『ウンディーネさんと海底神殿』
ベリアさんを含む10人の奴隷さんたちを乗せた小さな馬車。
その馬車は迷路のような道を進みながら、再びアルファルムンの正門へと向かいます。
途中で冒険者ギルドに寄り、ゴールドランクの冒険者さんを2人雇いました。
イールフォリオまで、ベリアさんたちを護衛をしてもらうためです。
冒険者ギルドでは……。
「人族が金を持ってるのか?」
……なんて言われましたけどね。
金貨を100枚ほど出したら、それ以上なにも言われませんでした。
ちなみにこの中には依頼料の他に、中古の馬車とお馬さん二頭の代金も含まれていたりします。
わたしにはシュヴァルツさんがいるので、お馬さんにも馬車にも乗ることはないですよ?
でも、ベリアさんたちは今後必要になるかもしれません。
それに新しいお家には、馬小屋もありますからね。
無駄にはならないはずです。
そんなことを考えていたら、ベリアさんに声をかけられました。
「お嬢ちゃん……いや、主サマは太っ腹だねぇ」
「別に『お嬢ちゃん』でも、かまわないですよ?」
「そう言うワケにはいかないさね。アタイらがバラバラにならなかったのは、お嬢ちゃんのお陰……って、またアタイは……」
言い間違えたことに、ベリアさんは申し訳なさそうに頭を抱えます。
「ムリしなくて、いいですよ。わたしも自分が主さんだとは思ってませんから」
「なんか……悪いね」
「いえいえ、お気になさらずに」
そうこうしているうちに正門に到着。
「ではここからは別行動ですね」
「お嬢ちゃんは一緒に来ないのかい?」
「ちょっと寄りたいところがあるんですよ……」
せっかくアルファルムンまで来たのですから、行かずにはいられません。
そう……今日こそは、エーリィル様のところに行くのですっ!
はやる気持ちを抑えつつ、わたしは言葉を続けます。
「……なので、次はラドブルクでお会いしましょう。イールフォリオに着く前に、色々と準備しておきたいので」
「そうかい。気を付けるんだよ」
「はい。ベリアさんたちも気を付けてくださいね」
お互いに手を振り、門を出たところで、お別れしました。
ベリアさんたちを乗せた中古の馬車は南に進路を取ります。
順当にいけば、ラドブルクに着くのは15日後。
少しばかり長旅になりますが、お家の修理もあるので、これくらいが丁度いいのかもしれません。
ベリアさんたちを見送ったあと、わたしは東に向かって歩き出します。
左手に見える高い壁を横目に見ながら進んで行くと、潮の香がしてきたのです。
そして、さらに進んだ先には、ポルトヴィーンに匹敵するほどの大きな港がありました。
そこで小さな、お船を借ります。
……と言っても、シュヴァルツさんが乗るので全長は10メートルくらいありますけどね。
お船を動かすには風の魔法が必要とのこと。
なので通常だと風の魔法が使えるエルフさんが、船員さんとして乗り込みます。
ただ……これから行くところは、他人にはしられたくないんですよねぇ。
ですから、借りるのはお船だけにしました。
船員さんの代わりは、フウカさんにお願いします。
フウカさんは低位の風の精霊さん。
でも血盟の儀式により、能力が向上しているのです。
普段はお掃除に使う弱い風しか扱いませんけどね……。
「おお! 速い、速い!!」
今のフウカさんは、凄まじい威力の風の魔法を放っていたりします。
それはまるでモーターボートに乗っているような感覚。
なんて、実際に乗ったことなどありませんが……。
そのくらい速いと言いたいのです。
フウカさんのお陰で、最初の目的地である小島に到着。
お船は流されないように、しっかり固定しました。
「さて……行くとしますか」
「何処ニ行クノデス?」
フウカさんに訊ねられ、わたしは海を指さします。
「海底にある神殿ですよ」
恐らくそこに、エーリィル様がいるはずです。
あれはマルグニウムと言う素材を探しに行った時でしたっけ。
たまたま海底にある神殿を見つけたんですよね。
そこでエーリィル様とお会いしました。
え? そんなことよりも、なぜ海底に潜れるかって??
それはあとで説明しますね。
フウカさんとシュヴァルツさんが不安げな顔をしているので。
「海ノ中ニ入ルデス? フウカ、溺レルデス」
「くぅ~ん……」
「大丈夫ですよ。溺れたりなどしませんから」
自信満々に答え、わたしは魔法を発動します。
「デュアルバブルドーム!」
魔法名を告げて現れたのは、わたしたちを包み込む、半円状になった二重のお水の泡。
外側のお水の泡は直径6メートルで、内側のお水の泡は直径5メートルほどです。
両方ともお水の厚さは50センチ程度あるので、隙間も50センチくらいになりますね。
『ムーブ』と唱えると、わたしを中心に2つのお水の泡が移動を始めます。
そしてそのまま海の中へ。
「ワッ! 海ノ水ガ入ッテコナイデス!!」
フウカさんは驚きの声を上げました。
ビックリしますよね。
わたしも、お水の魔法が他のお水の侵入を防ぐと知って、目を丸くしましたから。
でもまあ、PVPの時にバブルドームで相手のお水の魔法を弾いたりできたので、もしかしたら……と言う気持ちはありました。
その予感はズバリ的中し、海の中に入れるようになったと言うわけです。
さらに内側のお水の泡にだけに『フルスピン』を掛けます。
こうすることで、海の中に入っても渦が発生しません。
まあ、外側のお水の壁は簡単に突破されちゃいますけどね……って、あれれ?
説明の途中で、すいません。
スピアーシャークさんが、現れてしまいました。
お水の魔法が発動していると青白い光を発しますからね。
お陰で見通しは良くなりますが、モンスターさんには遭遇しやすくなるのです。
それがこの魔法の欠点なんですよね……。
それはさておき、このスピアーシャークさん。
お鼻の部分が槍のような形をしている、とても狂暴なサメさんだったりします。
鋭くて長いお鼻は、お船の装甲も簡単に貫くと言うお話です。
そのスピアーシャークさんが、こちらに向かって突撃してきました。
そして内側のお水の泡に、スピアーシャークさんのお鼻が触れた瞬間……。
ものすごい勢いで弾き飛ばされ、横に回転しながら遠くに流れて行ったのです。
海の中なので、大きなケガはしないと思います。
ただ、目は回っていると思いますが……。
こんなことを何度か繰り返し、目的地に到着。
そこは、お日様の光が届かない海の底。
水深は200メートルくらいだと、エーリィル様は言ってましたね。
でも海底にある神殿は、青く輝いていたのです。




