20 軌道衛星『ライブラ』
びみょーにながい
「ようこそ。あたしのラボへ」
パート2である。
管制室と書かれた部屋に入ると、待ち構えている白衣の女がいた。今回は立っている。
「……こんにちは」
「この度は一宿のお世話になりました。わたくしアリシア・ベル・ラインズベルトと申します」
アリシアがカノンよりも一歩前にでて、粛々とお辞儀をした。
「うーん。いいわね! 挨拶ができる子っていうのは非常にいいわー」
ちらりと含みを持った笑みがカノンに向けられた。渋々とそれに「カノンです。ありがとう……」と小声で返す。
「うん。まあ治療の件なんてどうでもいいわ。とりあえず貴女たちも聞きたいことが多いでしょう。実はあたしの方こそ聞きたいことだらけなんだけど、質問してくれていいわよ。あたしに答えられる程度なら、ね」
そう言って、宙に浮いている椅子に座った。眼の錯覚かとふたりが椅子を凝視していると、白衣の女がパチンと指を鳴らす。すると砂時計のような椅子が幽霊のようにふたりの前へと滑り込んだ。ぎょぎょぎょっとふたりは一歩引く。
「あ。そういえばこっちが名乗ってなかったわね。あたしはアスカ。ここの管理者よ」
と、白衣の胸元に付けられたカードのようなものを見せつけてきた。そこにはあるのはおそらく写真だ。
「管理者、さん。あの、まずここどこなの?」
「それを答えるには、あなたたちの知識から聞く必要があるわね。自分たちの国や大陸のことはわかるわよね?」
質問の意図がわからず隣同士で顔を見合わせる。こくりと頷いた。
「結構。星という概念についてはどうかしら?」
「……天動説なら信じている人はいないと思うけど」
「ええ。星、つまりわたくしたちがいる世界のことで、ほかに太陽や衛星があることについては『学び舎』で相応の知識を得ていますわ」
「うん。それなら話は早い。まずビックリさせて悪いけどね。ここはその星の外側、宇宙にある施設よ。そしてここは―――軌道衛生都市『ライブラ』よ!」
「…………つまり」
「…………この景色は、幻ではないと」
ふたりが辺りを見渡す。壁となるべき場所はすべてガラスのように透き通り、その先には外の世界が広がっている。
外の世界は黒く、暗い。そしてそのなかにいくつもの小さな灯りが見える。おそらくは、恒星だ。
星の海、銀河の河がそこにあった。
そして、ひときわ輝く青く、大きな星。おそらく一番近くにあるのだろうその星は、どこか『学び舎』の教科書で『絵』として見たことがある『我らが星』と似ているのだった。
「――――ん? つまりは、ここって空の上?」
「あー。言い方的には、それも合ってるわね。空の上は宙の上、宇宙空間よ」
「ってことは、ここに師匠がいるの!? いるんだったらいますぐ殴らせて欲しいんだけどっ!」
いろいろな情報に頭が錯綜し、おもわずポロっと汚い本音が顔を出す。
「あ。わたくしも」
アリシアがハイ、と手を上げると。
「あたしもあたしも」
「「え??」」
管理者、アスカも手をあげた。
「あー。まあ、あたしも殴りたい理由たくさんあんだけど殴れない。つまりここにアイツはいないわ」
「やはり、お知り合いなのですか?」
アリシアの問いかけにアスカが答える。
「そうね。あたしはアイツと知り合い。『同盟者』って言い方をしてるわ。このことは貴女たちにも関係してるけど。おそらくは、貴女たちをこの場所に転送したのは、アイツの仕業よ」
「……やっぱりそうなりますわよね」
「あら。その紙は新しい置き手紙なの?」
「そうですわね。って、置き手紙のこともご存知ですの?」
「まあね。貴女たちがカルマと戦っていたのも見てたわよ」
「……ええ。趣味悪い」
「ちょっと。露骨に嫌そうな顔しないでちょうだいよ」
「いやだって、見てたんなら助けてくれたっていいじゃないですか。割と本当に死ぬところだったんですよアレ」
カノンが首筋を撫でる。カルマに触れられた箇所には傷もないが、あのときの身体の芯にまで伝わるようなおぞましさ、不快感は根強く記憶のなかに残っていた。
「まあごもっともよ、その反応は。けどね、あたしは貴女たち、というか星の人たちに対して直接なにかしてあげることはできない。そういう制約があるのよ。いまはそれしか言えないわ」
「……貴女は、ここで何をなさっているのですか?」
少し黙っていたアリシアがおもむろに声を出した。
「なにを、ねー。まあ星の安定を保つよう努力しているってとこね。……うん、貴女たちの師匠についても関わることだけど、いまこの星は危機にあるのよ」
「危機?」
「そう。カルマの上昇値が異常な上昇値を示している。いまではアドラン大陸以外の大陸にはこのラボからの観測もできない状態が続いているわ。そして、だからこそ貴女たちの師匠の力を借りていたの」
「あ。『制約』によって動けないから?」
「そう。勘がいいわね」
ふふっと、カノンに向かい笑みを飛ばした。
「そうね。この際だから答えられることをまずは喋っとくわ。あなたたちの師匠、どこからきたかも本名も知らないわよね?」
「うん。そのへんは教えてくれなかった。あだ名は『ハル』だって言ってたけど、僕らは師匠って呼んでた」
「右に同じですわ」
「そ。なら答えるわ。……貴女たちの師匠。『桜木 春風』は、あなたたちの世界の人間じゃない。イセイ……いえ、『異世界』の『日本』に住んでいた人間よ」




