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消えたマスター 3
「ラル、もう仕事終わったか・・・?」
電話越しのカイの声に応えようとする前に、また声が返ってきた。
仕事中は、絶対連絡を取らないのは当たり前のルール。
時間的に終わっていたことはわかっていたんだろう。
俺は、うん。とだけ応えた。
ちゃんと、いつもの声で。
「・・・何か、あったか?」
ワントーン低くなった声が耳を通って脳裏を駆け巡る。
まったく・・。
この人は、どうしてこうも簡単に人の状況も心情も読み取ってしまうのだろう。
俺の電話に出た最初の声があまりにも情けなかったから、何かあったのだと感づいたんだ。
「大丈夫。仕事は完璧。
・・・でも、マスターが消えた。」
俺の思わぬ一言に、カイは黙った。
思考回路が止まったのか、もしくは既に頭の中で物事を整理しているのか。
珍しく、今のカイは前者だろう。
「・・・とにかく、今すぐこっち来れるの?」
俺の問いにはっとして、二十分程でそっちに着く。
とだけ言って電話が切れた。
。