36.6話:暇とギルドと受付嬢
番外編です。
時系列は前話と同じく事情聴取後の自由行動〜巫女レイアとの謁見の間。
アルスとウォルフ、男メンバーの話です。
「あ゛〜〜〜暇だなぁ……なぁアルス!なんか面白いことねえか?」
「急だな……けど気持ちは理解るよ」
聖地アミナス教国に来訪してから少し経ったある日……アルスとウォルフは宿泊してる宿にて暇を持て余していた。
当初の目的であるスーヤ騎士団からの事情聴取を終え、後はクス伯爵の異端審問会に証人として呼ばれるのを待つのみなのだが……いかんせんそれまでにやる事がない。
新しい装備はとうに購入を済ませてしまったし、女性陣のように教会を回ったり図書館に入り浸ったり、ましてや男二人で観光する趣味もない。鍛錬は続けているものの、こうも刺激がない平和な日々というものは流石に飽きが来てしまう。
──────そんな風に退屈に支配されていた時、不意にアルスの脳天に一つの閃きが訪れた。
「そうだ……せっかくならこの国のギルドに行ってみないか?」
"ギルド"
正式名称は討伐隊ギルド。大国アミナス教国の指示により各国に設営され、国や近隣住民からの依頼を管理して魔王討伐隊へ斡旋する組織だ。所謂魔王討伐隊と依頼者の間を取り持つ仲介業者ってとこだろうか。
「そういやここしばらくはご無沙汰だったな……悪くねえ、早速向かおうや!」
この国のギルドへ赴き依頼を受ける────身体が鈍らないようにする鍛錬にもなるし、この国での滞在費用の節約にもなる。正に一石二鳥。
世界の中心たる大国"アミナス教国"で出回る依頼はどんな高難度のものがあるだろうか……アルスはウォルフと共に内心ワクワクしつつ宿を出て、ギルドへと向かった。
・・・
《ワタクシのペットを探してほしいザマス》
◆ランク:C
◆報酬:金貨1枚
◆依頼主:マダム・ローズ
◆依頼内容:ワタクシのペットの捜索
ワタクシの可愛い可愛いキャンシーちゃんがお家から突然いなくなってしまいましたの。毎日毎日たくさん頬擦りして愛を与えていたというのに……。どうか早く見つけてほしいザマス!
《エルフの彼女を守りたい》
◆ランク:C
◆報酬:小金貨1枚
◆依頼主:内気な青年
◆依頼内容:ストーカーの特定および撃退
ある日、散歩していたら僕は彼女に出会ってしまった。長い髪、整った長髪、触れただけで壊れてしまいそうな繊細な柔肌……完全に一目惚れだった。そんな彼女の後をこっそり追って、なんとか普段暮らしてる集落まで見つけたんだけど……どうにも彼女、最近ストーカーとやらに悩まされているらしい。彼女を助けたい……討伐隊の皆さん、僕に力を貸してください!
《アル中エルフをどうにかしてください……》
◆ランク:S
◆報酬:大金貨1枚
◆依頼主:ギルドマスター
◆依頼内容:受付嬢の勤務態度矯正
ギルドの受付嬢が酒浸りでまともに仕事してくれません……。さり気なく注意しても聞かないし、エルフだから不敬になりそうであまり強く言えないし……。誰か助けてください(泣)
「ろくな依頼がねえな……」
「報酬は悪くないものが多いが、これは流石にな……」
どう読んでも自業自得なペット探し、ストーカーよるストーカーの撃退依頼、果てはギルマスから職員への苦情……────期待に胸を膨らませて訪れたアミナス教国討伐隊ギルドの掲示板に貼られていた依頼は、どれも酷い内容ばかりだった。
依頼のレベルも低ければ、ギルドの中には全くと言っていいほど他の人の姿が見受けられない。唯一自分達以外にいるのは……
────アルスは軽く溜め息を吐いて、問題の人物へと視線を向ける。
「うぅん……グラちゃんエルちゃん、もう飲めないって……」
受付にいたのは、酒瓶片手に机に突っ伏して寝込んでいる女性のエルフが一人。
エルフ族らしく容姿は整っているが……受付嬢としては最悪過ぎた。ふざけているのだろうか?
