第0章 ダゴール村報告書
作:G榴蓮
第〇章 ダゴール村報告書
暗い雲に覆われた空のもと、みすぼらしく重厚そうな枯れた色の野良着を纏った人々が野良仕事をしている。
人の住む土地として神に与えられし大地の北限にあるグラム王国においても、北の辺境地域であるこのダゴール村では、何とか寒さに強い芋の類は育つものの冬の訪れはあまりにも早く冬支度をする農民たちの表情は真剣そのものだった。
出来が悪いが頑丈そうな家々の方では、若者たちが岩を積み上げ家の補強作業を行っている。豪雪地帯であるダゴール村では、この作業の良し悪しが生死を分けるほど重要な作業である。
作業の、リーダーであろうか。少し年嵩の若者が、一際背の高い他の若者に命令する。
「おいエッダ、岩が足りないんで持って来い」
エッダと呼ばれた若者は薄汚い野良着に身を包んではいたが、明らかに女性であった。童顔で、十台後半ではないようだ。仕事の、為か後ろ髪は二つに結んでいる。しかし明らかに他の男たちよりも頭二つは、大きな娘であった。しかしその体つきは、少女というより女性そのものだ。
エッダは、とぼとぼと村のはずれへと向かい、川原へとたどり着いた。そこで数分の間横座りで、川の流れを眺めていた。その表情は、力仕事ばかりの自らの身を嘆いているように見えた。
おもむろに立ち上がったエッダは、男の胴回り四つ分はあろうかと思われる岩を軽く持ち上げる。その動作には、何の躊躇いもなか
った。どれだけ体が出来ていようと、道具も無しには不可能な行為だった。
男四人で担ぐほどの岩は、水汲みの女がよくするように頭の上で手に支えられ運ばれる。王国軍にでもいれば活躍間違い無しの怪力だ
った。ただその身のこなしは、女らしさに満ち溢れており、戦いなど出来そうにはない。
結局エッダは、十五往復ほど同じサイズの岩を運び、その日の仕事を終えた。
さらに、見ておかねばならない場所がある。
代官宅である。先代の代官ゴーダは、先月亡くなったばかりである。冬支度の最中であるため、本格的な葬儀は、春に執り行われることになっていた。ゴーダの妻は、すでに先立
っており、この家には一人娘がいるのみだった。名は、レジエータと言う。街にある神学校にも通い、村でも一番の知恵者。女性ながらも、次の代官になる可能性のある人物だった。
彼女は、村一番の二階建て石造りの屋敷にただ一人暮らしている。火の消えかかった暖炉のあるダイニングで、人形のように座っていた。しかし内面には、一本の芯が通っているようなそんな瞳をしていた。
レジエータは、ふらりと立ち上がり歩き始めた。寝床へでも、向かうのだろう。しかしその様には、儚さがあった。
そして次の朝も、いつもと変わらぬ冬支度のための一日が、始まるのであった。村の状況は、良いとは言い難い。指導者の不在が、村に及ぼす影響も大きいだろう。至急代官を、決定する必要性があると、ここに報告する。




