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18話 謎の男

 

 雲一つない快晴。


 試験を終えて数日が経過したこの日、クラン【落葉の丘】へと足を運んでいた。

 

「あ、きたよ」 


 小綺麗な格好をしているエリーが、振り向いたまま言った。

 

 ぞろぞろと大広間に入ってきたのは、クランのお偉いさん達。衣服は同じコートで、胸にクランの刺繍がある。あれだけでとても高そう。


 壇上に上がり、立派な椅子にひとりずつ腰掛けていく。後ろには側近なのか、腕を後ろに組んで立っていた。

 

 背を伸ばし深く腰掛けて前を見ている人もいる一方で、足を組んで目をつむる、全く俺達に興味を示さない人もいる。席まで誘導してくれた職員の女性に陽気に話しかける場違いな男までいて、一目でキャラの濃い人ばかりだとわかる。


 ん、あのつばの広い帽子、胸元がざっくりと開いたタイトなドレスに真っ赤な口紅の女性は……マカレナさん!


 S級冒険者『魅惑』マカレナ。

 

 うちの、元勤務店舗の常連客だ。

 クランに所属しているってことは知っていたけれど、ここだったのか。


 俺に気づいたのか、マカレナさんはウインクを飛ばしてきた。そして投げキッス。

 

 俺が「何者だよこいつ」って厳しめの視線を男達から向けられるからやめてください。

 それにしてもあのひげ面の人、どこかで見たような気がする。


「おやおや、代表までお出ましとは、めずらしいんじゃないですか?」


 眉根をあげたのは、隣にいるスリザだ。

 まだ数日しか経っていないのに傷は癒えたようで、これまた紳士らしい格好でいる。 


「……知らないよ」


 こいつもちゃんとした格好……。


 ちなみにロリアもドレスコードをきめている。

 小柄な体躯をしゃれた衣服で包んでいる。

 こいつら三人ともこのまま夜の舞踏会ににでも出られそうだ。



 服装は自由って、手紙には書いてあったよね?


 俺はというと、ほぼ普段着である。

 店番をするときに着る服のほうがまだマシかもしれない、半袖に長ズボン。


 午前中はそこそこ暑いので半ズボンを選びかけるも、それは場にふさわしくないかもしれないと長ズボンを選んだ自分を褒めたい。


 大広間の中央に並ばされているのは俺を含めて十二人。

 一列に四人、計三列で十二人。俺達は一番後ろの列だ。


 左からロリア、エリー、俺にスリザ。

 部屋の端には試験で見た顔もいくつかある。いずれも担当したクランの冒険者だ。俺がスキル『召喚』をいただいたページャーさんだったかなんだかもいる。


 試験初日にみた有力貴族、試験免除組も一列目に並んでいる。

 数が減っているのは、最終的に別のクランを選んだってことだろうか。大手クランの中からどこに加入するか選べるなんて、もはや想像すら出来ない世界だ。


 あの美女は見たことがある。名前は何だったっけ。赤毛の女はすごい技を披露していたはず、そう『落花』だった。


 あれもそのうち『吸収』してやるぜっ。

 

 思えば、あの人は大きな骸骨を召喚していたのに、どうして俺が召喚できたのはゴーレムだったんだろう。

 動く骸骨を出すには、他の属性値が必要? だとしても俺にはそれすら十分にある。


 召喚系で上位になるのがゴーレム、という可能性もある。俺の出したゴーレムの中にはあの骸骨みたいなのが実は入っていたりして。


「どうかされましたかウィルさん。緊張なされてます? そうそうたる面々が壇上にいるというのに、さすが。余裕ですね」 


「うるさい、前向いてて。……なんで笑ってんの?」


 佇まいこそ落ち着き払っているが、その目は見開かれている。口角が上がっていることも、本人は気づいていないようだ。


 不気味さが増しているよ、やめてよ。


「ふふ。ウィルこそ楽しそうじゃない。ねえロリア」


「ウィルくん……もうちょっとまともな服を着てきたほうがよかったね……」


 少女の視線が痛い。


「だよねー。エリーの言うことを真に受けたのが失敗だった」

「ちょっとそれどういうこと?」


 こいつに乗せられたってのもある。「ウィルは何を着てもかっこいいから」という根拠も客観性もなにもない彼女の主観的な判断を全面的に採用した。

 

