ジラーフの森
シャオンのおかげで、変なことにならなかったおれたちは、歩いてこの町を抜けることができた。
「シャオンさん久しぶりだったね」
「まだレベル20だったのにラヴィが出てくるからだぞ。チートがばれて追い出されたんだ」
「ぎゃう」
「ごめんって」
普通、Lv30にならないと、召喚獣は手に入らない。町の人は、持っていても召喚できない。
転生者の町を抜けると眼下に森が広がっていた。たぶんLv5以上の人がレベルアップするフィールドだ。ここが浮き島最南端になる。ヒロがライトボードで調べた。地図は、その通りなのだが、森の名前が出てこない。転生者の町もそうだった。まだ名前が決まっていないのだろう。現地名を知りたいところだ。
「ノーマ、あの森の名前は?」
「そういえば、アリーシャに聞いたことない。ラヴィは?」
「ぎゃう?」
「ラヴィも、だって」
「もしかしたら、隠匿された森かもしれない。セカンドフィールドどころじゃないかも」
「ぎゃう?」
「そんなことないわよ。アリーシャが住んでいるのよ」
「いずれにしても、バトルの準備、しとけ。もしきたらノーマに任すか」
「任せて」
「ラヴィは、2つもアイテムがドロップしているぞ。高レベルの敵か、ボスだったら、ノーマにも落ちるさ」
「かっこいいよね、宝石かー」
「ぎゃう(へへー)」
ラヴィはいつもの癖で、頭を摺り寄せて、つい、ヒロに甘えてしまった。自分で甘えといて、真っ赤になる。ノーマは、それを大目に見た。
ノーマたちは、ヒロに聞こえない召喚獣同士の秘話通信を使っている。今までも、これを使って、ごまかしてきた。
ノーマは、ラヴィに「貸一つだぞー」と、ばれたのに、「いまだに甘えていることをアリーシャに言わないであげる」と、約束した。
― 聞こえたわよ
げっ
― 秘話通信は、3人共同でしょ
― ラヴィ、ごめん、そうだった
― ここの森の名前は? と、話を進めてごまかすラヴィ。
― モンスター居る? ノーマも、そうだ。
― ジラーフの森よ 変な怪物なんていないわよ。でも、幻獣の神様がいるってお母さんが言ってた。
召喚獣も幻獣。
― だって ノーマ
― ダメよ、ノーマ。ヒロに教えたら、秘話通信がばれちゃうでしょ
― わかった
「アリーシャのお母さんは、ハイエルフだったよな」
ヒロは、何気なく会話をしている。アリーシャは、自分の名前を呼ばれて、ギクッとした。
― お母さんに世界を見てもらっているの。またあとでね
― ごめんね
― すぐ行くね
「何だ、二人とも、黙って」
「ぎゃう(なんでもない)」
「ごめん、もしかしたら、海にも、あんな町あるのかな。人魚の転生者の町」
「はー、そうだろうな。一度行くか」
「ぎゃう」
「うん」
ジラーフの森は、静かな森だ。ヒロが高レベルなので、攻撃してくるモンスターがいない。だから、よけいそう感じる。
ラヴィは、母が、浮き島出身なのは知っているが、どこに住んでいたのか知らない。アリーシャの母親は、多分知っている。ラヴィの母は、もう、何年も前に結晶化して柱に食い込んでいた。父が言うには、眠っているだけだと言う。龍族は、最初、海で育てられる。そこで、進化を繰り返して親元に帰る。自分が、人形になって竜宮城から、親元に帰った時にはもう、母は、そんな状態だった。
まだ一度も話したことがない。
母のことが知りたい と、父に聞くと
父は、「そのうちな」と、言って遠い目をして黙ってしまう。悲しい話かもしれないと、追及できなかった。
ラヴィは、しばらくすると龍に進化するはずだった。その前の人型のうちに、友達と冒険した。友達は、どちらも人類に近い容姿の種族だ。みんな同じ容姿のうちに、何かしようと話し合った。
バベルの塔は、そう危険もなく手ごろな遺跡だ。3人の親も承認した。まさか、旧人類のバーチャルゲームにアクセスするとは思わなかった。
それから、3年経つ。ラヴィは、人形のままだ。いぶかしがった父親に問い詰められて、ヒロのことを話した。父は、ものすごい顔をして、ここに連れてこいと言ったが、そんなこと、出来るわけない。
今日、出来るようになっちゃった
たぶんすごく怒るのだろう。
ヒロの肩に乗って、ボーっとそんなことを考えていた。
ヒロとノーマは、大丈夫そうな森なのに、セオリー通りやっている。
「どうだ、なんかいるか? サーチ範囲は、ノーマの方が広いだろ」
「いっぱいいるけど、ものすごく弱いよ。うーん、強くてレベル10ぐらい」
「じゃあ、やっぱり、セカンドステージだな」
「残念」
ノーマは、ラヴィのドロップアイテムがきれいなので、自分も欲しい。まさか、自分の世界の中で、召喚されるとは。それも、強くなって出てきた。なんだか、わくわくがとまらない。
「清々しい森だよな。アリーシャの能力が癒し系なのがよく分かるよ」
「私が一番、マルチプレーヤーに近かったのに、ラヴィに先を越されたよ」
「ぎゃう、ぎゃう」
「そうかな?」
「なんだって」
「私、シャボンが出せるじゃない。はじけると水になるやつ。ラヴィがね、これで広範囲攻撃できるようになるんじゃないかって」
「ぎゃう、がっ、ぎゃう、ぎゃう」
「そうだね。シャボンで、壁が作れるんだから、そうだよ」
「良く、ギャウだけで、そこまで分かるな」
「ラヴィは、私たち一族が育てたんだよ。龍族は、成体になるまで、海の中で、進化を繰り返すんだ。人形になった時、親元に返すの」
「へー、じゃあ、まだ、進化するんだ」
「それが・・・」
「ぎゃう」
「ごめん」
「なんだ」
「今度話すね。もう、森の中心だよ」
巨木が立ち並ぶ森の先が、明るく見える。そこは、木が生えていなくて盆地になっているのだろう。中心部は、少し小高いのか、なだらかな登りになる。
その坂を上り切ると、
目の前が開けて、田園風景が広がった。段々畑には、果樹が色とりどりの果実をつけている。しかし、その手前や、要所要所に、野ばらが、畑を守るように茂っていた。小高い丘は、頂上に行くほど平らになり、その中央には、今まで見たこともない巨木が枝を広げていた。
森との堺の木は、針葉樹で、森のモンスターに、畑を荒らさないでと、アピールしている。それなのに、いやな感じがしない。今回、一番無礼なふるまいをするのは、新参者の転生したエルフたちかもしれない。




