そう言って水無月の触手は守護の結界に向けて一点集中で攻撃してくる。

 その衝撃で結界にひびが入ってしまう。

 あれではもう、次はあの攻撃を耐えることができない。

 

 「彼岸くん。 結界が破られた場合、致し方ないがあれを物理攻撃で弾き返すからな」

 「はい……よろしく、お願いしま……す」

 

 雷さんは結界の状態を悟ってくれた。

 そして、その時の対処まで提示してくれた。

 もう、僕がやるのはあと1体の式神を呼ぶこと。

 薄れいく意識の中、最後の札に僕は力を込める。

 こんなやつ、早く倒して吹雪様のところへいかなきゃ。

 みんなを……神社の仲間たちを、三将の二人を、雷さんを、冷血の狩狗を……そして紅葉くんを守るんだ。

 

 「式神【いのしし】……しょうかぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 全身から血が滲み出し、身体は震え、意識もギリギリだ。

 だが、僕はやり遂げた。

 式神12体同時召喚を。

 

 『感動のところ悪いけど……バイバーイ♪』

 

 そう言って放たれた水無月の触手は守護の結界をぶち壊して僕たちに振り下ろされたのだった。

 しかし、触手は僕たちには届かなかった。

 召喚した12体の式神がそれを止めていたからだ。

 

 『生意気なぁぁぁぁ!!』

 

 水無月は別の触手で応戦しようとするが、彼はすぐさま異変に気づいたのだ。

 式神たちの防ぐ触手が浄化されていっているのだ。

 

 『なんだぁぁ!!』

 

 水無月が驚き、少しだけ後ろに身を引くと僕たちを襲った触手は完全に浄化されたのだった。

 その瞬間、まるで世界全ての時が止まったように、水無月も紅葉くんもなにもかも全てが静止した。

 

 「み……みんな?」

 

 不思議と先程まで動くことさえも辛かった身体は、普段通りに動くようになっていた。

 そして僕の周りには12体の式神がひざまづいていたんだ。

 

 『汝、12体の我らを呼び出した新たなる主よ……』

 「喋った……!!」

 

 本来、式神は喋らない。

 悠々と、こちらの命令をこなすだけだ。

 だが、式神【子】は確かに喋ったのだ。

 

 『我らを呼び出した新たなる主よ、汝何を望む……』

 「それは決まっている。 あの邪なる存在を打ち倒すんだ」

 『我らが主人よ……汝の祈り……聞き入れよう……』

 

 そう式神【子】が他の式神に合図すると、式神たちは消え、再び時間が動き出していたのだった。

 

 「今のは……」

 「彼岸くん、危ない!!」

 

 水無月の残っていた触手が僕に向かって襲いかかる。

 が、直後水無月の身体は、触手はピタリと止まるのだ。

 

 『な、なんだぁぁぁ!!』

 

 水無月が自身の身体を見ると、みるみると浄化されているのだ。

 

 『なんだよぉぉぉぉなんなんだよぉぉぉぉ!!』

 

 僕は周りを見回す。

 各方角。

 東西南北の要所に彼ら式神は配置していたのだ。

 そして、そこより光の道筋が伸びゆき、水無月を中心とした巨大な陣が描かれていく。

 

 「これぞ、獣人陰陽術奥義【破邪の法】……」

 『なにぉぉぉぉ!! こんなものぉぉぉぉ!!』

 

 水無月は光の道筋に向かって触手による攻撃を繰り返すが、その行為は逆に彼の……邪気の消滅を早める行為だった。

 光の道筋に彼の触手が当たるたびに、触手の邪気は光となって消滅する。

 まるでダイヤモンドダストような輝きと共に。

 

 「式神たちよ……我が願いを聞き入れ、邪なるものを滅せよ!! 奥義【破邪の法】!!」

 

 僕の号令と共に、式神たちからは一斉に水無月に向けて光が放たれるのだ。

 そしてその光は、水無月の身体を撃ち抜き、彼を消滅させたのだった。

 まるで朝日のような輝きを放ったその光がおさまるとき、あんなにも大きい塊は完全に消え去っていた。

 そう……僕は水無月を祓う事に成功したのだった。




 邪気の塊が消え、水無月グループのビルはすっかりと瓦礫となっていた。

 まあ、ほぼ水無月がやったことなので僕たちはなにもしていない。

 唯一したと言えば、最初の侵入時にちょっとしたものを投げ入れたくらいだ。

 車とか……ね。

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 流石に式神の12体同時召喚は身体に負荷だったらしく、僕は肩で息をするかのように呼吸が乱れ膝をついていた。

 

 「うむ。 彼岸くん、お疲れ様。 やはり、若い力は素晴らしいね……時として、奇跡を起こせるのだから」

 「あれ?師匠……師匠って何歳……」

 「バカ弟子ぃ……それ以上喋ると、お仕置きだぞぉぉ」

 「ひぃ!!」

 

 流暢な会話だな。

 

 「彼岸くん、やったね♪」

 「そうだね、紅葉くん……」

 「あ、雷おじさん」

 「ぬわんだい? 我が愛しき天使エンジェル、紅葉よ~」

 「神社の方に早く戻りませんか? 先ほどの事態から急ではあるんですけど、なにせ水無月(妻)が向かったということで、胸騒ぎが……」

 「うむ……そうだな。 もうすぐ夜明けだ。 ちゃっちゃとやることやって、楓くんの捜索をして貰った方が安心だろうからな……じゃあ、バカ弟子と彼岸くんはまた私が抱えて……それで、紅葉は……そうだな。 おじさんの服の中で胸にしがみついてくれるかな?」

