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バッドエンドな漫画世界に転生してしまいました!誰か助けて!  作者: 蒼衣翼


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第9話 ドナドナ?

 すごい見られてる。

 ガラガラガラと大きな音を立てながら荷車が進み、村から遠ざかって行く。

 荷車を引いているのは巨大なオオカミ、兄のアッシュである。

 そりゃあ見るよね、ガン見だよね。


「メイリア、疲れてない?」

「ううん、平気。ごめんね、私だけ荷車に乗せてもらって」

「何言ってるの。あなたを歩かせてたらいつまでたっても町には着かないわよ」


 父と母は歩きである。

 だって荷車は人が乗るように出来てないからね。

 今だって、私以外は農作物や母が作った織物が詰め込まれている。

 お祭りのときには自由市というものが開かれるとのことで、これらのものは売り物とのことだった。

 ん? これって私、客観的に見たらドナドナされているみたいな感じになるんじゃ?


「お、とうとう嬢ちゃんを売りに出すのかぁ」


 そんな風に思った私の心を読んだように、同じ村のおっちゃんがうちの父にそう話しかけた。

 ちょっと、それってあまりしゃれにならないからね?

 実際貧しさのあまり子どもを売る親はいる。

 それも単に金欲しさというよりも、商家とかに売られたほうが子どもも幸せだろうという親の気持ちもあるらしいんだよね。

 なんか切ない話だ。


「何を言うんだ! 娘は売らんぞ!」


 とうさま反応がマジすぎる。


「グルルルルルゥ」

「うおっ、こいつ噛まないだろうな?」

「さてね。アッシュはメイリアを大事にしているからお前を噛むかもしれんぞ」


 父の言葉を受けて、オオカミの兄が大きく口を開けた。

 後ろからだからあんまり見えないけど、口おっきいんだよね、あにさま。


「ひぃっ!」

「もう、とうさまもアッシュもおじさんを脅かしちゃダメだよ!」

「ありがとう、メイリアちゃん」

「おじさんもあんまり変な冗談言わないでよね」

「あはは、悪かったな」


 おじさんが離れて行く。

 実は村の人たち半分ぐらいが一緒に歩いているんだ。

 ほとんどの人は売り物を背負子に背負っているんだけど、我が家は兄、いや、アッシュがいるし、私がまだ小さいからって父が古い荷車を改造してアッシュに装着してくれたの。

 前からちょっと思ってたけど、うちの両親私に対して過保護気味?


 ともあれ、荷車を引いているおかげで合流したほかの村の人にもアッシュは危険なオオカミではないとすぐにわかってもらえるのでよかったと思う。

 あ、もしかしてそれも狙いだったのかな?


 早朝に村を出て、途中で一泊して次の日の夕方に町に到着した。

 だけど、町には入らずにその門の手前で村の人たちで野営する。

 なんでも町で泊まるととんでもないお金がかかるらしい。

 えっ、ということは私がもし旅に出たとして何かお金を稼ぐ方法を見つけないと宿に泊まることすら出来ないんじゃ?

 思わず汗が出て来る。

 兄の忠告が重みを持ってのしかかった。

 もしかして私って、ものすごく考えなし?

 落ち込んでいると、もふもふの毛皮の兄が鼻先で私をぐいぐい押して自分の体で包んでくれようとした。


「アッシュ、私はやっぱり主人公じゃないよ」

「わふっ(どうした? 晩飯のスープが塩辛かったか?)」

「もう、私が落ち込んだら食べ物のせいにするのやめて! そんなにくいしんぼうじゃないよ」

「あふん(はいはい)」


 くっ、あしらわれている。

 私だって、落ち込んで眠れない日だってあるんだからね。


 ……。

「メイリア、起きなさい」

「ふわっ?」

「やれやれ、外でもぐっすり眠れるとは、メイリアは大物になるぞ」


 うぬぬ、落ち込んでたのにしっかり寝てしまった。

 これはあれよ、もふもふの兄の毛皮が悪いんだから。


 私のプライドはともかくとして、その日の朝は気持ちのいいお祭り日よりだった。

 それぞれの村の代表が手続きをして町に入ると、そこかしこから音楽が流れて来る。

 お祭りってなんだかワクワクするね。


「うおっ! でけえオオカミだ。魔物か?」

「失礼ね、アッシュは魔物じゃないわ!」


 通りがかった町の子どもが兄を指さして大声を上げた。

 私はすかさず大声でやり返す。


「こら、メイリア、あんまり騒ぐな」


 父に怒られてしまった。

 なんでだ、私は兄の名誉を守っただけなのに。


 お祭りでは村ごとに出店のスペースが与えられて、そのスペースを村の人たちで分けてそれぞれ小さなお店を開くことが出来るんだって。


「父さんと母さんは店がいそがしいからお前たちだけで遊んで来るといい。ただし人がいない場所とかに迷い込まないように。迷ったら立派な剣を腰に差した人に自由市場はどこですか? と聞くんだぞ」


 やった! 自由探索時間だ。これで聖女さまを探す時間が出来たよ。


「これがお小遣いね。なくさないように帯の間に入れておくのよ。アッシュ、メイリアをよろしくね」

「わふっ! (任せて、母さん!)」


 母は未だに兄を見てときどき見せる笑い泣きのような表情で兄の頭を撫でた。


「本当に、私のかわいいアッシュなの?」

「わん!(そうだよ母さん!)」


 お互いの言葉は通じていそうで通じてない。

 兄の言葉は私にしかわからないからだ。

 でも、最近は父も母もなんとなくアッシュが兄であることを受け入れているような気がする。

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