CHAPTER1 PART4-2
あたしと同じようにそれに気づいたチェシャ猫さんは、静かにあたしから離れて後ろ髪を触りだした。
しばらくさわさわとした後、
「…っぎゃー!!
俺の大事な髪がァァァ!!」
と叫んだ。
確かに、地面に結構な量の髪の毛が落ちている。
まるで刃物でバッサリ切られたように。
チェシャ猫さんは、勢いよく右を見たかと思ったら左を向いた。
あたしも同じように視線を辿ると、あたしから見て左の方の木に、ナイフが刺さっていた。
たぶん、30センチくらいの大きさの。
そして右を見ると、誰かが草むらをかき分けて来るのがわかった。
(だ、誰っ…!?)
「危ねぇな!
あとちょっとズレてたら頭に刺さってただろ!?」
「うん、惜しかった。
もう少しで君を殺せたのに」
チェシャ猫さんはその人に向かって叫んだ。
そして恐ろしいことを言いながら現れたのは、おかっぱ頭の可愛い男の子。
「可愛い…」
気づけばそんな言葉がこぼれていた。
「可愛いって…アリス、こいつは…!」
ビュッ
「ひい!」
あたしの言った言葉を否定しようとすると、チェシャ猫さんの脇をナイフが通る。
ナイフを投げた男の子は、あたしの前に立った。
「……ヤマネ」
(ヤマネ?
あ、もしかしてこの子の名前…)
「あたしはアリス。
よろしくね、ヤマネさん」
「ヤマネ、でいい」
そう言って手を差し出したので、あたしはその手を取った。
とその瞬間、グイッと引っ張られ勢いで立ち上がる。
「みんなに紹介する。
来て」
手を繋いだまま、ヤマネが来た方向へと歩いていく。
「あ、待って!俺も…」
と言ったチェシャ猫さんに、ヤマネはまたナイフを投げ、
「チェシャはダメ」
と言い放った。
あたしはもう、うさ耳とか猫耳とか、正直どうでもよかった。
すぐに帰れないなら、いっそのこと楽しんじゃおうって思っていた。
夢のことは、すっかり忘れて。