36.3話:思い出の味
レヴィン×フィルビーの番外編です。
時系列は事情聴取後の自由行動〜巫女レイアとの謁見の間です。
番外編12.5話:脅威の暗黒物質の続き要素もあります。
「うーん……やっぱりフィルが作ったのとなんか違う……なんでだろう?」
「でもレヴィン、これ普通に食べられますよ……すごいです!上達しましたね!!」
「最初のアレに比べたらね……はは……あの時は本当にごめん」
「いやいや!失敗は成功の母ですから!!」
暗黒物質生成による仲間達の暗殺未遂事件から一ヶ月と少し経った頃……レヴィン・トゥローノは今日も親友のフィルビーと共に料理作りの練習に勤しんでいた。
「先ずは一つの料理を極めた方が良い」という親友の助言から、あの日から彼女の得意料理である"グヤーシュ"を作り続けている。
初めて作った時は旅の道中で食材が限られていたこともあり、調理法に多少変更を加えていたのだが……現在滞在しているのが大国アミナス教国ということもあり今回はその必要はなかった。
『グツグツ……ッ』
鍋の中で肉が音を立てて揺れている。肉は大陸タルシスカにおいては貴重な食材だ。
魔獣が大陸に放たれ生態系が破壊されつつある今、野生動物の数は以前に比べて激減しその価値は高騰している。
それ故にフィルビーのいた孤児院でも肉入りのグヤーシュはごく稀にしか出なかったらしい……が、このアミナス教国は世界一安全な国であり、神秘の森があることもあり他の国に比べると比較的野生動物の保護が出来ているか、肉も高値ではあるものの普通に買えたりする。
「フィルはほんとにこのスープ好きだよね」
「はい!大好きです……一番」
「確か孤児院で一番出た料理なんだっけ?だからなの?こんなに美味しく作れるようになるまで練習して……」
────ふと、レヴィンは気になっていた事を聞いてみた。
得意料理だと自負している通り、実際にフィルビーの作るグヤーシュはとんでもなく美味しい。
だからこそ、ここまでの味を再現するまで努力するに至る理由……もとい背景があるのではと思ったのだ。
「それもあります……けど、私にとってこの料理……グヤーシュは思い出の味なんです」
「思い出?」
「えぇ……何せこのスープは、先生……神父様が私を拾ってくれた時に初めて出してくれたものですから」
「……!」
「幼少の頃……戦火に巻き込まれ孤独となった私はたった一人当てもなく放浪していました。でも当時は右も左も分からない子供で……当然、孤独と空腹に耐えかねて生き倒れることになりました」
「そんな……」
「でも……そんな私を救って下さったのが先生なんです」
「……」
「先生は何も言わず私を手を引いて部屋に招き、温かいご飯を出してくれました……その味が忘れられなくて……だからつい、出しちゃうんですかね」
そう考え、軽い気持ちで聞いた問い……その先に待っていたのはレヴィンの想像を遥かに超える深い理由。
思わず言葉が詰まり、何も言えなくなる……がそんな時間は長くは続かなかった。
「あ……」
「あれ……?なんでだろ……目に埃でも入ってしまいましたかね……?」
──────何故なら、話を終えたフィルビーの目から一筋の涙が零れていたから。
「レ、レヴィン……!?汚れちゃいますよ……!」
「いいの!友達だから!!」
レヴィンは咄嗟に自身のハンカチを取り出して親友の目元を拭く。高価なものだとか、お気に入りだとか関係ない。自分の初めての友達が泣いている……それだけで動くには十分だった。
「フィルの言う先生の代わりにはなれないけど……私がフィルに寂しい思いはさせないから!」
「レヴィン……」
「落ち着いたら、また料理の練習付き合ってよね!約束よ!」
「はい……ありがとう」
二人はまた約束をした。
今は料理だけだが、それ以外のこと……色んなことを沢山彼女と共有していきたい。彼女とならきっと何でも楽しいはずだ。
貴族の少女────レヴィン・トゥローノは、親友の笑顔に笑顔で返し……これからの彼女との時間を楽しみにするのだった。




