50話:超常決戦
〜前回のあらすじ〜
聖地・アミナス教国の神秘の森の前にて本格的に始まった人類連合軍と魔王軍の戦い……
ユニコーンを駆り、巫女レイアと騎士団長ペルデールと共に先陣を切るグラシアだったが、凝縮した強大な魔力を纏う魔王には全ての奇跡による攻撃が無効化されてしまう。
次なる手段として接近戦を仕掛けるも、待っていたのは魔王が操る"樹木を生み出す魔法"による飽和攻撃──────
そのまま押し潰されるかと思われたが、巫女の感謝の言葉と共に状況は一変する……!
※今回も前回と同様、一角獣の騎士であるグラシア視点の話です。
【事前知識】
奇跡=エルフ族が扱う魔法のような力
※33話で既に説明してますが、忘れてる方もいると思うので今話が読みやすくなるよう改めて解説です。
"転移の奇跡"
それは巫女固有の特殊な力の一つ。
スーヤ教の巫女に選ばれた者には女神の声が聴こえる────だけでなく、女神をその身に降ろす恩恵として様々な強力な力を授けられるのだ。
・物理防御を無視する不可視の斬撃
・上級魔族に匹敵する再生能力
これらの能力の原理および詳細は騎士団員であっても開示されないが、唯一この"転移の奇跡"だけは情報が明かされている。その効果とは……
「なッ……!?コレは……」
──────任意の場所に人や物体を瞬時に移動させる、所謂"瞬間移動能力"だ。
一角獣の騎士、巫女、騎士団長、魔王……
この大戦の主役とも言える強大な力を有する彼らはたった今、巫女が発動した"転移の奇跡"によって地上から一転、神秘の森の遥か上空へと一瞬で転移させられた。
「魔王ハイル────覚悟なさい……!!今日この場を以て、アナタという罪を浄化して差し上げましょう」
驚愕を露わにする魔王を前に力強く宣言する巫女……その間にもグラシアの身体は大気を切り抜け、広大な自然へ向け一直線に落下していく。
『ギィンッ!』『ガキィッ!』『ゴオオォォ……ッ』
その周囲で鳴り響く音は、人類連合軍と魔王軍により繰り広げられる熾烈な戦いによるもの。
どうやら敵も今日という日のために戦力を高めてきたようで、無数の魔龍族や見たこともない怪物達が縦横無尽に空を飛び交っている。
しかし、地上の国防の要たる"神秘の森"と双璧を成す空の国防の要────"神獣部隊"の活躍により形勢は人類側に傾いているようだ。
「罪……?ククッ……カハハハ……ッッ!貴様がそれを言うかァ……面白い……!!」
落下の最中、不意に聞こえてくるのは魔王の不気味な笑い声。
瞬間、最早会話は不要とでも言わんばかりに巫女の不可視の斬撃波が魔王に御見舞いされる。
ここまでの戦闘で多くの敵を屠ってきた必殺の一撃……だが、相変わらず漆黒のオーラで守られた魔王の身体には傷一つさえ付かない。
「全ては瑣末な事……貴様が犯した大罪に比べれば、な」
そうしている間にもどんどん地上が迫ってくる。
あと十数秒もすれば魔王は神秘の森に到達する……そうなれば恐らく奴の魔樹魔法によって森自体が侵食され、大惨事と化してしまうだろう。
「このままいけば森に辿り着く……わざわざ手間を省いてくれた事……感謝するぞ」
「……それはどうでしょうか?」
「ッ!?」
──────そんな最悪の想定、もとい魔王の目論見は突如神秘の森から吹いてきた強烈な風圧により吹き飛ばされた。
『バサッ……』
グラシアもまた、強風に煽られた身体を背中から生やした翼で体勢を立て直す。
巫女曰く、この羽は同族の中でも選ばれし者にしか顕現しないらしい。
「今の風は……自然の発生ではないな」
反転していた世界が漸く元に戻った────その視線の先でグラシアが捉えたのは風魔法で浮遊する魔王の姿。
