鍛冶職人のトラブル
本日1回目の更新です。
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──鍛冶職人のトラブル
「なんでい。見てわからないのか。取り込み中だ!」
“火竜の巣”の職人と思われるふっさりとした髭の男が叫ぶ。
「それは失礼した。だが、いい鎧を作っておられるな」
「あ? 鎧の良し悪しがわかるのか?」
「こう見えても剣士だ」
ミカエラは胸甲を眺めてそう言う。
「よき鋼を使っているな。これならば大剣の一撃にも耐えるだろう」
「おうとも。他の工房とは鋼の仕入れ先が違う。値段はするがいい品だ」
「うむ。それだけの拘りを感じる。質もそうだが鍛え方もいいし、飾りも見事だ」
「分かってるな、嬢ちゃん」
“火竜の巣”の職人は満足したようだ。
「良ければ鎧を揃えたいのだが、何かトラブルか?」
「……ああ。息子の婚約者が傭兵崩れに拉致されちまった」
「傭兵崩れか」
ミカエラが眉を歪める。
「領主が前の戦争で雇った連中が、負けたからって居座ってな。領主は金がなくて連中を追い出せないし、好き放題やりやがってるんだ。そして、この馬鹿息子の婚約者ってのがそこそこいいところのお嬢様でな。うちと商売の関係もあるから、婚約できたんだが、そっちの旦那が街の外に出たときに傭兵崩れに襲われちまった」
「それで傭兵崩れから要求はあったのか?」
「身代金やその手の類の要求はなかった。ただ、俺に鎧を300人分作って持ってこいとさ。あの連中、領主の城を襲って、この土地を本格的に支配するつもりだ」
職人が拳を握り締めて怒りを露にする。
「だけど、父さん。連中は傭兵崩れなんだ。要求を断ればカミラちゃんが連中に何をされるのか……」
「だが、傭兵崩れどもに鎧をくれてやれば、連中はもっと大勢を殺す。そして、鎧を渡したところで婚約者が無事に帰ってくるという保障はどこにもないんだぞ」
「何もしないよりいいだろう?」
「いいや。ダメだ。大勢の人間が死ぬことには手を貸せん。あの子のことはもう諦めろ。俺は絶対に傭兵崩れどもなんかのために鎧は作らんからな!」
「父さん……」
職人の息子は床に泣き崩れた。
「男が泣くんじゃねえ! みっともない!」
そう言いながらも職人も苦痛に満ちた表情をしていた。
「良ければ助けになろうか?」
「ん? なんだって?」
「傭兵崩れどもを倒し、あなたの息子さんの婚約者を救出してくればいいのだろう?」
「そりゃあそうだが、相手は300名の傭兵崩れだぞ。いや、領主様の発表によれば340名か。誤差のうちだな。あんた、ひょっとして傭兵団を率いているのか」
「いいや。違う。ただの流浪の旅のものだ。今はこちらのディアナという魔術師様にお仕えしてる」
ディアナがそこで手を振る。
「しかし、それだとあんたと魔術師様だけで300名近い傭兵を相手に?」
「そうだ。ついこの前立ち寄った領地でも傭兵崩れがいて100名程度討伐してきた。腕には覚えがある。だが、高く売りたい。領主を紹介してもらえるか? 彼も困っているというのであれば報酬と引き換えに、傭兵崩れを殲滅してみせよう」
「ふたりで100名をやったのか……」
「いや、100名のときはひとりだ」
「……あんたが冗談みたいに強いっていうことは分かったぜ」
職人は頷く。
「俺はエルマー・エデラーだ。あんたらを領主様に紹介する。あんたの名は?」
「ミカエラ。家を追放された身故に家名はない」
「分かった。付いて来てくれ。領主様の城まで連れていく。ここからすぐだ」
「助かる」
そして、ミカエラたちは街を出て、街道を少しばかリ進み、本当に街のすぐそばにあった領主の城に辿り着く。領主の城は衛兵が守りを固めていた。
