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22(19) 迷いと羨望と決心



アキノエは自身の志願により、スカーレット家へ

向かっていた。今保安はエリーの行方を追うので手一杯なので、アキノエが直々に行なっていた。

この国は拘置所は存在せず、保安局本部に収容する場所がある。エリー容疑者は、所轄から本部への身柄送致の際に、ナイフを隠し持っており、それを行使して車での輸送の際に脱出をしたとのこと。保安の負傷者は3名出ている。なぜナイフを所持していたのか、その原因は単に保安の確認不足だった。やはり慣れていないのだろう。


目立つ保安の車や制服では、バレる可能性があるため、私服かつ電車から徒歩で訪れていた。

数分歩き、いよいよ端末のマップに移された住所

にある一軒家が見えて来る。門が開かれているため、迷わず敷地内に入ると、玄関まで行き、インターホンを鳴らす。

しかし、やってくる気配はない。


「またか…」


もう一度鳴らしても、人の気配すらしないのでおそらく不在だろうと確信したその時、端末の着信音が鳴る。部下からの電話だった。


「どうした?」

「エリーがそちらにいる可能性があります!」

「エリーが?私の近くか?」

「はい。電車でそちらに向かったとの情報が入りました。おそらく、今訪れている家の半径一キロ範囲にいると思われます」

「了解。捜索してみる」


部下からの予想外の情報に戸惑いつつも、冷静になり、今はエリーの行方を追うことを優先する。アキノエはすぐに家の敷地内から出て、捜索を始めた。





なぜ自分の家にこの女がいるのか、全く状況が掴めない様子のルナを見て、エリーは高らかに笑った。


「なんでここに…」

「あんたの住所、覚えておいてよかったわ。私、記憶力には自身があるもの」

「この方は、ルナの知り合いの方?」

「……うん。仕事の関係でね」


ルナは平静を装いつつ、警戒する。なぜここにいるのか、何の用があって来たのか、何となく予想はつくが、何よりもまずいのはここに母がいることだった。


「……私に何か用が?」

「当たり前じゃない。あんたが殺したんでしょ。あの四人」


ルナは怪訝な表情に変わる。


「こ、ころした…?」


母が戸惑いを隠せない様子で女を見る。


「なんのことです?」

「とぼけるんじゃないわよ。あんたが来てから立て続けに失踪した。どう考えてもあんたでしょ」

「だからなんのことです?殺した?失踪?なんのことか少しも検討がつかないのですが、冷やかすならさっさと出ていってくれます?」


これ以上の発言を許せば、最悪の事態に発展してしまう。ルナはすぐに話を終わらせ、この敷地から出ていくよう促す。

しかしエリーの浮かべていた笑みが消え、険しい表情へと変わっていく。直観的にこれはマズイと思った。

だが、あらゆる予測を立て、どう対策を講じるか頭を回し始めたその時、エリーはそのすべての予測になかったものを取り出した。


「!」

「ひっ…、!」


母がおびえた表情で後ずさる。懐から取り出したのは、真っ赤な血に染まったナイフだった。


「あんたがそういう態度なら、私も遠慮しないわ。私以上の生き地獄を味わってもらう」


この状況はまずい。現在母との距離は、ルナよりもエリーの方が近い。ルナはすぐに母の元へ走り出す。

そしてエリーはルナ……ではなく、案の定、母の元へ駆け出した。

母は恐怖で腰が抜け、その場にしゃがみ込んでしまう。ルナの元へ振り返り、手を伸ばす。

まるでスローのようにその光景を目の当たりにしていた。

しかし、考えを巡らせる中で確信した。この距離では、エリーの方が先に母の元にたどり着いてしまう。

もしそうなれば、エリーが母に何をするかは明白。その光景を想像した時、鳥肌が立ち、人生で一度も経験したことがないほどの、懊悩に襲われる。

時間がゆっくりと進む中、すでにエリーはナイフを天に上げ、母へと迫っていた。

その時、ルナは無意識に、ヘイヴンから貰った銃を懐から取り出した。一度も使用したことはないし、まさかこんな状況でとは思ったが、体は勝手に動いていた。

恐ろしい形相のエリーへ、銃口を向け、ルナは流れるように、引き金を引いた。


パァン!


