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辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
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『ウンディーネさんと頑張り屋さんなお水の精霊さん』

 アンデイルさんのお願いごとは、アスィミさんに会う……。


 それだけでは、ありませんでした。

 むしろ、ここからが本題だったのです。


 アンデイルさんはアスィミさんを一瞥すると、意を決した表情でわたしを見つめます。

 そして、こんなことをお話してきました。


「母さん……わたし……町の見回りをしても……いい?」


 町の見回り?

 アンデイルさんが?!


 突然の申し出に驚きつつも、冷静を装って理由を訊ねます。


「なんでまた、そんなことを思ったのですか?」


「この家で……わたしだけ……何もしていない……それが……いや……わたしも……誰かの……役に立ちたい……」


 訴えるようにアンデイルさんは言いました。

 どうやらそのことで、ずっと悩んでいたようです。


「そうですか……でも、どうして町の見回りなんですか?」


「他所の町から来た……冒険者達が……トラブルを起こしていると……聞いたから……」


 今、アンデイルさんが口にしたのは、イールフォリオで起きている一番の問題点。

 ティーニヤさんも、これについては頭を悩ませていました。


 確か……ティーニヤさんにアンデイルさんを紹介した時も、冒険者さんのことで苦情が寄せられてましたね。

 アンデイルさんは、それを覚えていのだと思います。


 そう言えばティーニヤさんは、以前こんなことを言ってましたっけ。


『ディーネさんとシュヴァルツさんみたいなお二方が、町の見回りをして頂けたのなら、苦情も減りますのにね』……と。


 そのことを思い出し、わたしはアンデイルさんとアスィミさん、交互に視線を送ります。


 目の前にいるのは、高位のお水の精霊さんと、希少種(レア)のフェンリルさんです。

 このお二人なら、わたしとシュヴァルツさんの代わりになるのでは?


 そんな考えが、頭を過りました。


 なのでアスィミさんに訊ねてみたのです。


「その見回りには、アスィミさんも同行してくれるのですか?」


『勿論でございます。私が最も優先するべきは、アンデイル様の身をお守りする事です』


「それなら安心……と、言いたいところですが、アンデイルさんは防御の魔法は得意だったりしますか?」


 アスィミさんから視線を移し、今度はアンデイルさんに訊ねます。


「えっと……それなりには……」


 と言うわりには自信が無さそうですね。

 それなら確かめるしかありません。


「ちょっと見せてください」


 アンデイルさんのお水の魔法を見るべく、お家から少し離れたところに移動します。


 場所はお家の前に広がる草原。

 ここで良いでしょう。


「それでは魔法を発動してみてください」


 わたしの言葉を合図に、アンデイルさんは両手を前に差し出しました。


「ウォーター……ウォール……」


 魔法の発動までに数秒。

 正確には5秒くらいですね。


 生成されたのは直径1メートルほどの円形のお水の壁。

 厚さは30センチと言ったところでしょうか。


「うーん……これだとアスィミさんを守れませんね。もっと大きくて厚い壁を素早く作ることはできませんか?」


『お言葉ですが、ウンディーネ様。私を守る必要などありません』


「そう言うわけにはいきません。アスィミさんが傷つけば、悲しむのはアンデイルさんです。逆の立場なら、アスィミさんだってそうなりますよね?」


『うっ……仰る通りです……で、ですが……』


 困惑する、アスィミさん。

 でもアンデイルさんの表情に迷いはありませんでした。


「わたしも……貴女を……守りたい……」


 そう言って、再びお水の壁を生成します。


 ですが完成までに、これまた数秒掛かっていました。


「大きさは申し分ありませんね。でも時間が掛かり過ぎです。もう少し短縮できませんか?」


「やって……みる……ウォーター……ウォール……」


 それから数十回チャレンジするも、劇的な進歩はありません。

 でも気になることは、ありました。


 そこで、わたしは簡単なアドバイスをすることにしたのです。


「あの~、魔法名は心の中で唱えるようにして、口にするのをやめてみませんか?」


「そ……そんなこと……できるの?」


「できますよ。こんな感じで(ウォーターウォール)」


 心の中で魔法名を唱えながら、わたしはお水の壁を生成しました。

 この間、実に1秒弱。

 それでも直径3メートルを超す、円形の壁を作ってみせたのです。


「うそ……本当に……できてる……」


「魔法名は発動したい魔法を明確にイメージするためにあるものなので、別に口にする必要なんてないんです。アンデイルさんの場合、魔法名を口にしてからイメージしていませんか?」


 わたしが気になったのは、まさにこのこと。

 たどたどしい口調の後に魔法が発動されるのですから、時間が掛かるのは当然です。


 アンデイルさんも、それに気づいている様子。


「あっ……そうかも……しれない……」


「口にするより、心の中で唱えたほうが圧倒的に早いと思うので試してみてください」


「わかった……やって……みる……(ウォーターウォール)」


 言い終えると同時に、お水の壁が生成されます。

 今度はわたしと同じく1秒も掛かっていません。


 上手くいったようですね。

 まあ、当の本人は信じられないような顔をしてますが。


 アンデイルさんは、お水の壁を見ながら、ポカンと口を開けてました。


「本当に……できた……」


「それだけしっかりイメージできていると言うことです。明確にイメージできるのなら、こんなこともできるんですよ(バブルドーム)」


 そう言って、わたしはバブルドームを発動させます。

 シュヴァルツさんとアスィミさんが余裕で入れるほどなので、直径は10メートルくらいありますね。


「こ……これは……何?」


「泡をイメージして作った、わたしのオリジナル魔法、バブルドームです。今はなにもしていませんが……フルスピン! これで横に高速回転が加わりました。危ないから触らないでくださいね」


「速過ぎて……見えない……だけど水魔法の威力が……格段に……上がっている……」


 高速回転させると魔法の威力が上がるんですね。

 そんなことは一切気にせず使ってました。


 それはさておき。

 アンデイルさんは食い入るように、バブルドームを見ています。


「すごい……こんな魔法……見たことない……わたしでも……使えるかな……」


「魔法の内容を理解して、きちんとイメージできれば、使えると思いますよ? でも、この魔法って遮音性が高すぎて、外の音は一切聞こえないんですけどね。ただ……わたしが使っている魔法の中では最高の防御力があるので、使えるようになればアスィミさんを守ることができるはずです」


「わたしは……彼女を守りたい……だから……絶対に使えるように……なる!」


 闘志を燃やす、アンデイルさん。

 すぐさまバブルドームの練習を始めました。


 何度も何度も失敗を繰り返しますが、決してめげたりなどしません。

 アンデイルさんは、とっても頑張り屋さんのようです。


 そして、ついに…………魔力切れを起こしてしまいました。


 これには思わず苦笑い。

 序盤のウォーターウォールで、魔力を使い過ぎたみたいですね。

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