87話:進撃の解放軍
〜前回のあらすじ〜
「あなた達が不甲斐ないからボクが前に出てあげてるんです……感謝してほしいくらいですね」
──────巫女・レイアの救出および大陸北部の解放を目的とした"北部解放軍"結成直後、副隊長に任命されたエルフ族の少年・リュースは発言と態度により早々に一部隊員からの反発を招いてしまう。
事態を見かねた総隊長のグラシアが一度のみ彼等の"決闘"を承認するも、リュースはある奇跡を起こし複数の上級魔導士達を打ち破るのだった。その能力の詳細とは……
"魔力浄化"
エルフ族の少年リュースが起こす、魔法により発生したあらゆる事象を無効化する固有の奇跡。
効果範囲は彼自身のみならず、他者や物体にまで及ぶようで……火傷・麻痺・凍結などの状態異常や幻影魔法に掛かってしまった者であっても直接触れることで効力を解除出来るらしい。何でも先の大戦後、魔王の魔樹魔法に侵蝕されてしまった神秘の森を復興させるのにも一役買ってたのだとか。
「──────内通者への対処だが……先ず幻影魔法で隊員が洗脳される可能性については魔力感知に長けた同胞を何名か連れてきているので、皆定期的に魔法による干渉を受けてないか確認させてもらう。そして変身魔法を持つフォルリアに関しては、先程言ったように私とリュースの奇跡をもって紛れ込んでないか確かめるとしよう」
曰く、他者の記憶を読み取る自身の能力とリュースの能力が合わせれば必ずやフォルリアの変身魔法を看破することが出来る……それが総隊長たるグラシアの主張だった。
「そういうわけで先ずはこの場にいる者達の潔白を証明するために、今日は全員私とリュースによる処置を受けてもらいたい……異論はないな?」
かくして彼女の方針に異議を唱える者はおらず、全員とも二人のエルフによる魔法解除措置および、先の大戦から今日に至るまでの記憶の確認を受け……この場に"裏切り者"がいないことを証明していくのだった。
「アルス!!そっち行ったぞ!!」
「あぁ、任せろ……!」
それからの北部解放軍の進撃は圧倒的だった。
グラシアとリュースにより軍内に不審者がいないことが確認された翌日から本格的に始動した大陸北部奪還作戦……
手始めに一行は最初の駐屯地である"元ダクラス領"周囲に巣喰う魔族を一掃した後そのまま北部に向け進軍を開始し、次々と各地の解放を成し遂げていく。
「──────────【天の糸】!!」
その中でも勇者アルスの活躍は目覚ましいものだった。
仲間達に自身の正体を明かし、魔物としての能力解放に一切の躊躇いがなくなった彼は以前吸収した"上級魔族シルクの糸魔法"を用いて縦横無尽かつ高速に戦場を駆け回り敵を拘束、そして叩き斬る。
「!!ウォルフ、後ろだ!!」
「チッ!まだ隠れてやがったか!!」
「遅いわ下等種!!【地獄の業火】!!」
流石にそれ以上は誤魔化しが効かなくなり他の味方にまで自身の正体が露見する危険が高まるため、糸魔法以外の使用は出来なかったが……それで困る事はなかった。
「馬鹿な……ッ!何故効かない……!?」
「大丈夫か!?ウォルフ!!」
「あぁ!この鎧のおかげでな……あのクソヤローの力を借りてるみてえで、ちと癪だが」
何故なら既に代替手段は用意されていたから……
神秘の森大戦で装備の大半が再び破損してしまったアルス達に騎士団から新たに支給された防具───これらは全て上級魔族ザヴォートを含めた魔族達が城塞都市クヴィスリングにて生み落とした黒鉄製の武具を加工し出来ている。
つまり装備自体に"地獄の鋼禍"と同等の強力な魔法耐性効果が付与されているのだ。これによりアルス達前衛は以前よりも敵の攻撃に対し前に出やすく、味方を守りやすく……また一段階と強くなったのだった。
「二人ともそこ退いて!!私が一気に片付けるから!!」
「へっ!言うじゃねーかよお嬢様!!そんなとこから高みの見物決め込みやがってよぉ!!」
「うっさいウォルフ!!集中乱れるから話しかけないで!!」
そして、それはアルス達だけではない。
上空にて新調した大きな杖に跨り長い金髪を靡かせるローブ姿の少女────レヴィン・トゥローノもまた、北部解放軍の中で確実に頭角を現しつつあった。その理由は以前よりも更に魔力操作技術が向上した事と……
「天よ!我に力を与え賜え!!汝の裁きを今ここに……【雷神の怒り】!!」
たった今、アルス達が普段行ってる短縮詠唱とは異なる正式な詠唱をもって完成させた"上級魔法"の習得にある。
・そよ風の妖精
・雷神の怒り
この二つは元々彼女の姉であるレーニス・トゥローノが使用していた魔法だったが、どういう訳か現在ではレヴィンに伝授されたらしい。
風上級移動魔法によって高所から敵の位置を冷静に見極め、雷上級攻撃魔法で一瞬にして敵を壊滅させたその実力は……最早スーヤ騎士団所属の上級魔導士と何ら遜色ないレベルだと言えるだろう。
「ふーっ……」
「すごいなレヴィン……!いつの間にそんな魔法……」