静かな住宅街に大きな発砲音が鳴り響いた。その時スローの視界が弾けるように通常の速度を戻っていた。

いつも止まらない頭の回転が、今の瞬間は完全に止まったまま、体が勝手に動いていた自分に驚く。


「え…?」


その時、母の声で我に返る。そして改めて状況を確認した時、ルナは息が止まる。母は生きていた。だが、そこには変わりに額に風穴が空いたまま、事切れたエリーがいた。


「ルナ…?」


母は目の前に倒れた死体を、一目しルナの方へ振り返ると、手元にあったそれを見て、母は掠れた声で名前を呼んだ。


「あ……いや、これは…」


ルナはとんでもないものを母に見せてしまったと自覚し、即座に隠すように銃をしまうが、母はその途端、はぁはぁ、と呼吸が苦しくなったように、息を漏らす。そして駆け出すように家の中へと入っていった。


「お母さん…!」


すぐにあとを追いかける。

道に残されたエリーの遺体も、手にした銃も、今はもう頭になかった。ただ、母親に追いつかなければならない。自分が守ったはずの母親が、今度は自分を恐れて逃げていった。

その事実だけが、ルナの胸に重くのしかかっていた。


リビングに入っていく母親を追いかける。母は、震える手で幾つもの錠剤を取り出すが、うまく力が入らないのか、床に幾つも錠剤が落ちていく。そんなもの今まで一度見たことがなかったが、自分のように隠していたのだとすぐに察した。


「お母さん!」


それを一気に口に含もうとするので、大きな声を上げると、ハッと顔を上げ、こちらを見た。その目は恐怖よりも悲しみが滲み出ていた。


「は、はぁ…ごめんね、なんか最近寝不足気味でさ、変なものまで見えるようになっちゃった…」


今見た光景を幻覚と思っているようだった。それは、この銃の所持を言い逃れるのに都合がいいかもしれない。だが、今ここでごまかしに走れば、あの事を話すタイミングはもうない。


「お母さん……落ち着いて聞いてほしい」


深呼吸をしてから、意を決した。


「私と一緒にネヴェスターを出ていこう」

「……え?」


隠した銃をもう一度晒し、テーブルの上に置く。目の前の物騒な物と、ルナの衝撃的な発言により、信じられないといった顔だ。


「詳しく説明する時間はない。でも、これだけは単刀直入に言うね」


ルナは、テーブルの上に置いた銃から目を離し、母親を見据えた。


ヘイヴンなら、ここでうまく言い訳を組み立て、その後も裏で続ける犯罪を隠し通せるのだろう。どれほど追い詰められても、相手の反応を読み、都合のいい言葉を選び、必要ならば真実さえも巧みに利用する。だが、ルナにはそんな器用な真似はできなかった。これまで自分が何をしてきたのか、そしてこれからどこへ向かおうとしているのか、それらすべてを隠したまま母親を連れていくことなど、自分にはできないと思った。

だからこそ、正直に話すことにした。


「私は今、国に追われる身なんだ。この国に留まれば、お母さんにまで危険が及んでしまう」


正確に言えば、それは嘘だった。

娘の犯罪が明るみに出たところで、母親自身が何かをしたわけではない。捜査対象として事情を聞かれることはあっても、それだけで今までの生活を奪われるとは限らない。母親はこの家に残り、これまでどおり暮らしていくことだってできるはずだった。


それでも、ルナには母親を置いていくことなどできなかった。

この国に一人残された母親が、誰とも本心を語れず、亡くした夫と息子を思いながら暮らしていく。そんな姿を想像するだけで、胸の奥が締めつけられた。危険から守りたいという気持ちは、嘘ではない。ただ、それだけが理由ではなかった。自分がいなくなった後の母親を想像することが、何よりも耐えがたかったのだ。


