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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第九〇話 突飛もない母のお話


「…あら! 久しぶりの帰宅だから覚悟もしてたんだけど随分綺麗になってるじゃない。感心感心。前に見た時はかなり散らかっていたのに…まさか蓮が片付けたの?」

「そこについてもちゃんと説明するから。ひとまずリビングの方来てくれ」

「分かったわよ。…それにしても、本当に掃除が行き届いてるわね。これを蓮が…? もはや磨き上げられてるレベルね」


 思いもよらぬ形で再会することとなった蓮の母であったが、あの場所でいつまでも騒いでいたところで近所迷惑にしかならない。

 そうするくらいなら一度自宅まで戻って冷静になれる環境を整えた方が良い。


 なので双方にとって慣れた場でもある蓮の家……まぁこの場合はどちらにとっても同じ自宅になるわけだがそこは気にしない。

 何はともあれそうした判断から未だ状況を飲み込み切れていない様子の美穂も引き連れて家に戻っていく。


 ……が、そこでこれは少々想定外だったが久方ぶりに帰った自宅の光景を目の当たりにして密かに驚きの声を上げている。


 しかし言われてみればその言葉も納得のものではある。

 蓮自身も指摘されるまで半ば忘れかけていた事実ではあれど、かつて蓮が一人で過ごしていた時この家はそこかしこに物が散乱している状況であった。


 美穂と出会ってからは彼女の手によって抜群に生活模様も改善されていったために、今となってはあの時の惨状は思い出すことさえ困難となっている。

 されど蓮にとっては記憶の底に封じ込められた過去のことであっても、他の者からしてみれば信じられない景色にも早変わりする。


 彼女のリアクションなどはまさしくその典型例であり、親という立場上息子である蓮の家事適性の低さを把握した上でなおかつ、私物がそこら中に広がっていた頃の自宅内部を見たことがある彼の母は静かながらも驚きの感情を滲ませる声を上げたのだろう。

 まぁそこに触れるためには諸々説明しなければならない点が多すぎるため、一旦スルーさせてもらうことにして真っすぐリビングに向かう。


 ちょこちょことその後ろをついてきた美穂がこれまた慣れた雰囲気で席に着けば、向こうもそれを見て何か言いたげにはしていたが言葉にはせず腰を落ち着けさせた。


 そして……ようやく流れが一段落したと確信できた時、あちらから話題は振られる。


「…さてさて、まぁ沢山込み入った話はあるんでしょうけども…にしても、そちらのお嬢さんは随分この家に馴染んでるみたいな動きだったわね。結局どういう関係なのよ、蓮」

「…………」

「……うん、私はいいよ」


 正直予想はしていたし、こうなってしまった以上は言い逃れることなんて出来やしないと確信もしていた。

 偶然とはいえ自らの母とあのような形で再会して、そして美穂とは何の関係も無い他人だと言い張るには距離が近すぎるやり取りを見せてしまっている。


 加えて、家に戻って来てからも勝手知ったる振る舞いで迷う素振りさえ無く傍を歩き進んできた彼女とどのような間柄なのか。

 そこを親である向こう側が尋ねるのは至極当然の話で……ここまで来てしまえば諦めるしかない。


 もとより面倒ごとになるのを避けるために黙っていたことだったが、全てを説明するしか選択肢は残されていないのだろう。

 ゆえに、念のため隣に座った美穂へと視線を動かしてアイコンタクトで話しても良いかどうかの確認を取れば…苦笑しながら頷いてくれていた。


「…仕方ない。じゃあ言うけど、ここにいる美穂とはな──…」




 そして、それから十数分後。


「──と、いうわけで。最近はずっと世話になってるんだよ」

「………なるほど、そういうこと。道理で家の中が綺麗に片付いていると思ったら…そちらの鐘月さんにやってもらっていたと。やっぱり蓮に片付けなんて出来るわけないものね」

「…最近は意識もしてるし努力もしてるっての」

「黙らっしゃい。えっとぉ…鐘月さん、でいいのよね?」

「あ、は、はい! 大丈夫です!」

「ほんと、うちの馬鹿息子が世話になったみたいで…面倒掛けちゃったわね」

「い、いえいえ! …その、私も好きでやってることですから。それに…私の方も、このお家に黙って居座ってしまってたのでむしろ謝るべきはこちら側で…」

「あぁいいのいいの! 鐘月さんは蓮のことを心配してやってくれてたんだし、こっちも理不尽に怒ったりはしないわよ。あと、無断だったことを気にしちゃうならこれからもこの家は普通に使ってくれたらいいわ」

