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辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
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『ウンディーネさんとお水の大精霊さん ①』

 今日は数日ぶりに、ティーニヤさんのお屋敷にお邪魔しています。


 メイリーさんに案内され、ティーニヤさんのお部屋に入ると……。


「ディーネさあぁぁああん! 会いたかったですわああぁぁああっ!!」


 絶叫と共に、ティーニヤに抱きしめられてしまいました。

 それはもう、ものすごい勢いで。


「すいません。なかなか来られなくて……」


「良いんですのよ。でも……何かありましたの?」


「アンデイルさんに、魔法を教えていたんですよ」


「そうでしたの。そのアンデイルさんの姿が見えませんが……離れの方に居りますの?」


「いえいえ、アンデイルさんは来てませんよ。今日から町の見回りをすると言っていたので、別行動です」


 そう答えると、ティーニヤは目を丸くしました。


「町の見回りを……アンデイルさんがしてますのっ?!」


「そんなに驚くことですか?」


「驚くに決まっているではありませんか。アンデイルさんは高位の精霊様ですのよ? 本来なら、わたくしごときが『アンデイルさん』……などと、気軽にお呼びしてはいけない存在ですわ。そんな御方が町の見回りをしていらしたら、わたくしだけてなく、町の皆も驚きますわよ??」


 高位の精霊さんは、貴族のハイエルフさんよりも立場が上だと言うことですか。


「なるほど……それなら驚くかもしれませんね。でもこれは、アンデイルさんが望んでしていることですから、温かく見守ってあげてください」


「望んで? それはどう言う事ですの??」


 怪訝な顔をするティーニヤに、わたしは事の経緯をお話しします。


 かくかくしかじか。


「……と、言うわけです」


「ああ……わたくしが愚痴をこぼしたばかりに、この様な事になるだなんて……大変申し訳なく存じますわ」


「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ? アンデイルさんは『誰かの役に立ちたい』と悩んでいましたから。見回りのお仕事をすることで、その悩みが解消されたんです。良いことじゃないですか」


「そう仰るのなら、今回はご厚意に甘えさせて頂きますわ。ただ……アンデイルさんおひとりで見回りするのは心配ですわよね?」


「そのことなら問題ないですよ。アンデイルさんはアスィミさんと一緒に見回りをしてますから」


「アスィミさん? 初めて聞く、お名前ですわよね??」


 首を傾げるティーニヤさん。

 そう言えば、アスィミさんのことを、お話ししていませんでしたね。


 そこでアスィミさんのことを説明します。


「アスィミさんはシュヴァルツさんと同じフェンリルさんの一族で、アンデイルさんのパートナーさんなんですよ」


「あらあら、まあまあ。神獣様をパートナーに迎えるだなんて、ディーネさんとアンデイルさんは、似たもの親娘ですわね」


「そうかもしれませんね。血は繋がってませんけど……」


 冗談交じりに答えると、ティーニヤさんは真面目な顔をして、首を横に振りました。


「血など関係ありませんわ。ディーネさんは本当にアンデイルさんの事を大切に思っていますもの。立派に母親をされてますわ」


 立派な母親ですか……。

 だと良いんですけどね。 


 わたしは、お母さんがしてくれたことを真似しているだけ。


 もちろん、アンデイルさんに対して愛情はありますよ?

 ただ……本当のお母さんがどこかにいると思うと、ちょっと複雑な気持ちになったりします。


 アンデイルさんのお母さんって、どんなかたなんでしょうね。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ティーニヤさんのお屋敷をあとにし、わたしは東の門へと向かいます。


 そろそろ、ベリアさんたちのお家の修理が終わる頃。

 最終確認をするために、やって来たと言うわけです。


 ところが東の門に着くと同時に、大きな馬車が入って来ました。


 残念ながらベリアさんたちを乗せた馬車ではありません。

 到着までにまだ日がありますからね。


 それにこの馬車はとても豪華な造りをしています。

 わたしの購入したものとは比べ物になりません。


 その馬車から、女性が二人降りてきました。


 ひとりは鎧を纏った騎士さん。

 いかにも強そうな感じがします。


 もうひとりは美しい青いドレスに身を包まれた、貴族さんを思わせる女性です。


 いや、美しいのはドレスだけではないですね。

 外見はそれ以上に美しかったりしますので。


 透き通った肌に端正な顔立ち。

 吸い込まれそうになる瑠璃色の瞳。

 紺色から藍色へと変わる、グラデーションカラーの長い髪。


 そして、ナイスなバディ……。


 わたしだってアバターのままなら対抗できますよ?

 今は貧相な体形ですが……。


 あの姿になれないと思うと後悔が残ります。


 そんなことを思っていたところ、ドレスを着た女性が近づいてきたのです。

 何故か睨むような視線を向けながら。


「貴女が私の名を騙る不届き者ですか。多少魔力が強いようですが、所詮は人族。フレイムドラゴンやバシリスクを退けたくらいで思い上がらないでくださいね」


 いきなり上から目線の発言。


 なんなのですかね? この女性は??