「言ったでしょ?仲間としてアナタを支えるって……私なりに全部、やれる事やってきたの」
「……ありがとう」
「!ふ、ふんっ……どーいたしまて」
「礼なら俺に言えよアルス!そいつの無茶な練習に付き合わされたの俺なんだからよォ」
「ちょ、いきなり水差さないでよ!!」
「私も!麻痺の魔法を教えました!!」
「フィルまで!?もうっ!!私まだ他にも覚えた技あるんだからね!!見てなさいよ!?」
戦闘終了後に彼等から詳しく話を聞いたところ、どうやらレヴィンは遠征開始までの短い期間で様々な人物と一緒に修行をしていたらしい。
・実の姉からは魔力操作のコツと上級魔法の伝授
・同じ部隊の親友からは麻痺の魔法の伝授
特に風浮遊魔法に関しては魔力操作を失敗した際の危険性から習得にはかなりの苦労を要したらしく、レーニスが修行に付き合えない日は代わりにウォルフを無理矢理付き合わせていたのだとか……
「総員ご苦労、点呼を取るぞ!先ずリュース、そしてアルス、レヴィン、ウォルフ、フィルビー、シオン、クレス、アンカ……」
──────そんな風に北部解放軍は滞りなく進軍し……また、当初より懸念されていた"全能のフォルリア"への対策も抜かりはなかった。
なんでも北部解放軍は現在総数100名程度だが、騎士団員から何名かを小隊長とした部隊制を敷いて隊員同士で互いに監視し合う体制を整えたのだ。
この仕組みにより仮に不測の事態で一時的に姿が確認出来なくなった隊員が出たとしても迅速に捕捉出来るようになり、軍内に"人に化けた魔物"が紛れ込む可能性を大幅に減らすことが出来る。
アルス達はというと監視の都合上か総隊長と副隊長がいる部隊への配属となったが、その中にはなんとクレス達の姿もあり……
「にしてもアルスの旦那もウォルフの兄貴もすげぇ活躍だよなぁ……何でそんなに強えんだ?」
「俺の村は戦士の家系だかんな!小せえ頃から力仕事沢山してたから、ちったぁ力には自信あんだよ」
「それにウォルフは"魔族狩り"なんて通り名が付くくらい昔から戦ってきたみたいだからな……北部の魔族は南部とは大分強さが違うし、その経験値もあるんじゃないか?」
「アルスだってそうだろ!知ってるかクレス?こいつの師匠はな……あの"勇者カリヴァ"なんだぜ??」
「あの有名な!?はー……通りで滅茶苦茶強えわけだ……俺ももっと頑張らねぇとなぁ」
休憩中や夜間の交代での監視・見回り中等に交流を行い、アルス達はエルフの少年以外の仲間達と着実に絆を育んでいった。
生まれ育った環境、ここに至るまでの様々な苦難……皆が皆、それぞれに異なる信条を持っていた。
──────そうして日々は過ぎていき、続く舞台は大陸北部・ジュスティス山脈の中……
「くっ……!」
アルスは今日、新たな戦闘方法を試していた。
遠征開始までの短い期間で騎士団長ペルデールに師事することで叩き込まれた、風の魔力を用いて自身の素早さを加速させる戦闘技術……
戦闘力の底上げになるのは間違いないが、そこはやはり使いこなす難易度が高い風魔法────すぐに習得というわけにはいかないようだ。
「【不全なる器】!!」
「!!────はぁッ!!」
「やりましたね、アルス!」
「あぁ、助かったよ……フィル」
それでもすぐ近くに頼れる仲間がいる以上、不安はない。既に大陸北部でのアルス達解放軍の戦果はかなりのもの……作戦は驚くほど順調に進んでいた。
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息の合った連携で敵を倒し、ハイタッチを交わす赤髪の勇者と黒髪の少女……彼等を遠目に灰髪の戦士は白い吐息を漏らし、隣にいる少女の方を見遣る。
「アイツら最近……前にも増して仲良いな」
「え?あぁ……そうだね」
「……オメーはいいのかよ?」
「……何が?」
「だってお前、アルスの事……」
「キモ、そういうこと気付いても言うなし」
「あのなぁ、俺は……」
「ふんっ……でもま、そーだね」
「?」
「私は……アルスとフィルがそうなるんなら……応援、するよ」
「……そうかよ」
長い金色の髪を揺らし、彼等を見つめて微笑を浮かべる彼女……
何故だろうか。その雪に掻き消されてしまいそうな表情の中に、どこか寂しい色が含まれているように青年の瞳には映るのだった。
◆自作の魔法に関する豆知識
強力な現象を起こす魔法の発動に必要な要素は主に
・魔法の呪文(詠唱)
・適性となる自然の魔力
・魔法のイメージ
3つで、特に詠唱は魔術書等で正式な内容を把握してなければ魔法の発動自体が困難となる。
また一度正式な詠唱で術式を完成させることが出来れば、以降は魔法名のみの"短縮詠唱"でも魔法の発動が可能になる(普段キャラクター達が使ってる詠唱魔法がそれ)。
尚、魔法は使用者の感情によって左右される性質があるため、短縮詠唱に比べて正式詠唱の方が威力が上がりやすい傾向にある。
以上、あえて本文中に説明することはないだろう設定をここで失礼しますm(_ _)m




