41話 雪女 エーデルワイス
二週間が過ぎた。
戦いの熱と土埃、血の匂いはようやく薄れ、ダンジョン全体に穏やかな空気が戻りつつあった。
怪我人たちは、シスターである彩乃の回復魔法のおかげで順調に回復している。
彩乃は相変わらず忙しそうだったが、それでも「大丈夫です」と微笑みながら、ひとりひとりの様子を丁寧に見て回っていた。
結衣の火傷も、ダンジョンポイントで購入したポーションによって跡形もなく消えていた。
本人は鏡の前で腕を回しながら、
「ねえ、見て! 本当に綺麗になってる!」
と何度も確認していて、その様子に俺は思わず苦笑してしまう。
無理をさせないよう、皆には休暇を取らせている。
マリーはどこかで勝手に羽を伸ばし、アイリスは相変わらず書類と向き合いながらも、合間に結衣や子どもたちを気にかけていた。
――そして、ダンジョンそのものにも変化が起きていた。
防衛のために組み替えていた階層を元に戻し、ジャングルエリアを再び第一階層へ。
焼け焦げた部分は確かに痛々しかったが、フロースが土壌を調べると、
「問題ありません。むしろ活性化しています」
と淡々と告げた。
植物の再生力は驚異的で、すでに若芽があちこちから顔を出している。
そんな中、ダンジョンメニューを確認していて、俺は違和感に気づいた。
そこには、今まで見たことのない項目が表示されていた。
《火山エリア 解放》
「……?」
ゴブリンダンジョンを制圧した時には、こんなものはなかった。
だが今回は違う。
火山ダンジョンを“戦争”として制した結果、その領域そのものが取り込まれたらしい。
試しに選択すると、地下三階に新たなエリアが生成されていく。
溶岩の気配を感じさせながらも、制御された安定した空間だった。
続いて表示されたのは――
《配下登録:可能》
そこに並んだ名前の中で、ひときわ目を引く存在があった。
【雪女 Aランク】
インフェルノジャイアントの名はない。
どうやら討伐対象として消え、配下にはならなかったらしい。
「……呼ぶか」
そうして召喚を実行した瞬間、空気が一気に冷えた。
白い霧が広がり、やがて一人の女性が姿を現す。
白銀の髪、透き通るような肌、凍てついた空気をまとった静かな佇まい。
「……召喚に応じました」
落ち着いた声だった。
「あなたが、主ですか」
「ああ」
短く答えると、彼女は周囲を見渡す。
火山ではないことに気づいたのか、わずかに肩の力が抜けた。
「……ここは、暑くないのですね」
「火山は地下三階だ。お前をそこに縛るつもりはない」
その言葉に、ほんの一瞬だけ目が揺れた。
「……それは、助かります」
本音が滲んだ声音だった。
「これからは、このダンジョンの管理を手伝ってほしい。
アイリスと同じ、秘書役だ」
彼女は一礼する。
「承知しました。主の命に従います」
その姿を見て、俺は少し考え、口を開いた。
「名前をつけたい」
彼女が顔を上げる。
「エーデルワイス。
寒さの中でも咲く、強い花の名前だ」
一瞬の沈黙のあと、彼女は小さく頷いた。
「……エーデルワイス。
その名、ありがたく頂戴します」
名を得た瞬間、彼女は“配下”から“仲間”になったように見えた。
「アイリスと一緒に、頼む」
「承知しました」
少しだけ柔らかくなった声。
こうして、火山ダンジョンの遺産は俺のダンジョンに組み込まれ、新たな力となった。
世界はまだ不安定だ。
だが――守るものは増え、確かに前へ進んでいる。
次に何が来ようとも、もう迷わない。
ここは、俺たちの居場所なのだから。




