『お水の精霊さんと魔法の練習』
母さんに教えて貰った水魔法、『バブルドーム』。
正直言って、これはかなり難しい魔法だと思う。
まず、見えないほどの高速回転。
これがどのくらいの速度なのか判断できない。
そこで母さんに頼んで、再度見本を見せてもらうことに。
内側からじっくり観察するも、やはり良く解らない。
困り果てていると母さんが……。
「外から見たほうが、わかりやすいかもしれないですね」
……と言って、一度魔法を解き、新たにバブルドームを発動した。
今度は誰も入って居ない、空のバブルドームを。
母さんは森から小枝を拾ってきて、バブルドームに向かって投げつける。
小枝は山なりの軌道を描いて、ゆっくり落ちていく。
ところがバブルドームに触れた瞬間、小枝は物凄い勢いで弾かれていった。
それはもう、目では追えないほどの速度で。
呆気に取られているわたしに、母さんが訊ねてくる。
「どうですか? 参考になりました??」
「なった……だけど……ここまでやる必要が……あるの?」
速過ぎるにも程がある。
だけど母さんは首を横に振ることはなかった。
「ありますよ。回転が遅いと攻撃が通りやすくなりますからね。特に切断系の魔法が危険です」
そう言うと、母さんはバブルドームの回転速度を大幅に弱めた。
続けて空を切るように右手を上から下へと振り下ろす。
「ミズイタチ!」
母さんが発した言葉と同時に現れたのは、50センチほどある水の刃。
わたしたち水精霊が使う『ウォーターブレード』に似ているけれど……少し形状が違う。
母さんの魔法は剣と言うよりは鎌に近い。
言うならば『ウォーターサイス』。
でも刃が外になるのだから、鎌であるとも言えない。
母さんは本当に不思議な魔法を使う。
そんなことを考えながら、魔法の軌道を目で追いかける。
そして『ミズイタチ』と言う魔法は、いとも簡単にバブルドームを切り裂いてしまった。
「……え? どうして??」
「ミズイタチのほうが、バブルドームより速いからですよ。詳しいことは、わからないんですけどね。回転速度を上げると、なぜか魔法を弾くんです」
母さんは苦笑しながらバブルドームの回転速度を元に戻し、再びミズイタチを放つ。
すると今度は、バブルドームに触れた途端、ミズイタチが弾けるような感じで消滅した。
母さんは『わからない』と言っていたけれど……。
わたしはなんとなく解った気がした。
恐らく魔法を弾くのは、回転速度を上げたことにより、魔法の威力も上がっているからだと思う。
魔法の威力が強ければ、弱い魔法は打ち消される。
精霊魔法では常識だと言って良い。
とは言っても、相性によっては打ち消せない場合もある。
水魔法の場合、土魔法に滅法弱いから。
だけど母さんは、それすらも無意味にしてしまう可能性がある。
女神様にも匹敵する莫大な魔力量で押し切れば、相手は根負けするに違いない。
凄いな、母さんは。
今のわたしの魔力量だと、バブルドームを完全に再現したとしても数分しか持たないと思う。
その程度で、アスィミ様を守れるだろうか?
いや、無理だ。
「もっと……鍛えないと……」
「なにか言いました?」
「ううん……なんでも……ない……」
それから数日、わたしは毎日、バブルドームの練習をした。
何度も魔力切れを起こしながら。
そしてついに、1時間連続でバブルドームの発動に成功する。
まだ心許ないけれど、町の中ならばアスィミ様のことは守れるはず。
そう確信して、わたしは翌日から町の見回りを始めると決めた。
母さんも了承してくれている。
明日が楽しみだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして待ちに待った、今日を迎える。
わたしはアスィミ様を連れて、町の見回りを開始した。
苦情が多く寄せられるのは、店が立ち並ぶ大通り。
わたしたちは迷わずそこへ向かう。
するとパン屋の店先で、怒鳴り声を上げている冒険者を見つけた。
「こんなシケたパンが、なんで銅貨3枚もすんだよっ! 銅貨1枚で良いよなっ!!」
「そ、それは困ります……」
「はあ? 盾突いてんじゃねーよっ!!」
冒険者の言葉に怯える若い女性のエルフ。
この女性のエルフはパン屋の店主。
母さんが毎日、此処でパンを買っているから良く知っている。
一方、冒険者は男性のエルフ。
こちらは全く知らない。
見た目は中年。
年齢は200歳くらいだろうか。
年上ではあるけれど、序列だけなら、わたしの方が遥かに上。
だけど乱暴な言葉遣いが、わたしを躊躇わせる。
次第に震えだす体。
役に立ちたいと言ったのに情けない……。
そんなわたしを守るかのように、アスィミ様が前に出る。
『アンデイル様、恐れる必要はありません。私がついております』
その言葉を聞いて震えが止まる。
わたしが臆病だと、アスィミ様に危険が及ぶ。
それだけは絶対に嫌。
だからアスィミ様と一緒に冒険者の男の下へと歩き出す。
「店主が……困ってる……」
「ああっ? なんだてめえは……って、精霊様とフェンリスヴォルフ?!」
わたしとアスィミ様を見て、驚く冒険者。
乱暴な言葉遣いだけど、誰だと聞かれたのなら答えるのが礼儀。
「わたしは……アンデイル……この町の神官……ウンディーネの娘……」
「ウンディーネ様の……娘? し、失礼しましたーっ!!」
深く頭を下げたと思ったら、次の瞬間、一目散に駆け出す冒険者。
見回りって、こんな感じで良いのかな?
このあとパン屋の店主にお礼の言葉とパンを頂いた。
悪いような気もするけど、役に立てたのなら嬉しく思う。
それから2時間ほど見回りを続ける。
すると東の門の方で強い魔力を感じた。
何故か2つほど。
とてつもなく大きな魔力は母さんのものだと思う。
それよりもかなり小さな魔力は誰なのだろうか?
でも、どこか懐かしい感じもする。
と言っても良い感覚ではないのだけれど……。
だからわたしは、急いで東の門に向かった。
会ってはいけない人物が居るとも知らずに……。




