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17話 こっちにも


 暗闇に複数のかがり火が見えてきた。


 山の麓からしばらくいったところに、クランが設置した拠点がある。

 本部の大テントがひとつに、各チームのテントが一つずつ。そして試験担当の者等のテントだ。


 出迎えられた俺達は、その足で本部のテントに出向いて成果を報告し、身分が高いとみられる試験官に山の中で起こったことを、ありのまま話した。


 だが、あくまで見たことだけだ。憶測を挟み込んだりはしないでおいた。

 面倒はごめんだからな。


「ウィル、おやすみっ」

「おやすみなさいウィルくん」

「ん、おやすみ」


 シャーっとしきりがエリーによって閉じられた。

 無駄にいい作りで、テント内で二つに分けることが出来る。

 配慮が行き届いているというか、なんというか。


 楽しそうに話す二人を横になりながらぼんやり眺めていると、いつの間にか眠っていた。


 翌朝。

 けたたましい角笛のような音でたたき起こされた俺達は、本部のテント前に整列させられていた。


「えー急遽集まってもらったのは他でもない。当初予定していた日程を繰り上げて、試験を終了するからである」


「どういうことだよ?」

「まだ一日しかたってねえ」

「おれたち待ってただけだぞ……一匹も狩ってねえ……」


 クランの役職につく人だろうか。

 声を張り上げる中年の男のその発言に、受験者らは困惑し、騒ぎ出した。

 それもそうだ。

 日程は今日を入れて二日、つまり全日程三日の試験のはずなのに、昨日一日で終わりとは。

「どういうこと? ねえウィル、昨日の分だけで足りるかな? 私たち合格する?」


 俺の腕に抱きつくエリーは、不安げな顔で見上げてくる。

 困った顔も悪くないな。


「考えられるとしたら……討伐対象がこの地を離れたか、もしかして」

「どうしたロリア。なにかわかった?」


 幼い顔をしかめる少女が口を開こうとしたとき、声のでかい中年の担当官は話を続けた。


「諸君らの疑問、戸惑いは当然である。答えよう、今朝クランの者が調べた結果、巣の破壊が確認された。昨夜に各チームより受けた報告からも、それは承知していたが。残党狩りも必要がないほどに討伐されている。これは、また別のチームによる報告で確認した」


「うそだろ!?」

「初日で巣を破壊なんてありか? 二チームで協力したんだろ! 不正じゃねえか」 

「おれたち一匹も討伐してないよ……テント前の掃除って、評価に入るかな……?」


 口々に思いを吐き出す受験者の後ろで、俺達もまた動揺していた。

「巣の破壊って私たち、じゃないよね? 結局途中で引き返したし。数はかなり倒したけどねっ。主に私がねっ。ねっウィル?」


「すごいすごい。君が一番だよ。世界一。あの後にだれかががら空きになった巣に入って、残りのウォーインセクトを倒したって線が濃厚じゃない? ボスも含めて」


 最終的に俺達の討伐数は、百を超えるほどになっていた。

 ロリアが三十体。エリーが四十体で、俺が六十体を討伐した。討伐の証しである前歯を入れた袋はパンパンになっていた。

   

 気持ちがこもっていないとエリーは頬をふくらませるが、それを指ではさみながら、少女に向かって質問する。


 むーむー言っているエリーと細腕を組んで考え込むロリア。

 やはりエリーのほうが子供に見える。愛嬌と言ってあげるべきか。


「周りには他のチームはいなかった。それに日も暮れかけてたから、あの時点で巣に入るって危険すぎると思うけど……」


「そうだよな」


 ロリアもわからないか。

 いつしかこの少女に頼るようになっている自分に、俺は疑問を持たない。たとえその子が自分より三分の一ぐらいしか生きていない少女だとしても、経験者の知恵は借りていこう。


 嫌みなおじさんなら勘弁だけれど、頼れる少女って、いいよね。


「――ということで、これより合格となった者を発表する」

「!?」


 まさかっ。昨日の実績だけでもう判断したのか? となれば巣を破壊したチームか。


「二チームいる。前に出てきてもらうからそのつもりで。ではさっそく、一チーム目は――」


 そうして呼ばれたのは、スリザがいるチームだった。

 

