第31話
Another Story
綾野 祐介
第31話
ひとつの結論が出るようだ。新山教授の娘
さんで恩田助教授の妻である恩田沙織さんは
一度亡くなって脳だけ蘇生させ身体は保存し
てあるが脳を戻しても目覚めない、という現
状を打破できない、ということだ。
「ある程度のことは理解しました。但し、最
初にお話したようにツァトゥグアの元にたど
り着く術を持たないのです。ご期待に添えず
申し訳ありません。」
綾野は沈痛の思いを込めてつぶやいた。
「桂田さんには別の見解があるんじゃない?」
杉江が意外なことを言いだした。綾野にな
いなら桂田にある筈がない。
「ああ、君は少し理解しているようだね。隠
しても仕方ないようなので言おう。確かに僕
には別の見解がある。でも今ここでそれを言
うには機は熟していないと思わないかい、杉
江君。」
桂田がもっと意外なことを言いだした。口
調も今までとは別人のようだ。
「そうかも知れません。でも、あまり時間が
ないのも事実です。あなたの思惑は思惑とし
て協力してもらう訳には行かないものでしょ
うか。昔の誼もありますし。」
杉江、桂田以外の人には二人が何を言って
いるのか皆目見当が付かなかったが二人の間
では会話が成立している。
「どういうことか、説明してくれないかね、
杉江君。」
業を煮やして新山教授が口を挟んだ。
「教授、いずれ説明しますから、今この場は
このまま収めていただけませんか。僕が責任
をもって善処します。申し訳ありませんが、
どうしても言えることと言えないことがある
のです。」
杉江の顔は真剣だった。但し、新山教授や
恩田助教授にとっては事は重大過ぎる。二人
とも簡単には納得できない様子だった。
「10日、いや1週間時間をください。今日
桂田さんに会うまでは確信できなかったこと
が今は確信できました。必ず結果を出します
から僕を信じてください。教授には本当にお
世話になったので、とても感謝しています。
僕の願いは遺体の損傷が激しすぎて叶いませ
んでしたが、教授や恩田助教授の願いは僕も
本当に叶えたいと思っているのです。」
その場にいた桂田以外の人間は誰も納得し
ていなかったが杉江に任せるしか方法がなか
った。桂田は一人、少し困ったような表情を
浮かべていた。結局、一週間で結論を出す、
その言葉を再度確認し散会したのだった。




