『ウンディーネさんと迷宮都市 ①』
よその町から冒険者さんが来たことにより、イールフォリオの町は賑やかになっていました。
領民のかたたちが増えて、ティーニヤさんも喜んでいましたが……。
「はあ……また冒険者が騒ぎを起こして、ギルドに苦情が来たそうですわ」
問題も出ているようです。
ギルドに寄せられる苦情のほとんどが、新たに拠点登録した冒険者さんたちによるもの。
お酒を飲んで夜中に大声を出しているとか。
元々住んでいるエルフさんたちに、ちょっかいを出して喧嘩になったとか。
町の中で冒険者さんたち同士が言い争いになり、決闘寸前までいったとかなんとか……。
そんなお話も耳にしましたね。
辺境の静かな町でPVPとか、やめて欲しいところです。
まあ、他の迷惑行為もですが……。
ため息を吐き、頭を抱えるティーニヤさんに向かって、わたしは言葉を返します。
「大変ですね。でも、ちょっと意外です。皆さん、そんなことをするようには見えませんでしたから」
全員とは言いませんが、新しい冒険者さんたちにご挨拶とかされました。
その時は、とても礼儀正しかったと思います。
そんなわたしの印象とは逆に、ティーニヤさんは首を横に振ったのです。
「それはディーネさんの前だからですわ。他所の町から来られた冒険者は、ディーネさん目的で拠点の登録を変更しましたのよ? その方に嫌われるような行為は致しませんわ」
「言われてみれば、確かにそうかもですね」
わたし目当てと言うのは、未だに信じられませんが。
「あとはシュヴァルツ様の存在が大きいかも知れませんわね」
「シュヴァルツさんですか?」
「ええ。神獣の中でも高位に位置するフェンリルの一族が、町を歩いているんですのよ? それだけで十分脅威に感じると思いますわ」
「脅威ですか……シュヴァルツさんは怖くないですけどねぇ……」
「ディーネさんから見たら、そうでしょうけど。周りの目は違いますわ。特にシュヴァルツ様の場合、ディーネさんと居る事で弱点が無くなりますもの」
弱点が……なくなる?
ティーニヤさんのお話に、わたしは首を傾げました。
「それはどう言う意味ですか?」
「シュヴァルツ様は、単独でシェドナーマッシュルームを探したりしませんわよね?」
「そうですね。いつも一緒に探してますから…………あっ!」
「お気づきになられたみたいですわね」
「はい。弱点って、そう言うことですか」
素早さに特化したフェンリルさんの一族は、弱点らしい弱点はありません。
物理攻撃だけでなく、魔法の攻撃も躱してしまうと聞きますから。
まあ、ゲーム内での設定ですけどね……。
ここからは現実なお話。
ただし、シェドナーマッシュルームを探している時だけは唯一無防備になります。
さらにシェドナーマッシュルームの煮汁から精製された香水を撒くことで、その素早さを封じることができるのです。
そう……これはハンターさんたちが使っていた卑劣な手段。
でも、それを知っているなら対処は可能です。
匂いがしたら近づかなければ良い。
ただそれだけなんですから。
つまり……危険を察知できる人物がそばにいれば、弱点はなくなる。
それに、わたしはシュヴァルツさんを守れる、お水の魔法があります。
例え襲われたとしても無傷で切り抜けられる自信があるのです。(えっへん)
ティーニヤさんの言葉の意味を理解し、わたしは納得しました。
ところがティーニヤさんは、再び深いため息を吐いたのです。
「はあ……ディーネさんとシュヴァルツ様みたいなお二方が、町の見回りをして頂けたのなら、苦情も減りますのにね」
「すいません。神官さんと冒険者さんのお仕事をしながら町の見回りをするのは、さすがに難しいです」
「わ、わたくしったら……そんなつもりは、ありませんのよ」
「わかってますよ。でも困りましたね」
「そうですわね」
「「はあ……」」
ティーニヤさんの最後のため息は、わたしも一緒に吐くのでした。
とまあ、そんなことがあったので、エーリィル様のところには行けずじまい。
結局なんの案も出ないまま時間だけが過ぎ、ベリアさんたちを迎えに行くことになったのです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「門よ開け! 移動目的地アルファルムン!!」
神具の腕輪を使い、わたしたちはアルファルムンにやって来ました。
ところが神殿の中には誰もいなかったのです。
このパターン、多くないですか?
一応執務室を覗いてみましたけど、神官さんの姿はありませんでした。
それと同時に妙な違和感を覚えたのです。
「この執務室……奇麗過ぎると思いませんか?」
お掃除された状態をキープしていると言いますか……。
すいません。
上手く説明できないですね。
でもわたしの疑問に、フウカさんがコクリと頷きました。
「コノ部屋ハ、長イ間、誰モ使ッテ無イデス」
「フウカさんには、わかるんですか?」
「判ルデス。フウカハ、オ掃除ガ得意デス。部屋ノ状態ヲ見レバ、見当ガツクデス」
「なるほど」
さすがはお掃除のプロですね。
なぜこんな状態になっているのか気になるところですが、今はそれどころではありません。
そろそろベリアさんが到着する頃です。
わたしたちは急いで神殿をあとにするのでした。
そして迷路のような道を進みながら、アルファルムンの正門に向かいます。
持ってて良かった迷宮都市の地図。
お陰で迷うことなく正門にたどり着くことができました。
そこで数日前にポルトヴィーンで見送った、一台の馬車を見つけたのです。
その馬車から降りてくる、ベリアさん。
周囲に野次馬さんらしき数名のエルフさんたちがいましたが、構わず駆け寄りました。
「ベリアさーん!」
「お、お嬢ちゃん?! もう来てくれたのかい??」
「ええ、まあ。ちょっと事情がありまして……」
ベリアさんとお話していると、衛兵さんらしきエルフさんが、こちらに近づいて来たのです。
なぜか少し怯えた様子で。
「ふぇ、フェンリスヴォルフを連れた人族の娘よ。何を勝手に話している。き、貴様もこいつの仲間なのか?」
あー、シュヴァルツさんの姿に怯えていたんですね。
こんなにモフモフで素敵なのに……。
でも、ティーニヤさんが言っていた『脅威に感じる』とは、このことだったんですねぇ。
シュヴァルツさんの良さがわからないとは非常に残念。
ですが理解はしました。
それはさておき。
衛兵さんの質問に答えるとしましょう。
「まだお仲間さんではないですけど、これからお仲間さんになる予定です」
「何だと? 事と次第によっては貴様も捕らえるぞ!」
「それは困ります。とりあえず、こちらを読んでください」
そう言って、ファフルさんに書いてもらった推薦状を渡しました。
その内容を確認した衛兵さんの顔色が、見る見るうちに青くなったのです。
「た、大変失礼致しましたっ!」
謝罪の言葉と同時に、深々と頭を下げる衛兵さん。
急すぎる態度の変化に思わず驚きます。
推薦状の効果って、すごいんですね……。
ファフルさんは、一体なにを書いたのでしょうか?
それが気になるところです。




