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37話 火山軍団②



――廃遺跡階層。


崩れた石柱と瓦礫が積み重なるその空間に、重く、鈍い衝撃音が響き続けていた。


ドン……ドン……


一歩進むたびに、地面が揺れる。


「……止まらない」


俺は歯を食いしばった。


墓地階層で削ったはずのインフェルノジャイアントは、なおも前進を続けていた。

表面の溶岩はところどころ冷えてひび割れているが、その奥から再び赤熱が湧き上がっている。


「想定より再生が早い……」


アイリスが低く呟く。


「魔力循環が異常です。おそらく、火山ダンジョン本体と直結しています」


「つまり、ここで止めないと――」


「無限に回復します」


その言葉が、重く落ちた。




「ゴーレム隊、前へ!」


俺の指示で、石の巨人たちが一斉に動いた。


地面を砕きながら、ゴーレムが壁を作る。


だが――


インフェルノジャイアントの拳が振り下ろされた。


ドゴォン!!


衝撃で、ゴーレムの上半身が砕け散る。


「っ……!」


「耐久限界、早すぎます!」


アイリスの声が鋭くなる。


続けざまに、灼熱の衝撃波。


壁にした石柱が溶け、地面が赤く染まる。


「このままじゃ――!」


「次の手だ!」


俺は叫ぶ。


「シャドウウルフ、影縫い!」


影が地面を這い、巨体の足元へと絡みつく。


一瞬、動きが止まる。


「今だ!」


マリーが矢を放つ。


魔力を帯びた矢が、ひび割れた装甲へ突き刺さる。


だが――


「効いてない……!」


矢は溶け、霧散した。


インフェルノジャイアントは、咆哮と共に腕を振る。


熱風が走り、衝撃で皆が体勢を崩す。


「……くっ」


後退する俺の脳裏を、嫌な予感がよぎる。


このままでは――削りきれない。




――ジャングル階層。


根が絡み、毒霧が漂い、影が蠢く中――

それでも、インフェルノジャイアントは止まらなかった。


「……くそっ」


俺の喉から、掠れた声が漏れる。


トレントの根が砕かれ、マッシュルームマンは熱に焼かれ、次々と倒れていく。

ジャングルは確かに“削った”。だが、止めきれない。


「退却! 都市部へ!」


その声が届くより早く、巨体が踏み込む。


――ドンッ!!


地面が陥没し、熱風が吹き荒れる。


「っ……!」


視界が白く弾けた。


気づいた時には、ジャングルの境界線が崩れ、都市部への通路が露わになっていた。


「ダメだ……入られる……!」



部――。


そこは、生活の場所だった。


子供たちが笑い、雪が料理をし、結衣が手伝い、

“戦場じゃない場所”。


だが。


「……きた」


結衣が、震える声で呟いた。


遠くから聞こえる地響き。

瓦礫が揺れ、建物が軋む。


「下がって!」


俺が叫ぶ。


だが、次の瞬間――


炎の塊が、都市部の入口を貫いた。


爆風。


衝撃。


「――結衣っ!!」


彼女の身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。


「ぐっ……!」


呻き声。


結衣は必死に起き上がろうとするが、足が震えて立てない。


「……だい、じょうぶ……」


そう言いながら、血が口元を伝う。


「バカ……!」


俺は駆け寄ろうとしたが、熱風がそれを阻む。


インフェルノジャイアントが、ゆっくりとこちらへ向かってくる。


「逃げろ……」


結衣が、必死に叫ぶ。


「みんなを……守って……」


その瞬間――


「――シャァァァァッ!!」


鋭い咆哮が、戦場を切り裂いた。


影が跳ぶ。


黒い毛並み、鋭い牙、輝く瞳。


ワイルドキャット。


だが――


違う。


その身体は、以前よりも大きく、しなやかで、魔力が渦を巻いていた。


――その瞬間だった。


結衣の前に、影が滑り込む。


小さな身体。

だが、そこに宿る気配は、もはや“獣”のものではなかった。


「……にゃ……」


低く、震えるような鳴き声。


ワイルドキャットの身体が、淡い光に包まれる。


毛並みはより濃く、深い黒へ。

筋肉の輪郭は引き締まり、背中からは淡い魔力の紋様が浮かび上がる。


「……進化、してる……?」


俺が息を呑む。


次の瞬間――


ドンッ


大地が揺れた。


ワイルドキャットは、まるで守るように結衣の前へ立つ。


その瞳は鋭く、理知を帯びていた。


もはや、ただの魔獣ではない。


「……ガーディアン……」


思わず、口をついて出た。


「ガーディアンキャット……」


その名に応えるように、猫は静かに鳴いた。


「ニャァ……」


だがその声には、確かな意志が宿っている。


インフェルノジャイアントが咆哮を上げ、炎を噴き出す。


だが、ガーディアンキャットは一歩も退かない。


地を蹴り、影のように駆ける。


炎の壁を跳び越え、巨体の懐へ――。


鋭い爪が、炎を裂いた。


「グォォォォッ!!」


巨体がよろめく。


その隙を逃さず、ガーディアンキャットは喉元へと跳びついた。


魔力を帯びた牙が、深く食い込む。


――守るための一撃。


インフェルノジャイアントの動きが、止まった。


轟音と共に崩れ落ちる巨体。


炎が、静かに消えていく。


沈黙。


やがて、ガーディアンキャットは結衣の前に戻り、ゆっくりと座った。


「……ありがとう」


結衣が、震える手でその頭を撫でる。


「助けてくれて……ありがとう」


ガーディアンキャットは、静かに目を細めた。


その姿は、もはやただの魔獣ではない。


――守護者。


このダンジョンを、

この場所に生きる者たちを守る存在。


俺は、その姿を見つめながら、静かに呟いた。


「……お前がいてくれて、良かった」


戦いは終わった。



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