 なんならエリーの屋敷を出るときは、こいつ気合い入りすぎだろ、と思っていたほどだ。


 恥ずかしい、あぁ、恥ずかしい。


「ここまでS級が揃うと、もはや壮観ですね。七人ですよ七人。大抵の冒険者はひとりで活動するか仲間を引き連れて自分のクランを持ちたがりますよね? ここが大手たるゆえんは、ひとえに七人もS級を集められるという代表の求心力ですよ」

 

「そうなの?」

 

 らんらんと目を輝かせながら話す小男に、かるく引く。


 やはりこいつとは距離を置いた方がいい。やっかいごとに巻き込まれたくはない。


 憧れというより、次の目標を見つけた戦闘狂の目って感じだからだ。


 憧れといれば、ずっと黙って壇上を見つめている少女がいる。


「代表、『隻眼』のサラマン……。貫禄ある」


「ロリアは、好きなの?」


 S級には特に興味がないのか、式典はまだ始まらないのかとそわそわしているエリーが問いかけた。

「好きっていうより……目標、かな。ロリア冒険者になって結構長いから。あ、あの人がセルバンさんかな。副代表で、穏健派らしくて――」


 少女はくすりと笑い、考え深げな表情で言った。


 ずいぶん若いと思うけれど、ロリアっていくつの時から冒険者をやっているのだろう。

 

 そのうち聞いてみよう。


「諸君! まずは祝いの言葉を言わせてくれ。おめでとう。今年もたぐいまれなる才を持つ者を迎えられたことを、うれしく思う。クラン【落葉の丘】へようこそ。君たちは今日から我らの家族といっても過言ではない」 


 壇上にいる七人のうちのひとりが、一歩前に出ていきなり話し始めた。

 

 隆起した筋肉は服の上からもわかるほどで、その通る声はけたたましい。

 首に血管が浮いている。

 首ってあんなに太くなるものなの?


「あの方はガインズ。強硬派で、西方にて長らく続く魔族との戦争にクランの人間として参加されてます。クラン内の派閥としては一大勢力ですね。口火を切ったって事は、やはり我々も抱き込みたいというところでしょうか。魔族と対峙するクエストは出世が速く報酬もずば抜けていると聞きますが、なにぶん命の危険が伴います」


「へー。よくそんなことまで調べ上げたな。またこざかしい手を使って調べたのか?」


「ウィルくん、割と有名だよ? 王宮から戦果を認められて何度も表彰されてます」


「ロリアくわしいっ。ウィルもさ、もう少しくらい冒険者の勉強をしとかないと」


 エリーは横目でこちらを見た。


「お前も知らなかっただろ。なにしれっと知ってた側にまわろうとしてんだよ」


「えへへ」


 ごめん、と手を握ってくるエリーを落ち着かせて、前を向く。


 壇上では、ゴーレムもかくやというほどの山男が魔族との戦いについてつらつらとその意義を語っていた。ずいぶん長いけれど、まだ前置きっぽい。


「いい加減にしてくれガインズ。ここはお前の演説を披露する場ではない。趣旨を理解してくれ。新人が間違ってやっかいな者の下についてしまわないように顔合わせしているんだ。わかるか?」


 めがねを手のひらであげる男。すらりとした体型に肩口まである長い髪、知性を感じさせるその立ち振る舞いはガインズとはまるで正反対。


「言うじゃねえかガリ勉がよ!? ちまちま小銭を稼ぐことしか出来ないコバンザメがなんだって? 落葉の稼ぎ頭がどこなのか忘れちまったか? あぁ?」


「馬鹿め。遺族に支払った金額がいくらになっているか知らないのか? その頭では無理ないがな」


 近寄って真っ正面からにらみ合っている。沈黙が大広間に降りた。


 まずいよ、式典でケンカ勃発? そういうのって生徒とか、合格者のほうで起こるもんではないの? 


 他のS級冒険者は仲裁するどころか楽しそうに見ている。止めなよなにしてんの。


「副代表。穏健派のセルバンですね。クランが取り仕切る商業の全般を管理していて、各国の有力貴族や大商会との関係を強化することに腐心しているようです。前列、前々列にいる有力貴族が試験を免除されているのは、彼の指示との噂があります」


「スリザ……どこからその情報を? 過去に所属してたわけじゃないんだよな? そういえば聞いてなかったけど、ここに来る前は何を?」


「ゴホン、ゴホン!」


 広間の脇に並んでいるクランの職員に、話を聞くよう注意された。


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