「……どういうこと……?」


母親は、どうにか言葉を紡ぐようにしてルナに問いかけた


「まさか、ルナ……犯罪を……?」


「……ごめん。全部、私のせいなんだ」


その謝罪は肯定しているも同然だった

母親の頭の中は、たちまち混乱に呑まれた。娘が犯罪者だったという事実を、どうにか理解しようとする。けれど、何から考えればいいのかさえ分からない。目の前にいるのは、幼い頃から育ててきた自分の娘であり、ずっと信じてきたルナ・スカーレットだった。何かの間違いであってほしい。聞き違いであってほしい。そう願いながら、母親は一つ一つの言葉を頭の中で繰り返し、最後に残った事実だけをどうしても受け入れられずにいた。


テーブルの上には銃が置かれている。


この国では、一般市民が銃を所持することなど認められていない。事情がどうあれ、これを持っているというだけで、ルナがただの善良な市民ではないことは明らかだった。


「そんな……そんなはずは……」


母親は首を振り、口元を押さえた。


「ルナは良い子なのよ。ルナは……」


「私は、ずっと良い子なんかじゃないよ」


ルナは静かに否定した。


「数年前に、人間ってこういうものなんだって気づいたの。そのときから、私の中にある欲求が芽生えた」


脳裏に浮かんだのは、会社に就職したばかりの頃のことだった。

最初は、ただ人間というものが醜く見えただけだった。誰もが自分の利益を優先し、都合が悪くなれば他人を切り捨て、正しさを語りながら平然と誰かを傷つける。そんな光景を目にするたび、人間とは所詮こういうものなのだと、ルナは自分なりの答えを出していった。


だが、いつしかその考えは、単なる失望では済まなくなっていた。小さな不満から始まったはずの闇は、気づけば自分の中で膨れ上がり、生きる理由と呼べるほど大きな夢になっていた。


そして今、ルナはその夢を実現するために、取り返しのつかない場所まで来てしまった。


「私は、あの頃からずっと大悪党だったんだよ」


そこにいたのは、自分が知っているはずのルナだった。けれど、その表情の奥に何があるのか、今まで考えたこともなかった。母親の知らないところで、娘は何かを考え、何かを望み、何かを積み重ねてきたのだろう。その果てに、目の前の銃があり、先ほど玄関で起きた惨劇がある。

母親が見ているのは、娘の変わり果てた姿ではなかったのかもしれない。

今までずっと、見えていなかった娘の本当の顔だった。


「こんな私についてくるのは、苦痛かもしれない。犯罪に加担することになるかもしれないし、この国を出たら、今までみたいな穏やかな生活だってできなくなると思う」


母親に手を差し伸べることが、どれほど身勝手なことなのかは分かっていた。自分の犯した罪を打ち明けた直後に、その罪を抱えたまま一緒に来てほしいと頼んでいるのだ。母親に選ばせているようでいて、本当は、自分のそばにいてほしいという願いを押しつけているだけなのかもしれない。

それでも、言わずにはいられなかった。


「でも、お母さんだって、本当はこの国が憎いんじゃないの?」


母親の顔が苦しげに歪んだ。今にも涙が溢れそうだったが、何かを言い返すこともできず、ただルナを見つめている。


「お父さんとお兄ちゃんを死に追いやった、保安や政府の連中が憎くて仕方がないんでしょ……?」


本当は、母親がこの国をどれほど憎んでいるのか、ルナには分からなかった


夫を失い、息子を失い、それでもこの国に残って暮らしてきた母親が、何を思い、何を諦め、何を心の奥にしまい込んできたのか。ルナは、それをすべて知っているわけではない


それでも、今は言う必要があった


「私は、奴らが支配するこんな大きな箱の中で、同じ空気を吸って生きていくことが苦痛なんだ」


それは母親の気持ちを代弁する言葉ではなく、ルナ自身の本心だった。

国という巨大な箱の中で、決められた秩序に従い、決められた正しさを受け入れ、何事もなかったかのように生きていく。父を失い、兄を失い、それでも何も変わらないこの国で、ルナはもう以前のように息をすることができなかった。


