桔梗《ききょう》さんは怒りたい
◇桔梗
「あの、アホどもめぇ〜……」
英の意識が戻った二時間後、再び医務室の様子を見にきた桔梗は、無人のベッド二つを見下ろして目を釣り上げた。
すぐさま医務室に備え付けられている専用通信機を使い、急いで英を呼び出す。
……応答してくれない。
次に南天を呼び出す。
……応答してくれない。
最後に施覆花を呼び出す。
『はいは〜い♪』
ワンコールで軽い返事が返ってきたことが、なぜか桔梗の逆鱗触れた。
「ちょっとオグ! ハナとナンが消えた! そっちに向かっているかも!」
『なんや急に! 落ち着けや桔梗」
「落ち着いてられないわよ! アイツら重症なのよ!任務ができる体じゃないわ!」
「そっか……アイツら動き出したんやな……ほなコッチに来るまで待ってやるか」
「馬鹿言わないでッ! あんな体で何ができるのよ!? そっちに着いたらすぐ戻るか、そこで待ってろって伝えて!」
『そりゃ無理や……英は上司の九鬼さんの命令すら聞かん時がある。俺が言うたってアカンわ。まぁ、この件が終わったらすぐにソッチに連れて帰るわ。ほな』
「あ、コラ! オグ、待ちなさいって!? もしもーし!?……あぁ〜もう!」
通信を切られた桔梗は、力強く電源を切り、コートを持って医務室から飛び出した。
◇英、施覆花、鉄線、南天、苧環
英達五人はポイントRの山中にて、千代草、九鬼、迷子奪還&槐捕縛作戦敢行チームと称して準備を行なっていた。
「そう言えばお前らがここに来る前に桔梗から連絡あって、あいつブチ切れしとったで」
施覆花は南天の右足に、松葉杖を折って作った簡易的な義足を取り付けながらそう言った。
「……でしょうね。ポイントRに到着するまでしつこく着信がありましたから」
南天は答えながらリュックを背負い、サイドバックを腰に取り付ける。どちらも中身は大量の小さな鉄球だ。
「後はこのベルトを体に巻きつけてと……完成したぜ。南天」
鉄線が、銃弾を模した鉄の塊が、整然と配列してあるベルト二本を、南天の肩に斜めに巻きつける。
「お〜、ええ感じやんか」
施覆花は顎に手を当てて頷く。
「一九八〇年代あたりの映画で観た気がするぜ……密林の中を、単独でゲリラ戦をやる主人公の映画だ。それにちなんで名付けよう……『ナンボー』と」
鉄線が口にした言葉で施覆花が手を叩いて笑う。
「二人とも、俺で遊んでいませんか……?」
「やれやれ、遊びに行くんじゃないんだそ……」
三人を遠巻きに見てそう呟く苧環は、英に新しい通信機と、手の平ほどのパウチを手渡した。
「九鬼さんと千代草が居る異世界は、全体的に通信障害が発生している。直接連絡は取れないが、微弱ながら発信機の電波だけ追える状況だ。だがこの新型の通信機は通信障害に強く改良してある。これなら、あの異世界でも俺達五人の間でやり取りができる」
「分かった。ありがたく使わせてもらうよ。……それと、これはなんだ?」
「まだ試作の段階だが、中身は桔梗の回復魔法一回分を凝縮して封じてある。袋を開いたら発動する仕組みだ。まぁ、お守りだと思って持って行ってくれ」
「そんな物まで作っていたのか? お前、諜報部より開発部のほうが合ってるんじゃないか?」
「いいや、開発部で便利な物を作ったら、誰の手に渡るかわからないだろ? 俺の作った物は俺が信用する人に使ってもらいたい」
「なるほど、ありがとう苧環……それにしても南天の奴、あれで歩けるのか?」
英は談笑している三人を見る。
「南天にも、九鬼さんみたいに大型の戦斧を出し入れできる『多次元リング』を使わせてやりたいのだが、アレは使う者に相当な技量を要求する代物だ。暴走させて周囲の物を何でも吸い込んでしまうと危ない」
「ああ……班長が両手首に通してあるブレスレットか? 仕組みがイマイチわからんが……さて、」
英は苧環に向き直る。
「お前達兄妹には助けられてばっかりだな……ありがとう」
「いいさ、将来義兄になる人だ」
「お前までソレ言うのかよ?」
英は苦笑いをする。
……
「よっしゃ! そろそろ行くでぇ!」
ポイントRに設置した装置から、空間転送がはじまる。目的地は『戦国時代風の異世界』だ。そこから九鬼が持っている発信機の信号をキャッチしている。
千代草とシロにも発信機を持たせてあった。これも九鬼と同様、やや座標はずれているが、九鬼がいる異世界から信号を出している。
信号から分かる事は、九鬼は単独で異世界を行動中、千代草とシロは動かず、同じ場所で留まっている。こちらは監禁されている可能性が高かった。
「俺と鉄線は九鬼班長を! 英と南天は千代ちゃんを探せ! いくで!」
日が完全に落ちた頃、四人が光球に包まれて異世界へと旅立った。
ポイントRに残された苧環呟く。
「みんな、死ぬなよ……」
*次回、『幼き欲情』




