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第32話

Another Story

  綾野 祐介

第32話


「杉江がそんなことを。」


 岡本浩太には意外だった。比較的におとな

しい学究の徒だったはずの杉江統一が、何か

人間ではない存在だということが。周りには、

その手の話が転がっており、自らも純粋な人

間とは言い難い存在になってしまった浩太か

らしても、杉江は普通の人間にしか見えなか

った。綾野の話では、どうも自分たちとは別

の存在、何かだということらしい。そして、

それを自分でも元から認識していた、という

のだ。浩太たちのように変質した、とか、綾

野たちのように遺伝的な、とう事ではなく、

元々そういった存在だったのだ。成績が良く

て飛び級で入学しているので年下だというこ

とは知っていて、少し幼いくらいにしか思っ

ていなかった。


「それで一週間後にまた集まることになった

んですか。是非、その時には僕も連れて行っ

てくださいよ、僕だけ蚊帳の外はご免です。」


「悪かった。新山教授からは私と桂田君に来

て欲しい、と言われてたからね。次は了解を

取って君も連れて行くようにするよ。」


 綾野は荷物を纏めながらそう約束した。自

室に戻った綾野は大学を退職することになっ

たので引越しの準備をしている。


「先生、ところで、右目は結局そのままです

か?」


 綾野の右目は米国である粉がかかってしま

い、失明、というか眼球そのものが消失して

いた。普段はサングラスで誤魔化しているが

実は眼球があった場所には、何か別の空間が

存在しているのだ。そして、綾野はその消失

した眼球で普通の人間には見えないものが見

えている。左目は普通に見えるのでそのあた

りの感覚を通常生活を送るまでに慣らすのが

大変だった。特に右目は瞼を閉じても見えて

しまうからだ。


「そうだね、もう慣れたけどね。どこかにつ

ながっているようなんだが、皆目見当が付か

ないんだよ。不思議な感覚だ。まあ、怖くて

確認ができない、という感じかな。」


 普通でない状態を、普通に受け入れてしま

っている綾野だった。


「結城君にもお礼を言わないとな、心配かけ

てしまった。」


 陽日新聞の結城良彦は岡本浩太が綾野を探

すのを手伝ってくれていた。綾野とは米国で

行動を共にした仲だ。


「結城さん、今は東京本社に呼び戻されたら

しいですね。本業を疎かにしていたツケが来

た、と仰ってました。先生が東京に行かれた

ら訪ねられたらどうですか。僕も退学して東

京に戻ろうかな。」


「何言ってるんだ、君は卒業したまえ。学業

は学生の本分だよ。まあ、気が乗らないのは

理解できるが。」


「そうなんです。もうなんだが普通に勉強す

る気になれなくて。僕はこれからどうすれば

いいんでしょう。先生みたいにアーカム財団

に雇ってもらおうかな。」


 浩太は真剣だった。学業にはどうも身が入

らないのだ。普通に就職し結婚し子供ができ

て、という人生設計は全く見えなかった。


「君が卒業して、どうしても、というのなら

私から財団に掛け合ってもいいが。それまで

にはもっと知識を得ないと今のままでは無理

だと思うよ。危険な仕事でもある事だし。」


「それは十分判っています。知識不足も十分

認識しています。だから普通の大学の授業じ

ゃなくてもっと研究したいことがある、とい

うことです。例えばミスカトニック大学に留

学するとか。」


「ああ、それなら可能かも知れないね。あち

らには知人もいるから、一度聞いてみよう。」


「よろしくお願いします。できるだけ早く、

で。」


 岡本浩太はすぐにでも渡米したい気持ちだ

った。


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