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第3話 復活とチート

 目を覚ますと、いつもの私のベッドの天蓋が見えた。

 

「綺麗なレースだよねぇ」

「お嬢さまっ」

 

 侍女のフェデルが、私の声を聞いてすぐに近くに来る。

 

「目が覚めたのですね。すぐに皆さまをお呼びします。何か欲しいものはありますか?」

 

 横たわる私のことを抱きしめて、そう言うフェデルの瞳には、涙が浮かんでいた。

 無事に生き返れて良かった。

 

「お水が欲しいな」

「かしこまりました。お医者さまも呼んでまいりますからね。そのまま横になっていてくださいね」

 

 フェデルは部屋を慌てて出て行く。窓の外は暗いので、今は夜中なのかもしれない。

 

「イリスっ! 目が覚めたのね」

 

 最初に来たのはお母さま。そしてすぐあとにお父さまやお兄さま方もやって来た。

 皆、パジャマみたいなものを着ているから、きっと寝ていたのだろう。

 

「よかった……。本当によかった……」

 

 皆がそう言って、順々に私を抱きしめてくれる。

 

「イリスは、三日間死の淵をさまよっていたんだ」

 

 お父さまの言葉に、驚いてしまう。どうやら、あの白い部屋と現実世界では、時間の流れが違うらしい。何年も過ぎていなくて良かった。

 

「無事に戻ってきてくれて、本当に良かった」

 

 アレ兄さまが私の手を取り、ぽんぽん、と手の甲に優しく触れる。

 

「僕があのとき、小屋で雨宿りをしようと言わなければ。守ってあげられなくてごめんな」

「ウェスタ兄さまに責任はないわ」

 

 そう。悪いのはあの神さまなのだから。

 

「でも……」

「そうよ。ウェスタはすぐにイリスを抱えて帰ってきたでしょう? あのあとウェスタだって、熱をだしたじゃない」

「熱を出しながらも、イリスの近くにずっといたんだ。ウェスタの気持ちが、神さまに通じたんだろう」

 

 お父さまとお母さまが、ウェスタ兄さまの頭を撫でる。三人のお兄さま達も、同じように撫でていた。

 

「ウェスタ兄さま、私のそばにいてくれたの?」


 それも、熱を出していたのに、だなんて。

 

「僕だけじゃないよ。皆近くにいたさ」

 

 フェデルが水を持ってきてくれたので、手を借りて上半身を起こす。

 

「皆がいてくれたから、私、生きて戻って帰れたのね」

 

 そう言えば、皆が一斉に「イリスッ」と抱きしめてくれる。コップを落としそうになったけど、フェデルが抜き取ってくれた。有能すぎる……。

 

「お医者さまがご到着です」

 

 執事のゼノアの声かけに、一度皆、部屋を出ようとなった。いやいや、もう遅いし、寝て欲しい。

 

「もう夜も遅いし、また明日の朝に」

 

 私の言葉に、皆名残惜しそうな顔はするものの、納得してくれた。

 三日間も死にかけていたのだ。きちんと復活して、神さまの言う『悪役令嬢イリス・エーグル』の今後のことを、考えなくちゃね。


    *****


 自由に動き回っても良いという医者の許可が下りるまでに、一週間もかかってしまった。

 

「今日から復活です!」

 

 朝食の時間に、そう言って食堂に登場した私を、家族が皆順番に抱きしめてくれる。本当に愛されているな、私。

 そして前世の記憶を取り戻した今、目の前の朝食に対して思うところはある。

 パンとスープ。それにサラダ。

 

 品数は全然良いの。だって朝食なんて日本人の多くが味噌汁に卵かけご飯か納豆ご飯だけで、場合によっては味噌汁がなくても、それで済ませてたりするじゃない。でもね。味よ、味。

 味が──しない。

 パンは硬いし、スープとサラダは良く言えば素材の味。でもその素材の味もそんなに強くない。

 おかしい。

 ここは乙女ゲームの世界なんでしょ? だったら、日本人好みの、美味しいご飯とか出ても良さそうなものじゃない!

 でもまぁ仕方ない。よくある転生者チートとかいうので、美味しい料理をいつか食べられるようにしてみせるわ。

 

「復活と言っても、しばらくは屋敷の中にいるのよ」

「テレイアの言うとおりだ。領内に行きたいかもしれないが、もう少し様子を見るんだぞ」

 

 お父さまとお母さまの言いたいこともわかるので、ここは大人しく言うことをきくことにする。今は家庭教師の授業もストップしているので、その間に図書室で農業の本とかを読んでおこうと思っているのだ。

 

 辺境伯家の図書室は広い。

 小学校の図書室くらいはあるんじゃないかな。

 その中から、農業関係っぽい本を手当たり次第とる。脚立が置いてあるけど、それでも届かない本は、フェデルが取ってくれた。

 

「お嬢さま、本が増えてまいりましたので、ワゴンを取ってまいりますね」

 

 図書室に置いてある、給食当番で使うようなワゴンを持ってきたフェデルは「これなら、もっと増えても大丈夫です!」と力強く言ってくれる。

 

「何度も来るのも面倒だし、最初にたくさん持ってっちゃお」


 目に入ったものをポイポイワゴンに載せていく。

 あ、世界地図とかもあるんだ。国内の地図、それに領内の地図も一緒に引き抜く。


「よし、こんなもんね!」


 ワゴンが重すぎたので、男性の使用人に部屋に運んで貰うということで、私とフェデルは先に部屋でお茶をすることに。


 部屋に届けられた本を開くと、不思議なことに全てが日本語で読めてしまう。目に入る文字はこの国のものなのに、脳にインプットされるのは日本語なのだ。まるで私の目に優秀な翻訳機が入ってるみたい。


 しかも、十歳のイリスが知らないはずの単語も、スラスラと理解できる。これはもしや、例のチートのおかげ?

 そう思って思い返してみると、 『ガーデニングや園芸、農業に関する知識を得る力と、その能力を最大値にして』と願ったのだった。つまり、その知識を得るためには多言語理解が必要になる。私この世界の言語全部いけるのでは。


「確認せねばっ」


 持ってきた本の中から、外国の図鑑を引っ張り出す。


「うわっ!」


 下の方にあったそれを慌てて引き抜いたから、バサバサと山を崩してしまった。フェデルが慌ててもとに戻す。ごめん……。

 図鑑の表紙に書かれているのは、間違いなく隣国の文字。我が家の隣の国である、アジェスティ王国のものだ。


「あー……。読めちゃうね……」


 フェデルにも聞こえないくらいの、小さな声で呟く。

 これは、チート能力のありがたい賜物だわ。ただ、チートでできる、となると説明がつかないから、取り敢えず、自分で学んで読めるようになった、天才少女、って設定にしとこう。


 うん。私ってば天才じゃない?

 そういうわけで、持ってきた本を言語別にわけることにした。フェデルにも手伝って貰って、部屋の中にいくつかの本の山が完成する。

 わかれた山ごとの言語をチェックし、それぞれの辞書や、文法書などの各国語教本を執事のゼノアにお願いして持ってきて貰うことにした。


 どうしてゼノアかっていうと、こういう勉強をしているんですよ~ってことを、印象づけたかったから。

 ふふふ。やっぱり私ってば天才。

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