 「あー、それって前にやった牛さんごっこですか?」

 「紅葉、しーっ!!」

 

 なんだよ、牛さんごっこって。

 そして、雷さんのあの慌てようと、顔が真っ赤になってるところをみると、絶対にヤバイことやってたんだろ。

 

 「ごほんごほん……さて、神社に向かうよ」

 

 ガシッと僕は来たときのように掴まれ、雷さんたちと共に大空へ跳ぶのだった。

 跳躍し跳躍すること数十キロ。

 僕たちは御山の入り口に到着した。

 毎回不思議なのは、あんなにも高く跳んでいるのにも関わらず、毎回雷さんの着地は静かなのだ。

 いやまあ、普通ならばクレーターとか出来てもおかしくないよなぁ……と思うのだけど。

 

 「さあ、つきましたよ皆さん」

 「んん?ついたぁ?」

 「ひ、ひゃん……!! こ、紅葉……胸に息が……」

 

 ドサッと僕と冷血の狩狗は雷さんの腕から落ちてしまう。

 急に放さないでくださいよ、といいかけたが……あまりにも雷さんがくねくねと身体をよじらせながら悶えてる姿が正直先ほどの邪気に満ちた水無月よりも不気味で気持ち悪かったので、なにも言えなかった。

 そんな中から紅葉くんはでてきたわけだけど……いや、なんかもういいです。

 はい。

 

 「ふんふん……!! なあ、急いだ方がいいかもしれねぇぞ!!」

 

 そう言って冷血の狩狗は徐に嗅いだ匂いに血相を変えて神社の方へと向かう。

 なんだ?

 なにが……。

 

 

 神社へと向かう境内。

 ここは、もはや地獄絵図となっていた。

 上る階段は、その壮絶な戦いを物語るかのような血で塗られていた。

 人間の血、人間の死体、人間の悪臭……。

 聖なる御山は、すっかりと汚されていたのだ。

 階段を登り詰め、神社へと辿り着くと、そこで僕は大きく目を見開いてしまう。

 それは、まさに完了しようとしていたからだ。

 不倶戴天の舞……その儀式が。

 

 「明鏡止……」

 「そうはさせませんよ」

 「!!」

 

 雷さんは瞬間、凍結させられてしまう。

 いや、まて。

 この規模で凍結することができる人なんて、この境内には限られている。

 まさか……。

 

 「おやおや、もうお帰りで……早いものね……彼岸」

 「吹雪様!!」

 

 そして、ぞろぞろと現れた兄弟子たち……三将に至るまで、明らかにこちらに向かって敵意を見せている。

 

 「ふふッ♪あははっ♪」

 

 水無月女史は笑いながら、舞を続ける。

 だめだ、これ以上は……。

 

 「おっと、彼岸。 動くな……」

 「吹雪様!! 何故です!! なぜあの女に……」

 「全ては、水無月様のご意志と共に……」

 「!! なにを……言って……」

 

 なんだこの感覚は。

 みんなの言葉と心が同調していない、この感覚は。

 

 「彼岸……ほら、あなたも……あのお方に霊力を捧げるのです。 そして、めくるめく素晴らしき世界を……」

 「ふん。 そう言うことか……」

 

 そう言って冷血の狩狗は僕と紅葉くんをすかさず抱えあげると、境内の外へと駆けたのだ。

 

 「おのれぇ!! 逃がすなぁ!!」

 

 吹雪様のそんな声が山中に響き渡る中、僕たちは森の中を進んでいた。

 

 「冷血の狩狗さん!! なにするんですか!! あの状態じゃ、みんなが!!」

 「だめだ。 今の消耗しきったお前では、無駄なんだ」

 「は?」

 「あいつらは、俺が打たれてた薬と同じものを恐らく投与されている。 なにせ、あの薬の匂いがしたからな……」

 

 冷血の狩狗が急いだ方がいいかもしれない……と言ったのはもしかして、その薬の匂いがしたからか?

 その薬を使われたらどうなるか……身を持って一番知っているものな。

 

 「じゃあ、みんなは洗脳……」

 「というより、軽く催眠をかけられてるんだろ。 考えてもみろ。 そうでなきゃ、自分の師匠が弟子を襲ったりはしねぇよ」

 「うん……そうだね、そうだよね。 って、今どこに向かってるの?」

 「お前の霊力を無理矢理だが回復させる。 そうすれば、お前はあいつらを解放できるだろ?」

 「でも、霊力を回復させるだなんて……あ!忘れじの滝!!」

 

 そうだ。

 忘れじの滝ならば、今のこの状態から治すことができる。

 なにせ、霊力を高める力を持つ水だ。

 あれにさえ、浸かる事ができれば……。

 ただ問題が……。

 

 「待てぇぇ!!」

 「水無月様に身を捧げろ!!」

 

 迫る追っ手をどうすればいいのか……と言うことだ。

 少なくとも僕の捕縛には、兄弟子たちでは務まらない。

 ということは。

 真っ先にやって来ているのは、今先ほどの声の主、三将【獄炎】と三将【珊瑚】だろうな。

 それに……不倶戴天の舞も急ぎ止めなければ、御山もみんなもなにもかも汚されてしまう。

 そんなの、絶対に嫌だからね。

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