彼女が国中から畏敬を集めるエルフでなければ、あるいは他の国のギルドであればとっくにクビになっていたことだろう。
「おい姉ちゃん!おーい!!」
そんな彼女にウォルフは近寄り、耳元で声を掛ける。すると彼女は「うぅ、ん……?」と目を擦りながら気怠げそうな雰囲気で半目を此方に向けてきた。
「どちら様でしょうか?もしかしてナンパ……?当店ではそういうサービスは提供しておりませんが……」
「興味ねーよ!見た目は若くても頭の方はボケてんのか!?お婆ちゃんなんか?」
「はー……男の子ってそうやって好きな子の気をなんとか引こうと思ってもない悪口言いがちなんですよねー……美しくてGO⭐︎ME⭐︎N⭐︎」
「なんだこいつムカつくな」
「はぁ……ちょっといいか?」
直後、繰り出される漫才のような問答……見るからに面倒そうな人物のようだ。とはいえこのままでは埒が開かない────そう思い、アルスは間に入るようにして本題に入る。
「なんでこんな閑散としているんだ?それにその、貼り出されている依頼の方も……」
「ショボすぎんだよ!!もっとねえのか?魔獣の討伐とか良い運動になりそうなのはよー」
「んあー…よくあるクレームですねぇ……まーね、詰まるところね……この国は平和すぎるんですよー」
結果、彼女の口から判明したのは……アミナス教国があまりにも平和過ぎて高難度の依頼がそもそも回って来ないという事実。
そもそもこの国の周囲は"神秘の森"に覆われているため、ほとんど魔獣の襲来がないということ。そして神秘の森だけで対処出来ない事態には騎士団が対応するため基本的に魔王討伐隊の出番がないということ。
……結果、ギルドに回ってくる依頼がこの惨状になってしまったらしい。
「ですからねー退屈すぎてぇ〜飲みでもしないとやってらんないんですよねぇー」
「だからといって勤務中に飲酒はどうかと思うが……」
「ふっふっふっ…甘いねボク〜……人生は長距離走なんだから適度にサボらないと最後まで走り切れないものよー」
「エルフが言うと説得力あんな……」
「そういうものなのか……?」
「そういうもんそういうもん……ま、バレなきゃいーじゃないですかぁ〜」
「苦情が堂々と貼り出されてるんだが……」
「はぁ……アルス、もう行こうぜ!こんなとこで時間潰すくらいなら鍛錬でもしてた方がマシだ」
「あ、あぁ……そうだな」
余りの有様に溜息を吐いて出て行こうとするウォルフ。アルスも合わせて受付嬢に背を向けると、「はぁー……仕方ないなー」と気怠げな声が待ったを掛ける。
「この死にたがりな若造め〜……そんなに言うんなら、出しますよ──────とっておきの依頼」
《神秘の森に住み着いた大型魔獣の討伐》
◆ランク:A
◆報酬:金貨1枚
◆依頼主:スーヤ騎士団
◆依頼内容:同上
現在神秘の森内部・北区画にて大型の魔獣が侵入中。目標は現在沈黙中だが、準備出来次第駆除に向かうべし。
「なんだよ良い依頼もあるじゃねえか」
「なんで隠してたんだ……?」
「一般的な討伐隊には難易度が高すぎるからですよーぅ……アナタ達、どうやらそこそこ腕が立つみたいですからお姉さんからの特別出血大サービスです」
エルフの受付嬢がとっておきとして出した依頼は、正にアルス達が欲していた内容だった。
……が、それを隠していた事など色々疑問が浮かんだため、依頼内容について詳しく聞くと色々判明した。
先ずこの事案事態は本来騎士団もしくは兵団の方が対応するものらしいが、どちらも忙しいのに加えて目標となる魔獣が生態系に大きな被害を出すこともなく沈黙しているため緊急性はないとして一旦放置されているらしい。
その結果、体制が整うまで一先ずギルド送りとなったようだが……一介の魔王討伐隊では対処し切れず逆に撃退される事態が多発してしまったとのこと。
ほっといてもそのうち騎士団が出向いて解決する問題なため、安全を考えて彼女は隠していたらしい。
「……それで、どーします?」
「受けるに決まってんだろ!!な?アルス!」
「あぁ、受けさせてもらう」
「即決ですねー……ま、危なくなっても死にはしないと思うんで気軽に行ってきてください……森の加護があらんことを」
・・・
「──────アレか……」
「結構な大物じゃねえの……長いこと歩いた甲斐があったぜ……!!」
時は流れ、受付嬢に教えてもらった道筋に沿って神秘の森を進んだ先……アルス達は遂に目標を発見した。
これまでに見たことがない大型の魔獣────ソイツはアルス達を発見すると共に咆哮を上げる。
「よし、行くぞ!ウォルフ!!」
「おうよ!色々溜まってたもんを全部ぶつけるぜ!!」
そんな強大な敵に対し、アルスはウォルフと共に武器を手に迷う事なく前進する。男同士だからこそ分かる、最高の時間がそこにはあった。




