砦にて
◆英
千代草の発信機から出る信号は、木の上に作られた砦の最上部だ。ある程度この砦に近づき、捌の穢悪、双子の戯れを発動させる。
俺の両手の甲から二匹の蝙蝠が出現し、砦に向かって飛び立った。
蝙蝠の視覚と聴覚から得た情報は、直接俺の脳に送られる。この能力の後遺症は比較的軽い。
砦の正面を避け、換気口らしき穴に蝙蝠を侵入させる。中は薄暗く、ただ木を組み合わただけの簡素な作りだ。
二十人ほどの兵が密集して雑魚寝している。ソイツらを起こさないよう慎重に上階を目指した。
途中の部屋で話し声が聞こえた。天井にぶら下がり、聞き耳を立てる。
「なぁ、お頭。片倉が連れてきたあの、妙な黒服の女。俺らに回してくれよ。俺ら攫ってきた町娘はもう飽きちまったんだよぉ」
……あぁ?
いきなりブチ切れそうになる発言を耳にしたが、奥歯を噛み締めてグッと堪えた。
「駄目だ。あの女には指一本触れるな。片倉の客人である槐の旦那から預かった女だ。テメェ死にてぇのかよ?」
この会話の内容から、千代草は多分無事なんだろう。少しだけほっとした。
それにしても『片倉』とは何者だ? 槐の名前も出てきたが……救出対象者か?
「片倉はともかく、槐の旦那が気に食わねぇのは分かる。我慢しろ。他の馬鹿どもにも伝えとけ、絶対に上の階に行くなよって」
「あ、あぁ、わかったよ、お頭……でもよ、槐は信用できんのかよ? 女を預かるだけで十貫文も貰えるなんて怪しいぜ」
「確かに旨みがありすぎるが、受けちまったからには今更文句言っても仕方ねぇだろ……槐とは今回限りだぜ」
千代草とシロに取り付けた発信機からの信号を確認する。二つの発信源はここの上階だ。
「……南天、聞こえるか?そこから見て砦の最上階の広さはどの程度か測れるか?」
俺は南天に通信して確認したい事を聞いた。
『ん? そうだな……畳四枚分…ざっと七平方メートルってとこだな。それがどうした?』
……確信した。ここに千代草は居ない。
シロに取り付けてある発信機は、シロがポシェットの中にいる時、かなり小さな信号しか出さない。だが、信号はハッキリと二つ捉えている。これはシロがポシェットの外に出ている事を意味する。
しかし、この部屋より上は畳四枚分しかない。シロの身体のサイズを正確に測ったことはないが、小型のダンプカー程ある。その空間にシロと千代草が収まるスペースは無い。それに、この木造の砦はドラゴンの重さに耐えれる構造には見えない。
動かない信号……二人の発信機は取り外されて、上階に置いてあるのだろう。
俺達を誘い込んだのか……
「南天、やはりこれは罠だ。一旦戻る」
穢悪の蝙蝠を呼び戻し、来た道を引き返そうとしたが、遅かった。俺は武装した山賊共に囲まれてしまったのだ。
「よう、あんちゃん……誰かを助けに来たのかい?」
山賊のひとりが下衆な笑みを浮かべる。
「あぁ、そうだ……。こんな山奥に篭って、惨めに賊なんてやってる可哀想な奴らの人生を終わらせて、救ってやろうと思って来たのさ」
俺はそう言うと、懐から短刀を取り出す。
「んだとコラ? おい、全員出てこい!」
山賊達は、時代劇でよく観た悪党のテンプレ的な台詞を吐いくと、砦のあちらこちらから仲間が姿を現した。
※十貫文‥‥およそ百万円
*次回、『嘘つき』




