03. 銃と包丁
◇南天対メイド・採掘場◇
メイドは血塗れの包丁を数十本自身の周辺に浮遊させ、ゆっくりと南天に詰め寄る。
包丁に付着している赤黒い血が、ポタリと滴り落ちると地面をジュッと焼いて細長い煙を上げる。
近接戦闘は不利と判断した南天はメイドから距離を取り、上着のポケットから直径一センチほどの鉄の球を一つ取り出して、右手の親指の爪側に当てた。そしてそれを人差し指を畳んで押さえる。
その指と鉄球の間の空気を圧縮させると、鉄の球は高温で真っ赤に染まった。南天はそれをメイドに向け、左目を閉じて狙いを定める。夕陽のように赤い右目は高精度なスコープの役目をしている。
「隼の一撃!」
親指を一気に弾いて鉄球を飛ばす、この時、南天の指は銃口と化す。必殺の指弾だ。
南天の指先から放たれた鉄球は、ライフル弾に並ぶ速度で飛び、メイドの周りを飛ぶ包丁のひとつを粉砕した。包丁に当たって軌道が逸れた小さな鉄球はメイドの肩を貫く。
メイドはよろめいて二、三歩後退するも、顔色を変えずに豊満な胸の谷間から複数本の包丁を取り出し、自身の周辺に浮かべると、再び南天へ歩み寄る。
「御行儀ノ悪イオ客様ハ、ハイジョシマス」
「排除されるのはキミだ」
「んー! んー! んー!」
英に投げ捨てられて、横たわっている救出対象者が突然うなり声を上げた。
メイドが救出対象者の方を見やると、がぱっと口角が裂けて血濡れの笑顔を見せる。
「ゴ主人様ァァ! ナンテ、ナンテ、素敵ナ姿ヲ?!」
救出対象者はメイドにでも助けてもらおうと算段していたのだろうか、今はメイドの顔を見て恐怖で怯えている。
「コノ、アリサ! 興奮シテ興奮シテ興奮シテ興奮シテシテシテシテシテ!!! オ股ガ八裂テシマイマスワーーーーッ!!」
ガタガタと体を震わせて絶叫するメイドは、股からずるりと巨大な包丁を取り出した。血と体液で濡れたその包丁をひと舐めすると、狂気に満ちた表情で救出対象者へと切りかかる。
「ふ! ふんーーーッ! ふふん! んー!」
体がすくみ上がっている救出対象者は、股間を自身の排泄物で汚しながら首を横に振り続ける。
「小鳥の群れ!」
南天は両手の指の間に挟んだ鉄球三発ずつを加熱させてメイドへ投げつけた。
先ほどより威力は落ちるが、周囲の包丁を叩き落としてメイドの注意を自分に引きつけるには充分だった。
メイドが首だけを百八十度回転させて南天を睨む。
「妬カナイデ下サイマシ、オ客様モ、後デチャント極楽へ送リマスカラ」
「そんなオッサンより、若くてたくましい俺を先に気持ちよくしてくれないか? メイドさん」
南天がメイドに向かって手招きすると、メイドは巨大な包丁を頭の上に振りかぶった。
「デハ! オ望ミ通リ! 先ニ! 真ップタツニシテ! サシャーゲマスワ!!」
「あまり大量消費は好ましくないが、致し方無し……」
南天はポケットから精一杯握れる分の鉄球を取り出し、メイドを目前まで引きつけると掌の中の鉄球を空気で一気に圧縮させる。
そして大きく振りかぶり、それをメイドへ投げつけた。
「雉撃ち散弾!」
ドパァァーーーーン!!
襲いかかってきたメイドの至近距離で、大量の熱せられた鉄球を投げ付けたのだ。
強烈な炸裂音が鳴ると同時に、メイドの胸から上はバラバラに吹き飛ぶ。
その散らばった肉片や眼球が救出対象者の顔に当たり、彼はショックで失神した。
「胸……デカかったなぁ、もうちょっと近くでじっくり拝みたかった……」
南天は千代草が聞けば怒るような台詞を呟き、炭化して消え逝くメイドを見送った。
*次回、千代草の戦い『ドラゴンと壊れた人形』




