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辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
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『ウンディーネさんと深淵の谷 ③』

 兵士さんと冒険者さんで結成された大きな軍隊。

 この大きな軍隊が、深淵の谷(アビスバレー)を目指して進軍しています。


 軍の先頭を務めているのは、ティーニヤさんのお兄さん。


 領主さんであるお兄さんは、軍の指揮を執る重要な存在。

 先頭に立つのは、当然のことなのかと思います。


 ただ……お兄さんの隣が、わたしなんですよねぇ。


 同行するとは言いましたよ?

 でもなんで、このポジションなのでしょうか??


 ベリアさんとリアットさんは、後ろの方にいるのに……。

 理解に苦しみます。


 そんなわたしのことを、お兄さんはチラチラと何度も見てました。

 しかも、なんだか落ち着かない様子。


 そこで、わたしから訊ねてみることにしたのです。


「あの~、どうかしましたか?」


「いやなに、其方(そちら)の神獣様の事が気になってな……其女は、どの様な方法で神獣様を使役しているのだ? 是非、聞かせて貰いたい」


 見ていたのは、わたしじゃなくて、シュヴァルツさんだったんですね。


 いえ、それよりも……。


「使役なんてしてないですよ? シュヴァルツさんとは毒の治療をしたことが切っ掛けで一緒にいるようになって……今では大切な家族です」


「シュヴァルツ? 神獣様が名付けを受け入れたと言うのか……ふむ、ティーニヤの寄越した手紙の内容は誠であると…………ブツブツ」


 一瞬驚いた様子を見せた、お兄さん。


 でもすぐに納得したような表情を浮かべます。

 ただ、最後のほうは聞き取れず、なにやらぼそぼそと呟いていましたが……。


 と思えば、今度はハッキリした口調で、言葉を返してきたのです。


「其女、先ほど毒の治療をしたと言ったな。もしやそれは……」


「ハンターさんが使っている毒です」


「やはりか……彼奴等の使う毒は、神獣様をも殺めると聞く。実際、被害に遭われた神獣様も居られるそうだ」


 お兄さんのお話によると、クラーケンさんや、グリフォンさんなどが被害に遭われたのだとか。


 その中でも特に多くの被害を受けたのが、フェンリスヴォルフさん。

 言わずと知れた、シュヴァルツさんの、お仲間さんです。


 これを聞いて、シュヴァルツさんは『グルルゥ』と怒りを露にしてました。

 もちろん、わたしも同じ気持ちです。


「許せませんね」


「うむ。神獣様を殺める行為は最大の禁忌。必ずや首謀者のダークエルフを捕らえねばならぬ」


 お兄さんは両手をギュッと握り締めます。

 そこに強い意気込みを感じました。


 そして、わたしは気づいたのです。


「もしかして、これだけの人数を集めたのは……」


「万全を期す為だ。失敗は出来ぬからな。私の兵だけでなく、各ギルドで実績のある冒険者にも集まって貰っている」


 やはり、そうでしたか。

 そんな気がしてました。


 でも、予想外だったこともあったりします。


「各ギルド? アルファルムンの冒険者さんだけでは、ないんですか??」


「無論だ。此度の件はエルフ領だけの問題では済まされない。カスタリーニからは、プラチナランクの冒険者を寄越すほど重要とされている」


 へえ、王都からもですか……って、プラチナランクの冒険者さん?!

 ランクで言ったら、上から2番目にあたる、凄腕の冒険者さんじゃないですか!!


 驚きましたね。

 機会があったら、ぜひお会いしたいところです。


 それと同時に思います。


「わたしなんかより、その冒険者さんのほうが、お兄さんの隣に相応しいんじゃないですか?」


「ふむ……何故だ? 其女が傍に居れば、私は安全なのだろう??」


「まあ、そうですけど……」


「ならば、此の侭で良いではないか。本当に其女は、可笑しな事ばかり言う」


 別に、おかしなことを言っているつもりはないんですけどね。


 でも、なにを言っても聞き入れてもらえなさそうなので、わたしは黙ることにしたのです。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アルファルムンを出発してから数時間。

