八章 『新入生トーナメント』4
『AコートとBコートの勝者による最終決勝戦は、この後30分後より予定しております。それまで暫くお待ちください』
アナウンスが入ると、観客席にいる生徒や保護者達が席を立つ。最終決勝戦に向けてトイレや食べ物を買いに行ったのだろう。
「桜はもう準備に向かうのかな?」
「そうですね。この勝負に負けるわけにはいきませんからね。少し気合いを入れに行ってきます」
「アリスが相手だもんね。頑張ってきてね!」
「1年生 初めての大会だ。全力出しておいで。僕は2人ともを応援してるけどさ」
「三津茅先輩、月見先輩。ありがとうございます!」
そういうと桜は立ち上がって行ってしまう。入学試験ではアリスに負けている桜なので、思うところがあるのだろう。かなり険しい顔をしていた。そこに、桜と入れ違うように飛鳥が戻ってきた。
「飛鳥ちゃんお帰り!準決勝、惜しかったね。「お疲れ様」
月見は労うように声をかけ、三津茅は席に迎え入れながらジュースとお菓子を手渡す。
「ありがとうございます。けど全然惜しくはなかったです……私が勝てなかった鬼嶋くんにもアリスは軽々勝ってて……私は……」
「悔しかったんでしょ?負けて悔しいのは当たり前だよ!自分より強い人なんて世の中にはたくさんいるんだ。むしろ1番なんてつまらないじゃないか!負けて悔しくて、次は勝つために練習して、策を考えて。悔しいってことは希望が見えてるってことさ。手も足も出なかったら悔しいだなんて思わないはずだよ。悔しいと思ったなら、頑張って次勝てばいいだけさ!!」
何かのスイッチが入ったのか、月見が熱弁しながら飛鳥の肩を掴んで揺らす。
「ちょっっ、先輩っっ、溢れるっっ」
「あ、ごめんごめん」
「けど先輩、分かりました!こんなことで諦めちゃダメですよね!!飛鳥やります!特訓します!!暁を手に入れるのは私です!!」
「そのいきだよ!!」
女子2人は固い握手を交わす。そういう話だったか……?と思いつつ、全然そのノリについていけない蓮は、会場を見渡す。
(試合だから一般人が多いのは当たり前だが、どうも今日は騒がしい奴らが多いな……それに凄いビリビリ固有能力の『危機察知』に引っかかる)
蓮の固有能力『危機察知』は自分か近親者に危機が迫ると直感的に察知できるものである。潜在的に危険性の高いところでは、微かに反応することも多いのだが、今日は比ではない。
それに客席を見ると、とてもではないが保護者に見えない方達もちらほらいる。新入生トーナメントを楽しみに見にきているとは考えにくいのだが。
(考えすぎか?今日は一般人の入場もあって警備も厚くなっているはずだ。もしものことが起きてもあっても対処してくれるはずだが……まあ準備をしといて悪いことはないか)
蓮は立ち上がって月見の肩を軽く叩く。
「ん?どうしたの?蓮」
「ちょっと荷物を取ってくるね」
「え、もしかして」
笑顔だった月見の顔が一瞬で、険しくなる。なぜ荷物を取りに行こうとしているのか、事情を察したようだ。
「大丈夫だよ。もしものためってだけだから」
「そう……何か気づいたらすぐにいってね」
「もちろんさ」
そう言って蓮は席を離れる。
「どうしたんですか?」
まだ蓮の固有能力の話を聞いていない飛鳥が月見に尋ねる。
「こういう時は悪い予感が当たるものなのよね……なにもないといいんだけど」
月見は能力の説明をしてから、そう付け足す。いままでにも何度かそう言ったか場面はあった。もちろん私に伝えてくれる時以外にもたくさん感覚に引っかかるような時はあるのだろうが、伝えてくれるような時はほとんどの場合で何かが起きる。
(それに本人は気づいてないようだけれど……蓮!あなたはかなり顔に出るんだよ)
さっき自分に声をかけた時の蓮の険しい顔を思い出す。
「飛鳥ちゃん、なにもないことが1番であるけど、もしもの時は自分の身は自分で守れるようにしておきなさいね」
「は、はい!」
(心配しすぎてもしかないし、私も準備だけしておくことにしようかな)
月見は自分の武器ホルダーのカバーの留め金を外して、いつでも取り出せるよう準備する。それから二人は再び、女子同士話に花を咲かせ、試合が始まるまでの時間を過ごした。
次はやっと暁かける!




