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終末世界、キミの救世主  作者: 高倉ポルン
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3

 ――冒険者ギルドとは、世界に存在するモンスターと呼ばれる危険生物を駆除することが目的の冒険者を補助する役目を持つ組織である。


「それにしても、モンスターってなんであんなに強いんだろうな」


 ギルドの中に入りながらゴーシュはぼやく。


「さぁ? 私が知るはず有りませんよ。……でも、確かに銃器も爆薬もあまり効果が無いですからねぇ……。昔は一頭のモンスターに滅ぼされた街なんかもあったそうですし、異常、の一言しか思い浮かびませんね」


 モンスターは強い。

 それは世界の一般常識である。


 銃火器や爆薬、電磁砲などと言った兵器では一撃で殺すことがまず難しい。

 それにコスト面も大きな弊害となっている。

 モンスターの数だけ爆薬を投下すれば、その場にいる奴は殲滅できるかもしれないが、相手は生物。いずれ増殖してくる。


 さらに、爆薬による地形破壊の事後処理も行わなければならない。

 そこで採用されたのがこの冒険者制度。

 腕に自信のある人間に討伐してもらおうと言う物だ。


 だが、もちろん生身の人間ではそれは不可能。相手は兵器をももろともしないのだから。

 けれど、人間には兵器とは決定的に違う物があった。それは――。


「モンスターを倒すには魔法しかない、か……。そう言えば俺は魔法が使えたの?」


「何を言っているのですか? 魔法とは神に対し何かを奉納して敬虔な信徒だけが得られる奇跡の事。今日から神父の兄さんにはまだ無理です」


「魔法を使うのに何かを奉納って……神様って結構がめついよな」


「今のでさらに信仰心がダウンしましたね。兄さんが魔法を使用する日は来るのでしょうか?」


「うるせぇ! だって本当のことだろ!?」


 魔法を使用するのに行う奉納とは、基本的に神の喜ぶことなら何でもいい。

 お金を収めるのも良し。

 舞を披露するのも良し。

 街で布教するのも良し。


 だが、その中でも一番ポピュラーなのはお金だろう。

 なぜなら一番わかりやすいからである。

 強い魔法ならどれくらい。弱い魔法ならどれくらい、といった具合だ。


 そうして魔法で肉体強化を果たした人間の強さは恐ろしいもので、中にはモンスターに追いつく者も居ると言う。

 この辺りは個人差があるので、才能によりけりではあるが。


「神が奇跡を起こしてくれるんですよ? お金で済むなら安い物でしょう。――と、あれですね」


 ロアはカウンターの奥に登録結晶が無造作に置かれているのを見つけた。

 彼女が指し示す先を見て、ゴーシュは歓喜にその表情を変えて走り出す。


「おぉ! 初めて見た!」


 ――たぶん。と小さく呟いて、登録結晶を手に取った。


 ゴーシュの知る限り、登録結晶とは実際には結晶ではない。四脚の足が付いた結晶の形をした、ただの機械である。

 冒険者を名乗るならファンタジーな見た目の方が良いのではないか? と言う事でこの形になのだそう。


 動力源は電気。

 ソーラーで自動充電され、お金を支払うことにより使用が可能となる。

 左手の甲の上に来るようにセットして、スイッチオン。


「さ、早く終わらせましょう」


 ロアの言葉に、ゴーシュが額に冷や汗をかいた。


「これがあの大男すら泣かせると言う登録結晶……。行くぜ! 勝負だ――っ!」


 覚悟を決めると登録結晶を登録時に使用する専用の台へと設置し、左腕をおいて起動する。

 瞬間、カチャッとゴーシュの腕が台から突然出現した手枷によって固定された。


 まるで逃がさない、とばかりに現れた手枷に、のろまな恐怖心が遅れてやって来て慌てて腕を引き抜こうとするが、もちろん手枷は外れない。


 すると、小さかった不安は爆発的に上昇し……。


「ちょ、ちょっと待って!! ロア、止めて!! やっぱ止める! 怖い! 怖いよ!?」


「は、はい……って外れないし止まらない!? もしかして壊れてる!?」


「嘘ぉ!?」


 何とか止めようと頑張るが、登録結晶を台から退かすことも、自分の腕を引き抜くことも叶わない。

 どうにかして! とロアを見ると、彼女は慌てた挙句、結局最後には優しい笑顔で――。


「兄さん。死にはしないですから、がんばって!」


「嘘だろ!?」


 ジュッと一瞬皮膚が焼けた音と共に、激痛が左腕を襲い、しかしその一瞬を最後にゴーシュはすべてから解放され、左腕を抱いて涙を流しながら転げまわった。


「冒険者何て格好つけようとするから……」


 ――私にとってはずっと前から格好いい存在なのに。


 その小さな呟きは、しかし絶叫を上げるゴーシュには届かない。


「いってえぇぇ――っ!」


「もう! 男ならみっともなく騒がないでください!」


 いつまでも騒ぎ続けるゴーシュにロアが軽いチョップを入れた。



 ★



「あー、思ってたより痛くなかったなぁ」


 ゴーシュは左手の甲に刻まれたバーコードを触って呟いた。


「そうですか」


「本当だぞ? あー、マジで痛くなかった。クッソ余裕だね。あんなんだったら全身に刻んでも鼻歌歌いながら海の人魚のように舞えるね!」


「ま、実際には絶叫しながら陸に打ち上げられた魚でしたけど……クハっ」


 今だ涙目で鼻をじゅるじゅる言わせながら気高にふるまっているゴーシュがそれほど面白いのか、ロアは堪らず笑い出す。


「おい! 笑うんじゃねぇ! あれは、その……あれだよ」


「あれってなんですか?」


「ま、まだ舞の練習が出来てなかったからへたくそだっただけだよ」


「ふーん」


 そのロアの表情から信じていないのは明らか。

 いや、ゴーシュの話を信じるのはどうかと思うが。


「あ、信じてないな! 本当なんだぞ! ほら! ほら! 俺は舞とか苦手なの! 別に痛くて泣いてなんかないんだからね!」


「兄さんのツンデレとかどこに需要有るんですか。キモいので止めてください」


「真顔で言われると割と傷つくからやめろよ!」


 ――ロアのばっきゃろぉ! と叫びながら一人走り出すゴーシュ。


 彼の背中を見て、言い過ぎたかな? とロアは少し反省した。

 あんな状態でも一応は兄なのだ。相手が兄であるなら妹の自分は兄に敬意を示さなければならない。

 だからロアもゴーシュ宜しく大きく叫んだ。


「教会はそっちじゃないですよぉ!!」


 ゴーシュはその声に一瞬だけ立ち止まり、そして。


「ロアのばっきゃろぉ!!」


 叫びながら戻って来た。

 その姿があまりにも滑稽でロアは再度笑って、ゴーシュが戻ってくると彼の耳元で囁く。


「このツンデレ兄さん」


「この鬼畜妹!」


 憎々しげに叫ぶ兄に、ロアは再度吹きだした。


 そうこうしているうちに教会に辿り着く。

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