「婚約破棄」を聞いた瞬間、前世を思い出す 1話
初投稿、初令嬢物です。
本編完結まで毎日投稿しますので、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
ここは、16才から18才までの貴族の令息令嬢が通う王立学園。そして今日は、年に1度行われる生徒会主催の舞踏会の日。この日だけはお揃いの制服を脱いでドレスアップをし、学年の垣根を越えて交流することが許されている。
そんな、うきうきわくわくドキドキ、ちょっとだけ緊張の空気が充満する会場に、突然、大きな声が響いた。
「婚約破棄を言い渡す!」
「!!」
その声を聞いた瞬間、私は前世を思い出した。
前世の私の名前は、遠藤来夢。両親と2才上の姉と共に暮らすごく普通の高校2年生だった。
どんなに思い出そうとしても、高校2年の秋までしか思い出せない。その後何かがあって私は死んだのか、ただ単に高校2年の秋までしか思い出せないのかは分からない。
分かるのは、今目の前でアニメや漫画でお馴染みの『婚約破棄』が繰り広げられていると言うことだけ。
「聞いているのか!? クラウディア・モートン!」
「ひっ!」
その鋭い怒声に、私は小さな悲鳴を上げた。
断っておくけど、私はクラウディア・モートン様ではない。
この学年の3年に在籍するクラウディア・モートン様は、由緒正しき公爵令嬢。腰まで届く艶やかなストレートの黒髪、吊り目がちな大きな黒い瞳、高身長にバランスのとれたスタイル、長い手足、白い肌。全てが美しい真相のご令嬢。
一方、現世の私、エミリー・ランドールは、肩までの焦茶色の髪と茶色の瞳。特徴のない地味顔に、真っ白とは言い難い肌、標準的な身長。さらに生家は、特筆すべきところのない田舎の男爵家。さらには、クラウディア様たちの1つ下の学年ということもあり、これっぽっちも接点を持てない、ただのモブである。
なんで突然前世の記憶が蘇ったのか、ここがどういう世界なのかいろいろ思うことはあるけれど、とりあえず今はモブらしく、突然始まった『婚約破棄劇場』の行く末を静観することにした。
「貴様はこのマリア・ローズ嬢に、数々の嫌がらせを行った!」
「嫌がらせとは、何のことですか?」
3年生に在籍する金髪碧眼の見目だけは麗しい第二王子のアルフレッド・イデオット殿下は、3ヶ月遅れで入学したピンクブロンドの髪の小柄な男爵令嬢、マリア・ローズ様の肩を抱きながら、婚約者のクラウディア・モートン様の問いかけに答えることなく、高らかと持論を述べ続ける。
「しらばっくれるな! 編入してきたばかりで不慣れな生徒を庇うべき立場にありながら、庇うどころかマリアを蔑み貶めるだけでは飽き足らず、私物を隠す、陰口をたたく、無視をするなどの嫌がらせの扇動まで行ったではないか!」
「……」
「己の権力を笠に着て、立場の弱い者を虐げる。そんな女を王家に迎え入れる訳にはいかない。よって、貴様に婚約破棄を言い渡す!」
言いたいことを言い終えると、アルフレッド様は満足そうに口の端を上げた。
『客観的に見ると、ひどい光景だ』
アルフレッド様は、悪女を断罪しているつもりなのだろう。前世を思い出す前の私なら、アルフレッド様の言葉を真に受けていただろう。だって、王族は唯一無二の存在だ。
『王族の行いに、間違いがあるはずない!』
『王族のすることに疑問を持つなんて、不敬だ!』
と、思っていたと思う。
だけど、日本で17年生きた記憶を思い出した私は違う。
『婚約者以外の女の肩を抱きながら、何言ってんだよ、この浮気男が!』
容姿だけは最上級に麗しいアルフレッド(もう呼び捨てでいいや)に憧れていたけれど、自分の浮気を棚上げして、クラウディア様を一方的に糾弾する醜い姿に、だんだん怒りが湧いてきた。
『権力を笠に着てんのは、どっちだよ! 特大のブーメラン投げてんじゃねえよ!』
そもそも、王家とモートン家の両家の間で行われる話し合いを、学園の舞踏会場で、何の関係もない学園生たちの前ですること自体がが非常識極まりない。
年に1度しかない学園の舞踏会をぶち壊されて憤まんやるかたないけれど、王族相手に文句は言えないので、黙って見守るしかできない。
この状況に不満を感じてるのは私だけではないはずだと、そっと辺りを見回すと、困惑顔の令息たちに対して、嫌悪の表情を隠しきれていない令嬢たちがちらほらいた。
その嫌悪の対象が、クラウディア様でなくアルフレッドであることを、私は勝手に確信している。
「アルフレッド様」
アルフレッドに罵倒を浴びせかけられたにも関わらず、クラウディア様は落ち着いた声で言った。
「そのようなお話は、後日、国王様や私の父を交えて……」
「黙れ黙れ! そうやって父上たちを丸め込み、婚約破棄をなかったことにするつもりだろう! そうはさせないぞ!」
なるほど。ここにいる生徒全員を証人にして、クラウディア様を悪者にして、何が何でも婚約破棄したいんだね。なるほどなるほど……
『こんな大勢の証人いらんだろ! 時と場所を考えろ! この大迷惑バカ王子!!』
内心で毒付いていると、私のすぐ後ろから、ポツリとつぶやく声がした。
「何あれ。最悪なんだけど……」
「?」
そっと振り向くと、そこにいたのは3年のライラ・チェンバーク伯爵令嬢。
公爵に次ぐ高位貴族の令嬢らしからぬ言葉に、聞き間違えたのだと思い、そっと頭を下げ、ライラ様に場所を譲るように移動する。
ライラ様は優しく微笑むと、私が立っていた場所に移動して、アルフレッドたちに視線を戻す。
私もライラ様の斜め後ろから、この婚約破棄劇場の結末を見届けるため、視線を戻す。
クラウディア様はひとつ息を吐くと、背筋を伸ばし、右手の中指で目の間を軽く触った。
『あれ?』
クラウディア様が、指で目の間を触っただけ。その何気ない動作が、なぜか私は気にかかった。