先程の突風で打ち上げられた事といい、奴の周囲に展開されている黒いオーラを以てしても奇跡・魔法により発生した風圧そのものを無効化することは出来ないようだ。
「ペルデール、未来は視えましたか?」
「……いえ、どうやら今の私ではまだ奴には勝てないようです」
「よろしい、万が一視えた時はすぐにでも飛んでください……グラシア、手筈通り貴方は私と彼の援護を」
「はい……レイア様」
今し方起きた事象に魔王が訝しんでいる間、巫女は耳打ちするような小さな声で敵を倒す算段を整えていく。
ここまでは当初の作戦通り……そして今、舞台が整い役者も揃った。
ここからが本当の勝負──────気が付けば、先程まで周囲から聴こえていた戦いの喧騒は遠くなっていた。
味方には事前に離れるよう伝えていたが……恐らく敵も本能的に察知したのだろう。
忽然と空の戦場に現れた"強大な四つの力"……その戦いの余波に巻き込まれれば命はない、と。
「──────【逆世界樹】」
先手を取ったのは此方の動きに気付いた魔王。
呪文と共に突き出された奴の腕から夥しい量の樹木が拡散する。速い────────
「〜♪」
しかし、巫女が透き通る歌声と共に剣を振るうと……次の瞬間には迫り来る樹木がバラバラに崩れ落ちる。
『メキメキ……ッ』『ザシュッ!!』『バキャァ……ッ』
──────刹那、始まったのは巫女と魔王による壮絶な奇跡と魔法のぶつけ合い。
両者一歩も退かない互角の戦い……やはり魔王と真っ向から撃ち合えるのは、巫女だけのようだ。
「くっ……!!」
戦いの余波で此方に流れてくる攻撃を、グラシアは騎士団長と共に切り払う。
依然涼しい顔の騎士団長に対し、魔王の攻撃にギリギリ対応するので精一杯のグラシア。
巫女が攻撃の大半を引き受けてくれてなければとっくに死んでいる──────その事実に背筋が凍るが、ここで心を折るわけにはいかない。
何故なら、他でもない巫女自身が……この舞台で共に踊る役者として自分を選んでくれたのだから。
「【裁きの雷槍】!!」
攻撃の合間になんとか見出した僅かな隙……強い想いを乗せてグラシアが撃ち込んだのは、上級魔族相手にも致命傷を与え得る必殺技。
「グ……ッ!!」
騎槍を基点に放たれた強力な雷────それは魔王の身体を貫き、動きを一瞬だけ止める事に成功した。
奴が纏う黒いオーラによって麻痺の魔法程度の威力まで落ちてしまったようだが……
「よくやった、グラシア」
騎士団長が間合いを詰める隙としては十分だ。
『ヒュッ』『ザシュッ!』『バキッ……』
グラシアが稼いだ微かな時間、巫女の力により魔王の目の前へと転移した彼は躊躇なく近接攻撃を仕掛けていく。
接近戦、それは魔法弱者が強者に打ち勝つ数少ない手段。
通常の魔法使い相手であれば今の状況に持ち込めた時点で勝利が確定するだろうが、相手は強靭な肉体を持ち、高い再生能力を誇る魔族の頂点。
加えて物理攻撃においても無類の強さを持つ魔樹魔法、そして"触れた者の生命力を奪う"奴固有の能力……
一見、圧倒的に騎士団長に分が悪い戦いだ。
────しかし、グラシアは彼の勝利を確信していた。
『ザシュッ!!』
何故なら、騎士団長ペルデールには未来が視える。
螺旋模様の翠玉色に変化した彼の瞳に宿りし固有の奇跡……
その力を用いた彼の剣技は巫女をも上回り、接近戦において大陸で彼の右に出るものは存在しない。
正しく"大陸最強"の名を背負うに相応しい剣士なのだ。
「グッ!?コイツ……!!」
切断された側から樹木を再生させ、反撃に出ようとする魔王──────その全てに対し騎士団長は先手を取って封殺していく。
