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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第一〇二話 無性に会いたい人


 偶然の再会から思わぬ方向へと進んでいった、両者の会話。


 しかしそれは結果を見てしまえば決して悪いものであったとは言えず、むしろ蓮もここで会えて良かったとすら思っている。

 その結末が、過去の友人だった男との全てを白紙に戻す行為だったとしても……あの選択は確実に必要なものだった。


 ゆえに一切合切後悔もしていないし、間違っているとも思っていない。

 ただ一つだけ言っても良いことがあるとするのなら………。


「……ふぅ、なんか…ドッと疲れた気がするな」


 …少々、疲れてしまった。


 直前までは想定外の事態が重なり続け張り詰めていた緊張感が、ここに来て事態を解決に向かわせることが出来たため同時に蓮の身体へ蓄積していた疲労感も一気に押し寄せてきた。

 幸いなことに物理的な倦怠感はそれほどでもないが、メンタルの方はかなり甚大な被害を受けている。


 その程度はというと思わず彼でさえも長い溜め息を吐いて項垂れてしまうほどであり、しばらくは立ち上がる気力すら湧かないだろう。

 ……しかしながら、その一方で蓮の全身にはようやくやり切ったという達成感にも近い心地よさもまた満ち溢れていた。


 まぁそれは当たり前か。


 経緯は紆余曲折ありすぎるものであって、途中からは彼自身も己の直感に従って話していただけだったが結果として多くの成果を得ることも出来た。

 何より、自分の手で過去に決着をつけることが出来た。


 今まで散々苦しめられてきた記憶はもう蓮に苦い思いをさせるのに足るものではなくなり、恐れることさえ無くなったのだ。

 あの一件から明確な一歩を踏み出すことが出来たと断言することさえできるものであって、間違いなく彼の中で何かが変化する一因となってくれたことだろう。


 ──そして、そんな変化を自分にもたらしてくれたのは言うまでもなく…あの少女だ。


(……はぁ、あれだけのことがありながら現金なものだよな。でも何だか…今は無性に、美穂の顔が見たい気分だ)


 疲労困憊状態ではありながらも、どことなく心地よい感覚に身を包まれていた彼の脳裏に真っ先によぎるのは美穂の事。

 ここに至るまでに様々な場面で彼のことを助け、そして手を引く場面では蓮のことを最優先に考えながら導いてくれていた彼女。


 今回のことで蓮に勇気を出す何よりも大きな要因となってくれた美穂の存在を思い浮かべ、心からの感謝を伝えたいと思った。

 またその他にも、今さっきのやり取りを通じてようやっと自覚することが出来た己の()()にも…ほんの少しだけ、我ながら単純すぎるなと呆れるように苦笑いを浮かべながら。


 だがこれはもうどうしようもない。

 今更ながら今日まで誰よりも蓮の隣に立ち、支えてくれていた彼女の存在が自分の中でここまで大きなものとなっていたのかと思い知らされてしまえば無視など出来ようはずも無し。


 かなり遅れてしまったが、今からでもきっと手遅れではないかと自分を励ましていったところで──彼が待ち望んでいた瞬間を見透かしたかのように、少し遠くから彼女の声が耳まで届いてきた。


