R:1 ハルカゼの始まり
Rはリアルの意。
SIDE:ハルカゼ
「兄ちゃん……。わかっとんやろぉ……? 自分が何したかをよぉ……?」
「…………」
断じて意思が固く口を閉ざしているわけではない。単にビビって声が出ないのだ。ヤクザよりも恐ろしいと噂される取調室の強面刑事の面にはどこで付けたんだその傷と聞かずにはいられないほどの切り傷が額に刻まれている。
しかし蛇に睨まれたカエルよろしくガタガタと身を震わせ己の矮小さに打ち震え、無実の潔白を証明するだけの声を出すことすらできないボクはただただ青ざめた顔でドラマのセットだと信じたいこの取調室という空間で夢ならはよ覚めてと心の中で叫んでいた。
「いいかげん、話してくんねえかなぁ?」
「ななななにをですか?」
ビビリの心臓が声を震わせバグを起こした音声データのような音を出した。唇の震えが過去最高を余裕で超えている。
「そりゃ、おめえ。兄ちゃんがやったことだよぉ。……詐欺の電話、かけてたんやろぉ?」
「…………」
やってないやってないやってない! 心の中で叫んだ想いを口に出して叫びたい。けど眼の前にそんな言葉は許さんぞとばかりに鬼の形相が視線を揺らがせることすら許してくれない眼圧で超重力のような重さを肌がピリピリするほどのプレッシャーで押し寄せてくる。
「だんまりかあ。じゃあ話を変えようかあ」
「っほ」
っと息を吐いたのも束の間。
今度は予期せぬ言葉が浴びせられることになる。
「君のパソコン。調べさせてもらったよ」
「……はい?」
隣にいたインテリよろしくな高身長、伊達男はメガネをピカリと光らせて俺の前へと座った。まるでドラマのワンシーン。んん。少し息苦しさが溶けてきたように感じる。
「君、ロリコンだよね」
息が詰まった。
「PCの中には随分とエッチなものが入っているじゃないか。ダメだなあこんな学生は」
「ちょちょちょちょ! ななな何を言ってんですか意味がわからんですよこれは!!!?」
急に何を言ってんだこの優男! とばかりに食って掛かりそうになる。いやしかし待って欲しい確かにパソコンの中にはいろんな趣味趣向性癖多様文化があるにはあるが、犯罪まっしぐらなものがあったとしてマジモンのいわゆるリアリティ溢れるものなんて一切ないし手を出したことなんてないしましてや予備軍なんて呼ばれるほどのもんでもないしぃ!?
「パソコンの中にあったのは。ロリ幼女集と、逆レかあ。業が深いなあ君は!」
うっせわかってんだよ最近ちょっと精神参ってたから色々とストレス発散に危なっかしい二次元エロで妄想膨らませて精神安定保ってんだ苦学生なめんじゃねえぞ! けど別に俺はロリコンじゃないしドエムでもなくてただたまたま最近の収集がそうなってただけで。
「ロリコンでドエムか。救いようがないな君は」
ぷつんと何かが切れるとともに―――夢から覚める。そして叫んでいた。
「俺はロリコンじゃねえええええええ!!!!」
ガバァ! と、全力疾走したあとのように息を切らせて起き上がった。ベッドの上から。
「はあ、はあ、はあ……! ………あれ?」
警察署どころか病院のようなベッドの上である。いつの間にか頭のおかしい人間認定されて隔離でもされたかなと少しずつ冴えてきた脳みそをフル回転させて思考を進める。
「なんだよ……夢か」
よかったぁあああああ。と白いシーツにぼふりと身を埋める。どこのシーツだろう。匂いも花のようでふんわりとした肌触りだ。いや、どこもよくねえよここどこだよ。
ふたたびの上体起こしで、近くに人がいることに気がついた。
おそらく俺の声で驚かせてしまったのだろう。長い赤い髪に白衣をきた女性らしき人物は、耳を塞いでその身をダンゴムシのように丸めて全力で守りを固めて時折ビクビクと身体を震わせていた。
どこだかもわからないけど、起き抜けに発狂まがいの大声は確かに大迷惑だったに違いない。謝罪の念が押し寄せてきて「あの、すみませんでした」とだけ声をかけた。
すると声に反応した白衣の女がピタっと一瞬だけ固まる。その後にまるで付き物が落ちたように身体を広げ、シワを伸ばすように白衣をパパパっと払う。
そして何事もなかったかのように。
「ようこそ。あたしのラボへ。歓迎するわ、日本を追われた哀れな子羊ちゃん」
意味のわからない言葉を、まるでドラマのワンシーンの決めセリフのように言い放った。