 美しい容姿が台無しです。


 ムッとしながらも、わたしは冷静に言葉を返します。


「別に思い上がってなどいませんよ。あと……お名前を騙る不届き者って、どう言う意味ですか?」


「この期に及んで惚けるとは大した度胸ですね。私は水の大精霊……ウンディーネ。この名を聞いても、誤魔化すおつもりですか?」


「ウンディーネさん? あなたが?!」


 エーリィル様が言ってたように、本当にわたしに会いに来たんですね。


 これはさすがに驚きました。


「如何にも。こうして本物が出向いて来ているのです。偽物である事を認め、潔く謝罪しなさい」


 土下座をしなさいと言わんばかりに、ウンディーネさんは地面を指さします。


「謝罪するもなにも、わたしの名前も『ウンディーネ』ですから」


「嘘仰い。証拠があるなら見せてみなさい!」


 証拠ですか……。


 そこまでして証明する必要があるのか疑問ですが、疑われているのも気分がよくないです。


 そこで、バッグの中から冒険者カードを取り出すことに。

 それをウンディーネさんに見せました。


「ここに『ウンディーネ』と書いてありますよね?」


「ば、馬鹿な?! さては冒険者カードを偽造しましたね」


 偽造できるのなら、わたしは『ディーネ』と名乗ってますよ。


 そう告げようと思ったのですが……。


「ウンディーネ様、冒険者カードは偽造不可能となっております」


 女性の騎士さんが、そんなことを言ってきたのです。


 やっぱり偽造できないんですね。

 別に期待とかしてませんが。


 わたしは冷めた表情で騎士さんの言葉に耳を傾けます。

 ところがウンディーネさんは、顔を真っ赤にしてました。


「それくらい、言われなくても解ってるわ! 余計な口出しは、しないで頂戴!!」


「申し訳ありません」


 ヒステリーなかたですね。

 騎士さんが可愛そうです。


 でもとりあえず……。


「これで誤解は解けましたよね? もういいですか??」


「くっ、人族の分際で生意気な。私は最上位の精霊ですよ。分をわきまえなさい」


 そう言って、再び地面を指さします。


 するとここで、シュヴァルツさんがウンディーネさんの前に立ちはだかったのです。


『分をわきまえよだと? お主は誰にものを言っている??』


「ひいっ! し、神獣様?! 何故この様な所におられるのですか??」


『見て解らぬのか? この御方が我のご主人様だからだ』


「この偽物が……神獣様の主だと言うのですか? し、信じられません……」


『まだ偽物だと言うか。お主より、ご主人様の方が遥かに強者だと言うのに……それが解らんとは愚かな奴だ』


 呆れ顔のシュヴァルツさん。

 一方、ウンディーネさんは納得していない様子。


 そんなことよりも、わたしを守ってくれるシュヴァルツさんの姿が素敵すぎて……。

 ただただ嬉しかったです。


「シュヴァルツさん、わたしは気にしてませんから。それくらいにしておいてください」


『ご主人様は、相も変わらず、お優しいですね』


「優しいのはシュヴァルツさんですよ」


『ご主人様』


「シュヴァルツさん」


 このまま二人の世界に突入……すると思いきや。

 突然、ウンディーネさんが驚きの声を上げ、現実へと引き戻されました。


「何故人族が……神獣様と会話できているのっ?!」


「エーリィル様にお願いして、翻訳念話トランスレイトテレパスのスキルを授けて貰ったからですよ。あっ、そうそう! エーリィル様から伝言を預かってましたね」


「エーリィル様から? 一体何を言伝されたのかしら??」


「家出した、お嬢さんのことですよ」


「なっ、何でそんな重大な事を人族の小娘なんかに……」


 ウンディーネさんは、怒りと悔しさが入り混じったような顔をします。


 お嬢さんの家出は誰にも知られたくなかったみたいですね。

 まあ、そんなことはお構いなしに、わたしは伝言を口にしますが。


「えーっと……お嬢さんは精霊術師(エレメンタルマスター)さんをしている女性のハイエルフさんと一緒にいるそうです。それ以上のことは知らないとのことでした」


「ふん! その程度の事で何が分かると言うの。エーリィル様も仕事が雑になったわね」


 相手は女神様だと言うのに、この態度。

 何度もお願いしておいて、これはないですよね。


 なので今度は、わたしが呆れ顔で、ウンディーネさんを見てました。


 そしてこの直後、背後に気配を感じたのです。


 振り返った先に立っていたのは、アンデイルさんとアスィミさん。


「母さ……ま?!」


 あれ? いつもと呼び方が違いますね。


 でもその視線は、わたしではなく、ウンディーネさんに向けられていたのです。

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