「──あっ、蓮くん! いたいた! ごめんね、待たせちゃった?」

「………美穂か」


 声が聞こえてきた方角に視線を向けてみれば、そこにはつい数分前までとはまるで変わらない出で立ちのまま彼の名を呼ぶ美穂の姿がある。

 片手には購入したのだと思われる店舗の紙袋を下げ、もう片方の手はこちらに自分の存在をアピールするように大きく振っていた。


 そんな彼女はまるで愛しき相手を発見できたことに全身で喜びを露わにするかの如く、花が咲くような満面の笑みを伴って彼の傍まで駆け寄ってきていた。


「ずっとここで待っててくれてたんだよね? もう少し早く見終わるかと思ってたんだけど、予想してたより見たいものが多くて……こんなに時間かけちゃって大丈夫だった?」

「ん、問題ないよ。俺の方も色々と──美穂がいない間に、少しやってたことがあったからさ」

「…? ねぇ蓮くん、もしかしてなんだけど……何かあったかな? こう、上手くは言えないんだけど蓮くんの雰囲気が変わってるような気がして…」


 が、自分の買い物を終わらせて即座に蓮のいる場所まで駆け寄ってきてくれたのだろう美穂はというと。

 具体的な時間に換算すれば十分程度も経過していないだろうが、そのわずかな隙間にて行われていた一部始終の気配を鋭敏に感じ取りでもしたのか。


 あるいは、その渦中にて起こった彼の変化を鋭く察知でもしたとでも言わんばかりに、首を傾げながらも浮かび上がった疑問を投げかけてきていた。

 そしてその予想は見事なまでに当たっている。


 特段隠すほどの事でもない上に、蓮の方も彼女にはわざわざ沈黙を貫く意味も無いだろうと判断は下していたのでひとまず大まかな事情をかいつまんで明かすこととした。


「雰囲気が変わったってのは分からないが…まぁ何かあったのは間違ってないよ。といっても大したことじゃなくて、単にちょっと、昔の知り合いとばったりここで会ってな」

「お知り合い? でも蓮くんの昔の知り合いなら、それこそ──…え? ま、待って。もしかして、だけど…」

「…多分、今美穂が考えてる()()で当たってるよ。少し中学の頃のやつと、さっきまで喋ってたんだ」

「……ッ!」


 …流石は聡い彼女のことだ。


 まだ事情の説明は要点にさえ触れていなかったというのに、蓮の口から昔の知人とのワードが出て来ただけでその可能性に思い至ったらしい。

 その変化は言葉にするまでもなく、この場の神妙な空気と彼の原因不明な変化という要素も併せて考えてみれば必然的に得られる答えを前にして彼女は信じられないといった感情を顔に浮かべていた。


 しかし残念ながら今回はその可能性こそが正解となってしまっている。

 ゆえに彼も否定はせず、美穂が抱えていた推測をそのまま肯定する形で中学時代の友人と再会していたのだと素直に白状すれば……途端、美穂の面持ちは一気に険しいものへと変化する。


 …美穂がそんな反応を示してしまうのは当然のことだ。


 何しろ彼女は、蓮の身に起こった過去の話を知ってしまっている数少ない人間の一人。

 普段からその時の出来事に触れることさえこちらに気を遣って避けてくれており、蓮の奥底にある傷口を広げまいと常日頃より留意してくれているのだ。


 そのような相手が、ましてや過去のトラウマを呼び起こす原因そのものと言っても差し支えない人物に再会したといきなり聞かされれば警戒心を高めてしまうのは必然のこと。

 浮かべた表情は硬くなり、視線さえもどこにその相手がいるのか見過ごすまいと宣言するかのように鋭さを宿したものへと変わってしまう始末。


 ……ただ非常に申し訳ないことに、今この時点でその過剰なまでの彼を心配する心持ちは無用の長物となってしまっている。


「…蓮くん、すぐに教えて。辛くはない? そういうことならすぐに帰った方がいいよね。あまり長居しちゃうと大変だろうから…」

「いや、大丈夫なんだ。実を言うとそのことについても──もう粗方解決したところだからさ」

「………へっ? か、解決って……どういうこと?」

「それなんだが…ここで話すと長くなっちゃいそうだな。美穂も長時間歩き続けて疲れてるだろうし、一旦帰ろう。詳しいことは、そこで話すよ」

「あ、は、はい…」


 美穂がここまでの厳しい表情を露わとするのはひとえに彼のことを純粋に想ってくれている気持ちあってのことなのだろう。

 実際、自分一人のためにこれほどまでに真剣な態度となって心配してくれる相手がいるというのはとても恵まれたことなのだと蓮自身も理解している。


 …その件が、既に彼の中で問題ですらなく解決してしまった事項になってしまっているという事実を除いた場合の話にはなってしまうが。


 なので一旦彼女にはもう問題が無いこと。

 心配する必要性はとっくになく、蓮も本心を誤魔化しているわけでも気負っているわけでもない。


 ただただ純然たる事実として、この件については既に終わったことになったのだと伝えれば…何とか彼の言葉を理解しようと苦心してくれたのだろう。

 相変わらず脳の処理が追い付いていないのか目を白黒させ、とりあえず返事だけは了承の意で返してくれた美穂の様子に苦笑しながらも彼らは一度帰路に着くこととした。


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