「明日には決行する」


ルナは、ゆっくりと手を差し伸べた。


「厚かましいことを言ってるのは分かってる。でも、私はお母さんのそばにいたい」


差し出した手が、わずかに震えていた。


「お願い。私を信じて、一緒に来てほしい」


それは、母親を救うための誘いであると同時に、ルナ自身が母親にすがるための懇願でもあった。どれほど大きな夢を抱き、どれほどの罪を重ねてきたとしても母親だけは、まだ失いたくなかった。


母親は、差し伸べられたルナの手をじっと見つめていた。やがて、その頬を一筋の涙が伝う。


「この国が憎いよ」


震える声で、長い間胸の奥にしまい込んできた悲しみが、ようやく言葉になったようだった。


「家族を二人も地獄へ送り出して、無事に返すこともなく……頭だけ下げて、何事もなかったみたいに帰っていく連中を、許せるわけがない」

「……じゃあ」


ルナは、さらに手を差し伸べた。

しかし、母親はその手を取らなかった。それどころか、伸ばされた手を強く跳ね除けると、すぐそばの

キッチンへ向かい、そこから一本の包丁を取り出した。


「!」


その鋭い歯先をルナではなく、あろうことか自分の首元に当てていた。涙を流しながら、これまでルナが見たこともないほど苦しそうな顔をしている。それでも、その目だけは不思議なほど落ち着いていた。すでに何かを決めてしまった人間の目だった。


「お母さん……」

「……でも、一番憎いのは、戦争の原因を生み出して、お父さんとアランの遺体を持ち帰ることさえ許さなかった、新セメクト人よ……」


母親の本当の仇は、ネヴェスターの政府ではなかった。戦争の根本的な発端となり、大切な家族を奪い、遺体を取り戻すことさえ許さなかった、ネブラにとって因縁深い相手、セメクトの住人、新セメクト人だった。


政府にこだわっていたルナには、思い至らなかったことだった。


「二人がこの家からいなくなって、お母さんは希望を失った。自暴自棄になって、何もかも諦めちゃってた。外に出たら、あの二人のあとを追って、身を投げてしまいそうだった」


母親は嗚咽を漏らしながら、それでも言葉を続けた。頬を伝う涙を拭うこともなく、ただ目の前の娘を見つめている。


「でも、そんなお母さんがまだ生きて、ここにいるのは、ルナのおかげだよ。二人がいなくなっても、一人じゃない。辛い思いをしているのに、ルナが私の代わりに頑張って働いて、ずっとそばにいて励ましてくれた」


絶望に打ちひしがれた母親を救ったのは、ほかでもないルナだった。

夫と息子を失い、何もかも失ったと思っていた母親にとって、娘だけが残された希望だった。ルナは知らないうちに、母親を照らす太陽になっていたのだ。


「あなただけが私の生きる理由だったのに……」


母親の視線が窓の外へ移る。そこには、先ほどルナが撃った女の遺体が横たわっていた。


「なんで、あんなことを……」

「違う……あれは……」


説明しなければならないのに、どれだけ頭を巡らせても、母親を納得させられる言葉など見つからなかった。


「お母さん、生きる理由が無くなったよ」


母親の手がわずかに動き、ルナは落ち着かせるよう促す。


「落ち着いて。お母さん、私の話を聞いて」

「その銃のこと……? やめて、言わないで」


娘が何をしてきたのか、何をしようとしているのか、本当は聞きたくないのだろう。銃を持っているという事実だけで、すでに十分すぎるほどだった。それ以上を知ってしまえば、今まで信じてきた娘の姿が、完全に壊れてしまう気がした。

ルナは言葉を失い、母親は涙を流したまま、かすかに笑った。


「もう恐怖もなくなってる」

「待って……」

「ふっ、やっと地獄から解放されるんだ」

「お願い、落ち着いてよ。その危ないものを置いて……」


ルナは一歩ずつ近づいた。刺激しないように、声を荒らげないように、ただ母親に思いとどまってもらおうとした。死への恐怖が薄れ、死にかけていたつい最近の自分を見ているようだった。