「おおい! 領主様に拝謁願いたい!」
「誰か!?」
「鍛冶職人のエルマー・エデラ-だ! あんたらの鎧を作っている人間だよ!」
「ああ。分かった! 通れ!」
城門の上から衛兵が命令を飛ばし、ゆっくりと城門が開かれる。
「何の用だ、エルマー。今回はまだ鎧を頼んではいないぞ」
衛兵の隊長と思しき人物がやってきてそう言葉をかける。
「別の人間に頼まれている。傭兵崩れどもからだ」
「まさか!」
「もちろん、応じちゃいない。ただ、俺の息子の婚約者が人質に取られている」
「だが、応じたりはしないだろう?」
「ああ。そこでこの方々を紹介したい」
ミカエラとディアナが前に出る。
「魔術師のディアナ様とその従者のミカエラ殿だ」
「魔術師! だが、魔術師と言えど300名の傭兵崩れを相手にしては……」
「いや。本命はミカエラ殿だ。この方は隣の領地で100名の傭兵崩れを始末したそうだ」
「なんと。誠か、娘?」
衛兵の隊長がそう尋ねる。
「事実だ。300名でも倒せよう。もし、失敗しても愚かな女がひとり死ぬだけだ。損はあるまい。報酬を約束してくれるならば引き受けるが、どうだろうか?」
「……領主殿と話してみよう」
衛兵の隊長はそう言って、城内に入っていった。
「魔術師様。魔術を見せてはくださいませんか?」
「いいだろう。ほら、アギロ。ちょっと驚かしてやりな」
アギロは一鳴きすると鷲獅子の姿に変わった。
「お、おお!?」
「なんと!」
衛兵たちは驚きの声を上げる。
「まあ、このようなものだ。魔術を見るのは初めてかい?」
「初めてです! 感動しました! これがあるなら傭兵崩れどもも軽く片付きますね」
「まあ、任せておきな」
まだまだディアナの魔術は未知数だ。
「領主様がお会いになられる。失礼のないように」
戻ってきた衛兵の隊長が言い、執事が頭を下げて案内する。
ミカエラとディアナは執事に案内されるがままに、城の中を進む。城の中にはピリピリとした空気が漂っていた。戦いの前の空気だ。衛兵たちも傭兵崩れたちが領主の城を襲うのではないかと恐れ、緊張しているのだ。
「男爵閣下。ディアナ殿とミカエラ殿をお連れしました」
「ご苦労」
領主は40代ほどの痩せた男で、ひょろりとしていた。
「魔術師様と従者殿。聞くところによればあなた方は傭兵崩れどもを退治できるというが、本当なのだろうか?」
「事実だ。傭兵崩れを全て仕留めて御覧に入れよう」
「そ、そうか。魔術師様もいれば安心だな」
領主はコクコクと頷く。
「報酬だが、300万ドゥカートでどうだろうか?」
「お引き受けいたしましょう」
「おお。では、信頼できる部下に傭兵崩れの根城まで案内させる」
ミカエラが振り返るとディアナが凄く嫌そうな顔をしていた。
「あんた、こっちは足元が見れる立場なんだから搾り取れるだけ搾り取らないとダメだろう。全く、あんたは交渉ってものが分かってないよ」
「だが、それでは傭兵崩れと同じだ。それに領主の金は領民の税だ。領主が金が不足すれば領民から得ようとして増税し、その結果民草の暮らしは悪いものとなる」
「お人よしだねえ……」
ディアナは呆れたように肩をすくめた。
「まあ、ディアナに交渉をやらせておけば600万ドゥカートまでは絞れただろうな」
「そんなにか?」
「ああ。あの領主、意外とまだ余裕がある」
「ふうむ」
“竜喰らいの大剣”もそういうとミカエラは悩んだ。
「まあ、いい。今は傭兵崩れどもを斬ることだけを考える」
ミカエラはそう言い切って城内を出た。
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