鋼鉄以上の硬度を誇る魔王の魔樹だが、騎士団長が剣に付与した凝縮された炎がそれらに容易に刃を通すのを可能にしている。
通常であれば余りの高音に剣側が耐えれず融解してしまうだろうが……そこは大陸最強の剣士の得物。
彼が扱う剣は特殊な力が施された神器だった。
「邪魔だ……【魔翠の世界】!!」
鋭利な武器状に変質した樹木、植物魔法と同様に相手を麻痺させるために咲かせたであろう花……全ての反撃を発動する前に斬り伏せられ、追い詰められた魔王は新たな呪文を唱える。
瞬間、魔王の全身から樹木が膨れ上がるように広がり──────まるで一つの樹海かのような範囲の魔樹が、騎士団長を覆うように形成された。
圧倒的な質量・範囲による飽和攻撃にグラシアは息を呑む。
いくら未来が視えるとはいえ、騎士団長もあくまで身が一つの剣士……これだけの手数の攻撃を全て捌くのは不可能だろう。
魔王は今、ここで確実に騎士団長を殺すつもりだ。
「〜♪」
「【裁きの雷槍】!!」
だが、彼もまた一人じゃない。
騎士団長が接近戦を仕掛け、巫女が範囲攻撃を不可視の斬撃により無効化し、隙あらばグラシアが援護する……
──────既に盤面は出来上がっていた。
「グッ……オオオオオオオオオオッッッ!!!」
生み出した樹木を砕かれ、動きを止められた魔王が咆哮と共に周囲に展開したのは炎と風の防御魔法。
恐らく騎士団長を引き剥がすために放ったであろうその威力は、まるで城塞都市クヴィスリングで魔王討伐隊に討たれた"紅い竜巻"の必殺技を彷彿とさせる。
「これで決めます!!」
しかしその行動も此方の想定内──────巫女は冷静に転移の奇跡で騎士団長を安全地帯まで移動させ、同時に不可視の斬撃を業火の竜巻へと叩き込んでいく。
広範囲への防御魔法の展開……それは凝縮した魔力の鎧を手放すことを意味する。
つまり騎士団長が奴に近づけない間は、巫女の攻撃が奴に通るということだ。
『ゴオオオオオオオオオオォォォォ……ッッ』
斬撃により歪む炎の螺旋……その奥をグラシアは騎槍を構えつつ見据える。
今の攻撃で奴に致命傷を与えられていれば────
「まだ生きてる!来るぞ!!」
────そんな淡い期待は、騎士団長の呼びかけとほぼ同時に紅い竜巻を突き破るように出てきた炎上する樹木により無慈悲に打ち砕かれてしまう。
「レイア様……ッ!!」
巫女はこれまでと同様に、水の防御結界で消火した上で向かってくる樹木を細切れにして、グラシア達を守ってくれた……が、その身体は既に何箇所か樹木により貫かれてしまっていた。
前方に展開された炎の竜巻により視界が塞がれた影響で、攻撃に対する反応が遅れてしまったのだ。
「……【水の精霊の涙】」
それでも巫女は一切動じる様子なく、詠唱により生み出した水の奇跡を以て炎を霧へと変える。
その向こうでは巨大な影が『メキメキ……ッ』と音を上げながら地上へと影を伸ばしていた。
神秘の森への干渉──────致命傷を負う危険を冒してまで防御魔法を展開し此方の視界を塞いだ理由は、どうやら反撃のためだけではなかったらしい。
『ビュオオオオオオオオオオオッッッ!!!』
しかし、地上から吹いてきた鋭い風の斬撃が再び魔王の野望を打ち砕く。
二度に渡る神秘の森からの妨害……森自体に意思がなければ成せない反撃に魔王は「またか……なんだこの風は……!」と不快感を露わにした。
「この広大な森は私達の叡智の結晶……この美しい自然の全てが私達人類に味方し、貴方達魔族に敵対します」
その言葉に真っ直ぐと言い返す巫女。
