『ウンディーネさんと迷惑な冒険者さんたち ①』
ベリアさんと再会を果たした翌日のこと。
そのベリアさんたちを乗せた馬車が、イールフォリオに到着しました。
馬車の手綱を握っているのは、ゴールドランクの冒険者さんではなく、グリエムさん。
隣にはヴィルアムさんが乗ってます。
グリエムさんの実力はシルバーランク級。
ゴールドランクの冒険者さんには劣りますが、護衛を任せるには十分。
それに……遅かれ早かれ、イールフォリオに移住することになってましたからね。
ベリアさんたちと一緒に来てもらったわけです。
出迎えにあたったのは、わたしの家族とティーニヤさん。
あと、ティーニヤさんのメイドさんであるメイリーさんの姿もあります。
ベリアさんが馬車から降りると、ティーニヤさんが、ハッとした顔をしました。
「貴女は……貧民街に居た子では、ありませんか?」
その言葉に、ベリアさんは目を丸くします。
「お姫さんは、アタイのコトを覚えているのかい?!」
「勿論ですわ。暫く見ない間に、随分と大きくなりましたわね」
そう言って、ティーニヤさんは優しい笑みを浮かべました。
一方ベリアさんは照れている様子。
なんだか微笑ましい光景ですね。
……と言いたいところですが、ものすごく違和感を覚えます。
少女にしか見えないティーニヤさんが、大人のベリアさんに『大きくなった』なんて言っているんですから。
エルフさんと人族の間に、成長速度の差を感じたりしています……はい。
ところでティーニヤさんの年齢って、お幾つくらいなんですかね?
ちょっと気になるところです。
そんなことを思いながら、ベリアさんたちが暮らす、お家に案内します。
焼け焦げたレンガは全て交換したので、見た目は新築同然。
もちろん内装も完璧です。
ドワーフさんは良いお仕事をしてくれましたね。
感謝の言葉もありません。
そのお家を目にしたベリアさんは……。
「…………」
言葉を失っていました。
「ベリアさん? 大丈夫ですか??」
「あ、ああ……本当にココに住んで良いのかい?」
「もちろんです。そのために用意したんですから」
「こんな立派な家にタダで住むってワケにはいかないね。アタイらも仕事を……」
そこまでお話ししたところで、ドーラさんが、こちらに向かって走ってきたのです。
とても慌てた様子で。
「ハア、ハア……ティーニヤ様、こちらにいたんですか」
「あらあら、まあまあ。そんなに急いで、どうされましたの?」
「昨夜また、冒険者が騒いだと報告を受けまして……このまま状況が変わらないなら、町を出て行くと言っている者もいます。その中には町の有力者もいるので、報告にあがった次第です」
「そうでしたか。ご苦労様です」
「いえ……それで、どう対処しますか?」
ドーラさんの言葉を聞いて、ティーニヤさんは少し考えてから、メイリーさんに視線を移しました。
「メイリーさん、夜番の数は増やせませんの?」
「大変申し上げにくいのですが……これ以上は無理かと。衛兵を割り当てられる余裕が御座いません」
「はあ……解ってはいましたが、困りましたわね」
ティーニヤさんは肩を落とします。
そんなティーニヤさんを横目に見つつ、わたしはドーラさんに訊ねました。
「あの~、元々この町にいる冒険者さんに、夜の見回りを頼むことはできないんですか?」
「できないコトはないけど……多分、誰も引き受けないわよ?」
「引き受けない? それは、どうしてですか??」
「昔からこの町にいる冒険者のほとんどがブロンズランクなのよ。それに対して、新しくこの町に来た冒険者の半数近くがシルバーランク。もし騒動を起こしている冒険者がシルバーランクだとしたら、返り討ちに遭う可能性が高いわ。そんな危険があるかも知れないのに、見回りなんてすると思う?」
返り討ちですか。
物騒なお話ですね。
ですが……。
「それだと、引き受けるのは難しいですね」
「でしょ? 信頼できるシルバーランク以上の冒険者がいれば良いけど、そんな都合の良い冒険者はディーネくらいしかいないからねぇ……」
「わたし? わたしはムリですよ??」
「わかってるわよ。でも、ホント困ったわね」
そう言うと、今度はドーラさんが深いため息を吐きました。
そこにグリエムさんが声を掛けます。
「久しぶりだな、ドーラ殿」
「あら、グリエムじゃない。ラドブルクでの生活はどう?」
「それが、また仕事を失ってしまってな。今度はイールフォリオで世話になることになった。どうか宜しく頼む」
「そうだったの。あなたも大変ね」
「魔力無しの人族など、何処に行ってもそんなものだ。ところで先ほどの話だが……人手が足りないなら、私が手伝うぞ? これでもカスタリーニの軍に属していたからな。夜回りなど、お手の物だ」
冒頭でもお伝えしましたが、グリエムさんの実力はシルバーランク級です。
ドーラさんが言っている条件は満たしています。
これで問題解決……と思いましたが、ドーラさんの表情は晴れませんでした。
「申し出はありがたいけどね。騒ぎは複数の個所で、ほぼ同時に起きているのよ。だから、見回りがひとり増えた程度じゃ意味がないの。ゴメンね」
「むむっ、それは残念だ。だが、騒ぎが同時刻と言うのが気になるな。これは計画的な犯行ではないのか?」
「その可能性はあるわね。なんでそんなコトをするのか理解できないけど」
「ふむ、悪ふざけにしては、度が過ぎるな」
「そうね。さっきは、ああ言ったけど……見回りの件、お願いできる? やっぱ、ひとりでも多いほうが良いから」
「無論だ。任せてくれ」
ドーラさんを見据え、グリエムさんは、しっかり頷きます。
この遣り取りを見ていたベリアさんが、ティーニヤさんに近づきました。
「お姫さん。人手が足りないなら、アタイらにも手伝わせてくれないかい?」
「それはとても助かりますわ! ですが、軍人でも無い貴女が、シルバーランクの冒険者と渡り合えますの?」
「まともにやりあったら勝ち目なんてないさね。だからと言って、戦えないワケじゃない。アタイら弱者には、弱者にしかできない戦い方があるってもんさ。うまくいけば、明日にでも結果がでるかもしれないね。まあ、見ていておくれ」
ベリアさんの言葉が信じられないのか、ティーニヤさんはポカンと口を開けます。
どちらかと言うと、わたしもそのひとり。
でもベリアさんは、自信たっぷりに不敵な笑みを浮かべていました。
迷惑な冒険者さんたちは、元ハンターさんであるベリアさんに、ロックオンされたようです。




