【第三幕】定着 ―― 小さな日常
三ヶ月が経つ。
畑は、見違えていた。
雑草だらけだった荒れ地に、いまは色とりどりの植物が整然と並んでいる。濃い緑のブラックリーフ、紫がかった茎のデビルモス、白い細い花をつけるアイアンベル。毒草ばかりだが、きちんと世話をされた植物というのは、なんというか、顔つきが違う。
村の人たちは近づいてはこないが、通りすがりに遠巻きで眺めるようになった。「なんか綺麗だな」と言っている声が聞こえる。以前は「気持ち悪い」と言われていたらしいので、前進だと思う。
ある朝、ガルド爺さんが畑まで来た。
「リオン、ちょっといいか」
「どうしました」
「膝がな。長年の付き合いなんだが、最近とくにいかん」
爺さんは右膝を指でとんとんと叩く。長年の農作業で痛めているらしく、雨の前日は特にひどいという。
僕は棚を少し探して、小さな布包みを取り出した。
「これ、試してみてください。ブラックリーフから作った湿布です。ひと晩貼って、様子を見てみて」
「……毒草の湿布か」
「はい」
爺さんはしばらく布包みを眺めて、それから「まあ、お前が言うなら」と受け取っていく。
翌朝。
「リオン!」
ドアを勢いよく開けて爺さんが飛び込んでくる。朝食の途中だったので、少し面食らう。
「どうしました」
「なんだこれ! 嘘みたいに楽になってる! 三年ぶりにまともに歩いた気がする!」
爺さんが右足をその場で二、三回踏み鳴らしてみせる。顔が笑っている。
「よかったです」
「よかった、じゃないぞ。これ、もっと作れるか」
「在庫はありますから、必要な分だけ持っていってください」
それから早かった。
爺さんの膝の話はあっという間に村中に広まって、次の日から村人が畑に来るようになった。腰が痛い、頭痛が治まらない、子どもが夜に咳をする。一人来ると二人来て、三人来ると五人来る。
薬代を聞かれるたびに、野菜でいいですと答える。
最初は「それでは悪い」と遠慮された。でも僕が本当に野菜しか受け取らないので、そのうち皆、素直に持ってきてくれるようになった。おかげで食卓が豊かになる。カブとニンジンが増えすぎて少し困っているが、悪い困り方ではない。
フィアは毎日来る。
最初は手伝いのつもりだったはずが、いつの間にか調合の見学になり、気づけば助手になっていた。本人はそれを特に気にしていないようで、「じゃあ次は何するの」と毎朝聞いてくる。
「先生、この草の名前は?」
ある日、フィアが薄紫の花をつけた株を指さす。
「デビルモス。見た目は怖いけど、これを煎じると睡眠薬になる」
「睡眠薬!」
「ただし、量を間違えると」
「どうなるの」
「三日寝る」
フィアは「三日」と繰り返して、それから「怖っ」と言いながらも株をじっと観察している。怖がりながら興味を持つのがフィアのやり方で、僕はそれが悪くないと思っている。怖いと知った上で近づける人間は、ちゃんと扱い方を覚える。
夕方、調合を終えて道具を洗いながら、空を見上げる。
秋が深くなって、日が落ちるのが早くなる。畑に灯りがいる時間も増えた。それだけのことだ。
特に何もない日だった。
そういう日が好きだと、最近気づいた。悪くない、なんてものじゃない。ここが、いい。




