5話 彼女は少女らしいところがある。
昨日の昼休憩にあった猫事件の翌日。
僕は同じように購買で長いこと並び、中庭へ向かおうとしていた。
因みに今日のパンは焼きそばパン二つである。僕が買う頃には、あまり良いパンは並んではいなかった。
昨日と同じ場所へ辿り着く。
既に佐伯はそこに居た。ついでに言えば、昨日居たのと同じであろう猫もいた。
やっぱり周りには人はいない。
ここだけまるで学校から隔離された空間みたいだ。
昨日の再放送のように音を殺して近づく。定位置へ着く。
「今日も会えて嬉しい」
佐伯の声だ。
やっぱりクラスや僕といるときには出さない声。
文字通り猫撫で声である。
「君が好きかなって思ってちゅーる買ってきたんだ」
ニャオと威勢のいい猫の返事。
そいつはとんでもない変人だから、ちゅーるで騙されたらいけないぞ。
とはいっても、猫といるときの佐伯は普通の女子というに相応しい様子だ。
佐伯の様子を伺っていたら、コツコツ、と足音がふと遠くから聞こえた。誰か来る。
やばい。油断していた。
僕は側から見たら盗聴している変人だ。
どうにかして今の状況を誤魔化さなければ。
「ちゅーるを食べたら水分が必要なんじゃないかにゃ?」
「さ、桜庭さん!?」
窓枠から咄嗟に身体を出し、佐伯に話しかける。……渋々だけど。
その場からそそくさと逃げるのは流石に怪しすぎるような気がしたからだ。
どうせだから昨日のことを馬鹿にするような言い回しをしてみた。
佐伯はとても驚いた様子で、眼鏡の向こうでは目を大きく見開いていた。
「……一体いつからそこにいたんですか?」
「君がちゅーるで買収しようとしていた時からにゃ」
「というか、その語尾……」
一拍置かれる。
頭が良いという佐伯の脳がフル回転しているようだった。
「もしかして昨日もいたり……?」
「そのまさかだにゃ」
佐伯は一瞬青ざめたような表情をしていた。
一人で猫撫で声を出しながら、語尾をにゃにしていて喋っていただなんて、確かに僕だって誰にも見られたくはない。
「桜庭さんって結構趣味が悪いんですね」
「どの口が言ってるわけ?」
さっきまで青ざめていたかと思いきや、佐伯はすぐ口元を緩ませた。
「恥ずかしいところを見られるなんて羞恥プレイですね」
気付けば、声のトーンもいつも通りになっていた。
「流石。頭良いと発想の転換も上手いね」
「褒めていただき光栄です」
皮肉だけど。
僕は見逃さなかった。一瞬だけ恥ずかしさで曇らせた表情を。
どんな人間なのか知りたい。そんな興味を少しだけ満たせたような気がした。
それはそれとして、こいつとこんなに話し込んでいるのを誰かに見られたら面倒だ。
「これあげる」
ずっと抱えていた紙パックの牛乳を投げる。
実は猫用に買っていたやつ。
「僕はもう行くから君があげて」
「桜庭さんが言うなら喜んで!」
そう言い残して中庭へと向かう。
視界の端には僕の言いつけ通り猫にミルクをあげている佐伯の姿が映った。