霧が晴れた後、彼女の視線の先には……身体中に斬撃痕を負った奴の姿があった。
やはり黒いオーラがない時であれば、遠距離からの奇跡による攻撃でも十分ダメージを見込めるらしい。
「レイア……ッ!!ククッ酷い姿だな……それに大技を使った今の攻撃も結局私を仕留めるのに至らなかった……!また力を無駄に消耗したな」
「……それはお互い同じことです」
しかしその傷も、瞬く間に『シュウウゥゥゥ……ッ』と音を立てて消え去ってしまう。
魔族の始祖である奴の再生速度は、他の上級魔族と比較しても桁外れに早いようだ。
「虚勢を……!その傷を癒すのにも力を使うだろう……あとどれくらい保つだろうなァ……?」
「ハイル……────まだ、気付かないのですか?」
傷だらけの巫女に対し、嘲笑うように語り掛ける完全回復した魔王。
それに対し巫女は淡々と刺さった木の破片を抜き取り、見せつけるように身体を再生させる。
大技を連発し、怪我を癒した巫女……
──────彼女の身体から放たれる奇跡の力は開戦時から依然、一切衰えていなかった。
「まさか……この森の力か……?先程から私を邪魔する風も……」
その事実に魔王は明らかに動揺を見せる。
漸く気付いたようだ……大技を撃ち合ったところで、消耗するのは自分だけだという事を。
この神秘の森"エリュシオン"には人とエルフ族の身体を癒し、天力────人や魔族にとっての魔力を回復させる性質を有している。
つまり長期戦になるほど味方側が有利になる領域なのだ。
「なるほど……ここは貴様が用意した私の墓場……というわけか」
「えぇ、わざわざここまで倒されに来てくれた事に感謝します」
「この私の魔力をも寄せ付けない力……ククッこれだけのものを作り上げるのに一体どれだけの犠牲を払ったのだろうなァ?そちらの女神様とやらは……」
「……」
形成は既に此方側に傾いている。
全ては順調に、女神の意思のままに滞りなく進行している。
……だというのに、魔王は未だに余裕がありそうな態度を見せていた。
「だが認めよう……どうやらここは私も、他者の力を借りねばならないようだ」
「周りの戦況が見えませんか?私の愛する子達がアナタの配下を順調に倒していっています……アナタを助ける者など、どこにもいませんよ」
「確かにな……貴様の側近も、他の者共も手駒として実に優秀なようだ……甘さの残る旧世代にはさぞ負担が大きかろう」
「……?」
「しかし忘れたか?元より我らはお前達よりも遥か高みにいる選ばれし存在だということを……何よりも、私はこの日のために戦闘に特化した個体を用意してきた」
「時間稼ぎのつもりですか?ペルデール、グラシア……」
恐らくは苦し紛れの挑発────話し続ける魔王に対し、巫女は会話を切り上げて剣を構える。
「奴を殺るなら今です……!いきますよ……!!」
そんな彼女の呼び掛けに応え一角獣の騎士もまた、騎士団長と共に武器を構えた。
三対一……加えて此方には神秘の森の加護がある。
このままいけばきっと、魔王だって倒せる筈だ。
「ククッ……クーックックック……!!」
──────しかし、そんな状況にも関わらず魔王ハイルは不敵に笑う。
戦況に見合わぬ態度……その不気味さは、グラシアの思考に一抹の不安を生じさせた。
どうやら戦いはまだ、終わらないらしい。
記念すべき本編50話!ここまでお読み頂きありがとうございます!!
もし面白かったらブクマおよび高評価ポイント、出来たら感想などなどお願いします!お願いします!!
久々の本格的なバトル回な50話でしたが、次回の51話は一旦視点が変わる予定です。
ご理解の程、よろしくお願いしますm(_ _)m




