第13話 一騎打ち
陣に戻って小さな翼のついたヘルメスの兜を被り大音声を上げて我が女軍団にススメ、と号令を掛けた。
しかし動いたのはおれ一人だけだった。
我が軍団兵達は運動会の父兄のように、にこにこしているだけだ。
ここの女達は男の命令など聞いたことが無い。
おれは指揮能力が皆無であることが証明されてしまった。
敵にまで笑われていた。
照れ隠しで、日が高くなった広大な草原の真ん中に自分一人で号令を掛けながら進み出てドン・ミゲルを指さして大音声で呼ばわった。
「いざ、一騎打ちと参ろう。尋常に勝負せよ」
ドン・ミゲルは馬上で少し首を傾げて言った。
「変な物が来たな。ワシをエスクード公爵と知っての挑発か? お前は誰だ?」
「リリオ公国のサティオス伯爵にして騎士のアルマン元帥である」
「ふーん、ちっとも聞いたことないなあ」
うすら笑みを浮かべたドン・ミゲルはおれを知らないフリをしている。
「最近現世界からここに来たのである」
「なに! 現世界?」
現世界と聞いた途端ドン・ミゲルは警戒の表情をした。
それはさすがに気になるらしい。
「何界だろうとも、うるさいから相手をしてやる。小僧、ワシの剣をくらえ!」
「望むところである!」
ドン・ミゲルは馬を降りて剣を抜き天に振りかざした。
それは巨大な銅剣だった。
ドン・ミゲルは叫んだ。
「天の降魔百殺の聖剣を見よ!」
「何それ、ヒラメじゃないの、である! しかも……えらく古すぎない?」
おれは大笑いしてしまった。
名前もさりながら古墳から出てくるような幅広の平べったい実用性の怪しい格好をしていたからだ。
言われて思わず自分も剣を見てしまい、愚弄されたと思ったドン・ミゲルは真っ赤になって怒りおれに打ちかかってきた。
おれは丈夫な樫の棒で真横から平べったい剣を打ち払った。
ぐわ~ん、と音がしてドン・ミゲルの聖剣はぐにゃりと曲がり、? マークの形になった。
それを見た敵も味方も大笑いした。
「あれ? 我々の殿は存外弱い」
「あはは」
それでさらに怒ったドン・ミゲルは陣地に帰り、重代伝世の剣があっさり曲がったことを笑った家来にげんこつをかました。
そして弓矢を取り出しておれに向かって射た。
「くらえ! 銀光の矢!」
おや、銀もあったのか。
ドン・ミゲルの放った矢は……なんだこれ、遅い。
重力が小さいから物はゆっくり落ちる。
だから弓も強くなくてもいいのだろう。
ボヨボヨボヨヨーンと飛んでくる。
手に持っている棒で十分払えそうだと思っていたおれは動かなかった。
だが、もしかして飛んでくる矢を真正面から見た時の錯覚だとしたら……
「何しているの」
「どうして避けないのよ」
わが軍団兵や周りの人々は息をのんだ。
そのときであった。
おれの背後から高速の矢がビューンと飛んできてドン・ミゲルの矢を射落とした。
飛んでいる矢を射落とすという信じがたくも恐るべき腕前に敵味方共にどよめいた。
振り返るとマリサ・ベスーゴが弓を持っていた。
フリアーナとミーヤが驚いてマリサを見ていた。
堅苦しいあの行かず後家に好きな男がいるということが国中にばれてしまった。
ニヤニヤする女軍団兵の前で恥ずかしがるマリサはうなだれ気味に肩で息をしていた。
瞬きしながらおれを見ていたが、振り返ったおれの視線を浴びると恥ずかしそうに後ろを向いて赤くなった。
後でマリサに礼を言うと彼女は少し首を振り
「あなたが危ないと思ったら夢中で射ていた。当たるなんて思わなかった。あんな強い弓が引けたなんて」
つかんだ弓はフリアーナの伝家の宝物だった。
それ以来マリサは人目を気にしなくなり、おれに会うたび兜の小さな翼をにこにこしながら触りたがった。