「ルナ一人にしてごめんね。でも、もう……」


母親は包丁を握りしめた。ルナはすぐに手を伸ばし、母親のもとへ駆け寄ろうとする。しかし、その一歩を踏み出すよりも早く、母親が小さく呟いた。


「この世界にいるのは、耐えきれない」


その言葉が耳に届いた瞬間、ルナの声は途切れた。

伸ばした右手は、母親が倒れたことで届くことなく、空を切った。


「ぅ……ゔぅ……」


母親の手から包丁が落ち、床に金属音が響く。


ルナはその場に立ち尽くした。


床に広がる赤い色と、真っ赤に染められた包丁を横目に、首を掻っ切られ、苦しそうな声を上げる母を見下ろす。


もう、助からない。


そのパックリと横に割れた首と、溢れる血を見て、そう思った。目に光が消えかけ、倒れたまま体は少しも動かず、地獄のような痛みに耐え、苦しそうな声だけが部屋に響く。

おそらく一、二分も保たないが、これでは死よりも辛い。

以前、母親は言っていた。最期はみんなに看取られながら、誰にも迷惑をかけず、苦しまずにこの世を去りたい、と。

残念ながら、今ここにいるのはルナ一人だけだった。そして、誰よりも苦しむ最期になってしまった。

それでも、最後まで誰かに助けを求めることさえせず、娘の前で静かに逝こうとしている。

母らしいな、と噛み締めつつ、ルナは迷わず銃を手に取り、これ以上は苦しまないように、無事に兄と父の元へいけますように、と願いを込めて、頭に銃口を向け、引き金に指をかけた。





「バンッ!」


住宅街に、乾いた発砲音が響く。


アキノエは駅へ向かって歩いていた。スカーレット家をあとにし、逃走したエリー・マーフィーの行方を追うため、周辺の捜索に移ろうとしていた矢先だった。

一瞬、足が止まる。この住宅街で絶対鳴ってはならない大きな音が耳に入った。しかも、この距離と方角なら、まさかスカーレット家で何かが起きたのではないか。

アキノエは迷わず、そのまま全力で駆け出す。

やがてスカーレット家の住宅が見えてきた。敷地の門は開いたままで、玄関の扉も閉じられていない。嫌な予感が確信に変わりつつある中、アキノエは敷地へ足を踏み入れた。


そして、玄関へ続く通路に横たわる女の姿を見つけた。


「!」


エリー・マーフィーだった。保安局が行方を追っていた逃亡犯が、血を流して倒れており、頭部にはレーザーによる貫通痕があり、すでに息はなかった。


何が起きているのか、すぐには理解できなかった。逃走したエリーがなぜここにいるのか。誰が撃ったのか。そして、なぜスカーレット家の敷地内で死んでいるのか。

考えるべきことはいくつもあったが、開け放たれた玄関を見れば、中に誰かがいる可能性が高いと考える。

この場所の連絡を入れ、玄関をくぐり、廊下を進む。左手に開いたままの扉があり、その先はリビングのようだった。

その先にアキノエは迷わず足を踏み入れた。


そこに広がっていた光景に、思考が止まった。


血まみれになって床に倒れている女性と、そのすぐそばには、銃を握った女が立っていた。銃口は倒れた女性の頭に向けられていた。

そして、その顔には見覚えがあった。


「……!」


紛れもなくアリミ・ヘイヴンだった。先日、アキノエ自身が訪問し、会話を交わした女性だった。あのとき、彼女は部屋でゲームをしており、初めて会ったときの印象とは違い、どこか寂しげで、それでも笑顔を見せていた。

その人物が今、血に染まった部屋で、銃を所持どころか、人に向けている。その目は、まるで何かを羨んでいるようだった。

目の前の状況を理解することさえ追いつかない。

そしてほんの一瞬、一秒にも満たない、わずかな空白だった。

しかし、その一瞬で十分だった。女の指が引き金を引く。


バンッ!


再び、住宅街に銃声が響き渡った。




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