 受験者らの動揺は収まらない。

 なぜなら、前に出たのは包帯でぐるぐる巻きの小男しかいなかったからだ。


 髪は整えられており、質素ながらも紳士的な装いをしていたその男も、今はその面影などない。 

「なにもんだあの小汚い小男は」

「グレムリンだと言われたほうが納得だ」

「あのチームって、名家の御曹司が二人いたはずだが……」


 ざわつく受験者たちは、周りを見渡している。

 たしかにそうだ。嫌みな奴らがいたはずだが、どこにもいない。


「えー、ローウェン、それにエイヴィンの両名は昨夜のうちに辞退する旨の申し出があり、これを受諾した。よって一名だ。続いて二チーム目は……、ウィル・ウォルテック! 以下二名、前へ」

 

「おおおおお」

 ざわつく受験者達の視線は俺……ではなく後ろのエリーに集中していた。


 一番後ろで話を聞いていたので、左右どちらかに大きく回って前に出ようとしたのだが、受験者達は息を合わせるように真ん中に道を作った。


 これを無視するわけにもいかないので、びしびしと視線を浴びながらもそこを歩くが、俺を見る目がみな懐疑的というか、「だれだこいつ」感が強い。


 俺が一番に呼ばれただろ。一番倒しているって察してよほんと。


 ロリアは冒険者としてやってきたという実績があるから、彼女を知る者はちょくちょくいるようだ。

 

 ふぬけた顔をしているやつも少なくない。

 その目はあこがれというより、美少女を目で追ってしまっているという感じ。


「どもー、あーどうもどうも。応援ありがとー」


 声援を一身に受ける俺の後ろのエリーは、陽気に手を振っている。

 目立ちっぷりはさすがだ。


「やっぱり名家か。どこにいってもこれだよ……」

「そういじけないで。誇っていいんだよ? 一番討伐したんだから。賞賛されるべきはウィルだよね。あーどうもどうも。応援ありがとー。私がエリーです」 


 こいつ、ちやほやされるの、まんざらでもないな。

 冒険者になりたいってこれが理由か?


 いいとこの令嬢だ。

 金に困っているわけでもないし、おとなしくしていればどこかの貴族と縁談が組まれて家庭に入る。

 順風満帆な生活から逃れて、刺激のある世界で脚光を浴びたいのか。

 まあ、誘ってくれたおかげで俺もクランに入れそうだから、感謝しなくては。 

 

 スリザの横に並んで、受験者達のほうを見る。

 先に抜けられて複雑な心境の者もいるみたいだけれど、だいたいの人は実力を認めざるを得ない、みたいな顔をしている。俺とスリザを見るときは。 


「いやぁ、いろいろありましたが、お互い合格できてよかったですね。さすがですウィルさん。これからは大手クランに在籍する冒険者として協力してやっていきましょう」


 白々しい。

 昨日の騒動などなかったかのようにさらっとスリザは言った。

 

「他の二人はタダじゃ済まなかったみたいだけど、どうしてお前はおとがめなしなんだ? なにかクランの人の弱みでも握ってるのかよ」


 昨夜試験担当の人にありのまま報告した内容には、当然スリザが他のチームに働いた妨害工作も含まれている。

 普通に考えれば即失格。の、はずだが、こいつは俺の隣で当たり前のように立っている。


 あの後、巣に単身で挑んでボスを狩った事を評価されたとしても、倫理的にクランはどう評価したのか。

 俺の報告が信じられていないのか……わからない。 


「ウィルさんは疑り深いですねー。そんなことありませんよ? わたくし、禍根は山においてきました。同期として、あらためてよろしくお願いします」


 にこりと歯を見せる小男は、やはり底知れない。


 こういうくせ者は敵に回すとやっかいだ。なるべく距離をとった方がいいかもしれない。


 それにしても、属性値が高い部分ってこういうところにもあらわれるのかな。


「君たち、本当におめでとう。今一度この四名に盛大な拍手を。――なお、今回は異例の事態となったこと考慮して、希望者には別途試験を設けたいと思うのでその点は留意するように」

 

「なんだよ焦ったぜ。でも、何者だ? 聞いたことない名前もけっこうあったが」

「秘蔵っ子だろ? あれだけ討伐できるスキル持ちなんて、貴族以外ありえねえ」

「だな。気にせずいこう。たまたまイカれたやつらと試験がかぶっただけだろ」

「次はもっとはやく掃除して、一匹でも多く倒すぜっ」

「掃除はいいよ……」

 

 受験者達は自分たちにもチャンスが残っていることに胸をなで下ろしたのか、顔つきが緩くなり、改めてエリーとロリアに拍手と声援を送った。


 こっちも少しくらい向けよ。



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