「え…いいんですか!?」


 内容が内容であるため、そして単純に話す物量も多いがゆえに時間がかかってしまったもののそこは事のあらましの要点をかいつまんでいくことで対応した。

 ここに至るまでの重要なポイントを抽出して説明するだけでも十分以上使ってしまったのは予想外ではあったものの、そこまで語ってしまえば大体は向こうにも事情は伝わったはず。


 事実今までの話に大人しく耳を傾けてくれていたあちらは時々驚いたように目を見開きつつも、最後には納得したように何度も深く頷く様子を見せていたのだから。

 またその一方で、自分の息子が他所の家の子に甲斐甲斐しく世話をされていたという呆れた現実を目の当たりにして苦笑しながらも。


 しかしこの母らしく最後は楽観的な結論を見せ、おそらくは美穂が最も気にしていただろうこの先も蓮の家で過ごす許可を非常にあっさりと出していた。


「もちろんよ! 何しろ蓮ったら、生活能力ない癖に今までは改善意識もまるで無かったんだから…親としてはそれを支えてくれる子がいるってだけでも大助かりだもの」

「…! あ、ありがとうございます! えっと、その……蓮くんのお母さん」

「ん? そんな畏まらなくても、普通に名前で呼んでくれれば……あっ、そういえばまだ自己紹介してなかったわね。今更だけど、蓮の母の相坂(あいさか)千夏(ちなつ)よ。これからもうちの子と仲良くしてあげてね?」

「で、では千夏さんと呼ばせてもらいます。それは言われずとも、もちろんです!」

「あら、いいお返事。…本当に良い子ね。ちょっと信じられないくらい」


 そこで改めて交わされた会話──一部始終を聞いていた蓮としては自分の母と美穂が仲睦まじくしている光景をどのような心情で聞けばよいのか部妙なところであったが、何はともあれ円満な終息を見せたらしい。

 心なしかほのぼのとした雰囲気の中でさりげなく明かされた新情報。蓮の母……改め、千夏が無邪気にウインクを飛ばしながら美穂へと名乗っていたが、まぁそこはスルー。


 …どちらかと言えば、一旦の落ち着きを見せたかと思われたこの状況を次なる波乱へと叩き込んできた千夏の()()()()にこそ意識を引っ張られたがために。


「見れば見るほど逸材よねぇ…肌はすっごく綺麗だし、顔立ちも愛嬌があって完璧。しかもスタイルは着こなし甲斐があるくらいで……」

「…おい母さん、美穂を変なことに巻き込むなよ?」

「失礼ね。さっきまでならいざ知らず、息子の友達と分かってる時なら少しは自重もするわよ。まぁ、だからこそ惜しくもあるんだけど……あっ、そうだわ!」

「…?」

「今度は何だよ、急に」


 説明が一段落したからか、場が落ち着いてくると千夏も状況を整理できてきたようで再度目の前にいる美穂のことを何度も見つめている。

 …そしてその瞳には言葉にこそしていないが、明らかに『どうにかこの子を自分好みに仕立てることは出来ないか』という意思がありありと透けて読み取れる。


 職業柄、そういうことには昔から目が無い性格である母を知っている蓮としては余計な事をしないでくれと忠告したいところであるも…そう告げるよりも早く、向こうが両の掌を叩いて妙案を思いついたようにこう言ってきた。


「ねっ、鐘月さん。──ううん、この際だし美穂ちゃんって呼ばせてもらうわね? 可愛いお名前で良いと思うわ!」

「あ、ありがとうございます…? えぇと、それで何ですか?」

「んふふ。別に嫌だったら断ってくれてもいいんだけど…美穂ちゃん、せっかくだし()()()()になるつもりはない?」

「ぶふっ!?」

「ひゃいっ!?」


 …何とも軽々しい様子で、ニヤニヤとした笑顔になりながらそんな提案を持ち掛けてきた千夏。


 しかしその態度とは裏腹に、差し出されてきた提案の方は……とんでもない爆弾発言で、彼女をもってしても平静を装うことが出来なくなるほど、想定の斜め上から来るものだった。


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