 ようやく深淵の谷(アビスバレー)の入り口が見えてきました。


 深淵の谷(アビスバレー)は、上層、中層、下層、最下層の4層に分かれていたりします。


 まあ、層と言っても段々になっているだけなのですが……。


 それでも各層でモンスターさんの強さが変わってくるのです。


 まず上層は草木の生い茂る森林エリア。

 このエリアは深淵の谷(アビスバレー)でも比較的安全な場所と言えます。

 モンスターさんと出会うことも滅多にありませんから。


 次に中層ですが、こちらは岩場だらけの断崖エリアとなっています。

 このエリアから、モンスターさんの出現率が一気に上昇。


 特に、ここで現れるデッドリースコーピオンさんには要注意!

 尻尾に含まれている毒は、『神をも殺す』と言われるほど強力なのです。


 神様をも……って、あれ?


 説明していて気づきましたが……。

 ハンターさんが使用している毒は、デッドリースコーピオンさんの尻尾から作られたものかもしれませんね。


 でも、そうなると疑問が残ります。


 深淵の谷(アビスバレー)に生息するモンスターさんは、暗闇の中だと攻撃力や防御力が上昇するからです。

 松明程度の明るさでは、弱体化できません。


 そのため、ゴールドランクの冒険者さんでも苦戦すると聞きます。


 そんな強いモンスターさんを相手に、魔力のないダークエルフさんが勝てたりするのでしょうか?

 うーん、謎です……。


 まあ、そのお話をおいといて。


 中層の次なので下層の説明になりますね。

 ここはモンスターさんの居住エリアになっています。

 壁には無数の穴が開いていているのですが、これが全て巣穴なのだとか……。


 まさにモンスターさんの巣窟。

 タイミングが悪いと一気に襲われてしまうので、ほとんどの冒険者さんが、ここで引き返すそうです。


 そして最後は最下層。

 こちらは『魔界の入り口』と呼ばれています。


 モンスターさんは一切現れませんが、代わりに魔族さんが現れるのです。


 以前お話しした、ゴルゴーンさんは、魔族さんのひとり。

 バシリスクさんと比べると、強さの違いが、わかると思います。


 10日かけて石化させるバシリスクさんに対して、ゴルゴーンさんはものの数秒で石化させちゃいますからね。


 ちなみに各層の広さは、まちまちで、上層だと全長と横幅が共に1キロメートルくらいでしょうか?

 最下層にいたっては、全長が2キロメートル対し、横幅が100メートル程度だったと記憶しています。


 下に行けば行くほど、距離が長くなり、横幅が狭くなるのです。


 また、深淵の谷(アビスバレー)は山間に存在すると言うこともあって、上層でもかなり薄暗かったりします。

 最下層になると、夜みたいに真っ暗です。


 そこで役に立つのが、炎の杖。

 わたしは炎の杖を肩の位置まで持ち上げました。


「炎よ灯れ」


 そう告げると杖の先端に、直径30センチほどの炎の球体が出現します。


 ファイヤーボールよりは、やや小さめ。

 でも、とっても明るいです。


 やがて、後ろのほうも灯りがともりはじめました。

 こちらは松明の炎ですね。


 そして、お兄さんから指示が飛びます。 


「各部隊に告ぐ。直ちに行動を開始せよ。尚、首謀者を捕らえた者には、褒美を取らせる」


 お兄さんの言葉を聞いて、兵士さんと冒険者さんたちが『おーっ!』と声を上げました。

 その中には、ベリアさんとリアットさんの姿もあります。


 お二人ともやる気満々ですね。

 まあ、ご褒美目当てではないと思いますが……。


 わたし? わたしは捜索には参加せず、お兄さんの隣で待機です。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 捜索が開始されてから1時間ほど経ったところで、兵士さんが慌てた様子で戻ってきました。


「ご領主様に申し上げますっ! カスタリーニの冒険者パーティーが、首謀者と思われるダークエルフを発見したとの事です。ダークエルフは現在逃走中。総出で行方を追っているのですが……」


「どうした? 続きを申せ」


「はい……ダークエルフは、中層に逃げ込んだ模様です……」

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