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第33話(最終回)

Another Story

  綾野 祐介

第33話


 そして、1週間が経った。杉江統一に呼び

出された綾野祐介、岡本浩太、桂田利明の3

名は新山教授、恩田助教授の待つ生物学教室

の控室に集まった。


「さて、お約束の1週間が経ちました。この

間、教授と恩田助教授には僕の作業には一切

手を出さないでほしい、という願いを叶えて

いただいて本当に助かりました。お二人の気

力や能力は十分ですが、どうしても手伝って

いただくわけにはいかない事があったもので

すから。代わりにずっと桂田さんにはお手伝

いいただきましたが。」


 桂田は少し不満そうな顔をしていた。意に

沿わない事を無理にやらされた、ということ

だろうか。


「そして、別室には沙織さんの身体が保存し

てある、僕と教授で作った保護カプセルがあ

ります。綾野先生や浩太は初めて見ると思い

ますが。今から、お連れします。」


 そういうと杉江は5人を別室へと誘った。

新山教授や恩田助教授には見慣れた風景だ。


「さて、このボタンを押すとカプセルの蓋が

開きます。これは恩田先生に押していただき

ましょうか。よろしいですね、教授。」


「どうぞ。」


 結果を知らされていないのは教授も同じだ

ったが、ここは夫っである恩田に譲ったのだ。


 恩田助教授が開閉ボタンを押した。小さな

機械音と共に蓋が持ち上がる。そこには全裸

の恩田沙織さんの身体があった。本来なら体

温を下げるために低温に保たれているはずの

内部だったが、温度は時間をかけて徐々に上

げられていた。体温は36.5度まで上がっ

てる。

 

 恩田沙織の身体は全身が綺麗だった。見え

る範囲の身体には手術痕も見られない。頭髪

もウイッグではなく地毛で頭部にも手術痕が

無かった。


「これは一体何をどうしたと言うのだ。」


 恩田助教授が不思議に思うのも仕方なかっ

た。1週間前、最後に恩田が見たときにはも

ちろん痕もたくさんあった。頭髪は全部剃っ

ていたので頭部にも痕があったはずだ。何か

異様なことが行われた、としか思えない。


「何をどうしたか。それはお話できません。

また、お聞きにならない方がお互いの為だと

思います。僕も桂田さんも絶対に話さないで

しょう。何をしたか、はこの際どうでもいい

のではないでしょうか。問題は結果です。」


 その通りだった。本人の意識が戻れば、ど

んな治療(?)であっても問いただす必要は

ない。


 そんな話をしている中、徐に恩田沙織の指

が動いた。


「今、指が動きましたね。」


 そして、次々に色々なところが動き出した。

各々が別の意思をもって動いているかのよう

に見えるのが気になるところだ。そしてつい

に瞼が開いた。


「沙織、判るか?僕だ。」


 恩田助教授は顔を近づけて話しかけた。


「こ、う、じ、ろう、さん?」


「そうだ、僕が判るんだね。」


 恩田沙織は不思議そうに辺りを見渡した。

父である新山教授は椅子に倒れこんでいる。

見慣れない顔が数人。


「私は、どうして。なぜここに?何があった

の?」


 沙織の最後の記憶は父が自分を覗き込んで

いる所だ。生物学教室の奥に特別に作られた

実験室のベッドにずっといたはずだった。


「成功のようですね。」


 杉江が少し控えめに喜びを表現した。桂田

は相変わらず不満そうだ。


「私の用はこれで終わったはずだから、もう

関わらなくていいだろう。杉江君、君も程ほ

どにしておくべきだ。」


 そう言われて杉江はただ頷いた。


「説明は、してくれんのだろうね。」


 満面の笑み、とはいかない新山教授だった

が娘の意識が戻ったことは間違いない。感謝

の気持ちは十分ある。ただ、その方法は。


「できません。そうお約束した筈です。綾野

先生も証人としていてもらったのは、そこが

大切だからです。あとは、恩田先生の元で徐

々に回復に向かうと思います。僕の仕事もこ

こまでです。それと教授、僕は今日でここを

辞めさせていただきます。今回のことは特別

です。何かの技術的な話で、以後の医療に応

用できるとか、そういったことではないから

です。それと、万が一どこからか、この内容

が漏れたときに、先生方にご迷惑がかかるこ

とが心配です。今まで本当にお世話になりま

した。」


 杉江の申し出は新山教授には十分予想でき

たことだった。綾野にとっても同様だ。


「それで、これからどうするんだ?」


 一人の友達として岡本浩太が聞いた。


「まあ、またどこかで会うこともあるだろう。

その時は、もしかしたら敵味方に分かれて相

対する、なんてこともあるかも知れないね。」


「杉江君、それは一体どういう意味、」


「綾野先生、大学を退職してアーカム財団に

入るそうですね。先生とはそれほど遠くない

時期に再開する気がします。」


 綾野の言葉を遮って杉江が応えた。


「わかった。敵として現れたときには手加減

も容赦もしない、それでいいんだろう?」


「ありがとうございます。そう言っていただ

けると思っていました。では、僕はこれで。」


 杉江が退室すると、いつの間にか桂田も居

なくなっていた。


 杉江の正体は判らず仕舞いであり、桂田も

結局その本質は判らないまま。人類の敵なの

か、味方なのか。今回はまだいい方に進んだ

が、それはあくまで個人的な繋がりのお陰だ

った。それを以後も期待するのは、虫が良す

ぎるというものだ。


「浩太には、早い段階でミスカトニック大学

に行ってもらうことになるかもしれないね。」


 恩田沙織が意識を戻した喜ばしい場面にも

関わらず、部屋全体の空気は重く、重く感じ

られるのだった。


 その重く重い空気の中、部屋に一角に変化

が現れた。靄のようなものが少しづつ濃くな

っていく。そして漆黒の闇となった。


「まさか。」


 そこから現れたのはナイアルラトホテップ

その人だった。


「色々と面白いことになっているようだな、

ミスター綾野。」


「いったい何をしにここに。」


「そう邪険にするものではない。少しこちら

も面白いことになっているので、教えてやろ

うと態々やってきてやったのだ。実はここの

ところ我が掛かりっきりになっておることが

ある。それは、我が主が地球人と入れ替わっ

てしまった件だ。」


「なっ、なんでまたそんなことに。」


「我に言うでない。それが判れば苦労はしな

い。お前たちに関わっている暇はないのだ。

だが、我が子孫であるお前に一言知らせてや

ろうと思ってな。我々のような長い生を受け

ている存在であっても想像がつかないことが

起きる。だから面白い。いずれにしても早々

に解決し、また再び見える日が来るであろう、

その日まで精々足掻くように。我が主の封印

が解かれる日も近いのかも知れんぞ。」


 大変な事態だった。アーカム財団は認知し

ているのか。


「まあ、これ以上はまたいずれ、ということ

だ。」


 そう言ってナイアルラトホテップの姿は闇

へと消えて行った。

 

「先生。」


「アサトースが地球に。人間と入れ替わって

いるなんて、どう対処すればいいのか。」


 アーカム財団に連絡し調査してもらうよう

要請する以外、何ら対処法が思い浮かばない

綾野たちだった。


END


 一応、このお話はこれで完結です。終わり方を最初に考えないで始めてしまったので、オチの弱さは否めません。

 シリーズとしては、まだ続いて書きたいのですが、いいオチが浮かんだら次回作、って感じでしょうか。

 最後の少しの部分は、他作につなげるように、と思って書いたのですが、なかなか続きが浮かばないので、次回は違う枝分かれの話になるかもしれません。

 長々とお付き合い、ありがとうございました。

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