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辺境のウンディーネさん  作者: みずのひかり
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『ウンディーネさんと奴隷さんたちの受け入れ準備 ②』

 ベリアさんたちのお家を探すべく、ギルド会館に来たわけですが……。


「冒険者さんたちが、たくさんいますね」


 普段は10人もいないギルド会館のホールに、冒険者さんたちが溢れかえっていました。

 その数は、ざっと数えてみても100人はいると思います。


 ドアを開けたままの状態で、ティーニヤさんは驚きを隠せない様子。

 もちろん、わたしもですが……。


「あらあら、まあまあ。大盛況ですわね」


「この様子だと、シリフィさんにお話を聞くのは難しいですよね」


「そうですわね。時間をおいてから出直した方が良さそうですわ」


「ですね」


 そんなわけで、神殿にて暇つぶしと言う名の『おしゃべりタイム』。


 夕方近くになってから、再びギルド会館を訪れました。


「お邪魔します……お、今度は空いてるみたいですね」


 ホールに冒険者さんは、ひとりもいません。

 さっきの賑わいはどこへやらです。


 ただ……。


「シリフィさんは、お疲れのご様子ですわね」


 ティーニヤさんが口にした通り、シリフィさんは受付の席でぐったりしてました。


「お疲れ様です、シリフィさん」


「ディーネ様……と、ティーニヤ様?! お恥ずかしいところをお見せしてしまい、大変申し訳ありません」


 ティーニヤさんの顔を見た直後、背筋を伸ばすシリフィさん。

 貴族さんを相手にしているからか、疲労とは違う汗をかいているようです。


 そんなシリフィさんに、ティーニヤさんは優しく微笑みかけます。


「良いんですのよ。ところで……先ほど多くの冒険者達が訪れていた様ですけど、何かありましたの?」


「はい。本日ギルドに来られた冒険者の方達ですが、皆さん他所の町から来た冒険者でして……拠点登録の変更手続きで大変混雑しておりました」


「え? あの冒険者さんたちは、全員よその町の冒険者さんなんですか??」


「全員と言うのは少し違うかもしれないですね。半数以上は元々イールフォリオの冒険者でしたから」


「もしかして、それって……」


「はい。ディーネ様のご活躍を聞きつけて、イールフォリオに戻って来たのです」


 やっぱり……。

 前にそんなことをシリフィさんが言ってましたよね。


 フレイムドラゴンさんと水不足の問題が解決すれば冒険者さんが帰ってくると。


 でもまさか、元からいた冒険者さん以外の冒険者さんも来るとは思ってもいませんでした。

 わたしにそこまでの影響力はないと思ってましたから。


 意外な展開の驚きつつも、わたしは別のことが気になります。


「そうなんですか。それで……その冒険者さんたちが拠点を戻すとなると、以前住んでいたお家はどうなりますか?」


「持家の方は、そのまま住むと思います。借家の方は暫く宿に泊まると思いますよ。何故、そんな事を訊くのですか?」


「実は……」


 かくかくしかじか。

 わたしはベリアさんたちのことを、シリフィさんにお話します。


「奴隷達が住むための家ですか……それも10人となると、それなりに広い家が必要になりますね」


 シリフィさんは『うーん』と唸り声を出して、考え込み始めました。


 待つこと数分。

 こんなに悩むとは思いもしませんでしたが、ようやくシリフィさんの口が動きます。


「条件に合うお家は難しいですか?」


「あるには、あるのですが……損傷が激しいので、修繕が必要になりますね」


「損傷? そのお家で、何が起きたんですか??」


「火災です……フレイムドラゴンによる……」


 その一言で全てを察しました。

 エリミア様がいなくなってから、被害が広がったと聞いていたからです。


 このあとシリフィさんから、お家の詳細を教えてもらい、実際に見にいくことになりました。


 案内されたのは、東の門から少し離れた三階建ての建物。

 レンガ造りで広さも十分。


 ただ、一軒家と言うよりかは……。


「宿舎みたいな感じですね」


 入口はひとつだけ。

 一階には食堂とお風呂などがあります。

 二階と三階には同じ間取りのお部屋が10室ずつありました。


 さらに馬小屋まで完備されているのです。


「ディーネ様の仰る通り、この建物は以前、門番や衛兵達の宿舎として使われていました」


「以前と言うことは……今は、どうしているんですか?」


「現在衛兵は、町にほとんど居りません。フレイムドラゴンの被害が拡大してから、皆さん逃げ出してしまいましたから……残った衛兵と門番は町の中心部にあるギルド直営の宿屋で寝泊まりしています。宿屋ならフレイムドラゴンの炎を受けたとしても、リジェンさんの水魔法で防げますので」


「なるほど。確かにこの場所だと、フレイムドラゴンさんの炎をまともに受けちゃいますね」


「はい。毎年必ず火災が起きるので、数年前から廃墟になっています」


 それで外観が焦げだらけなんですね。

 建物もそれなりに広いので、被害が大きいのも頷けます。


「シリフィさん。この建物を土地ごと購入するとして、修理の費用も含めると、お幾らくらいになりますか?」


「そうですね……金貨800枚ほどになると思います」


 金貨800枚ってことは、日本円に換算すると1億円くらいですかね。

 金貨1枚が、12万円ほどの価値がありますから。


 そう考えると、かなりの大金。

 でも払えない額ではありません。


 バッグの中には、10万枚以上の金貨がありますからね~。


 そこで鞄の中に手を入れます。


 ごそごそごそ……。


「此方の焼け焦げたお家が、金貨800枚もしますの? いくらなんでも、お高くありませんか??」


「お言葉を返すようで申し訳ありませんが……この宿舎を建てるようにと依頼したのは、コヴィルダ様です」


「お……お姉様の指示ですのっ?!」


「はい。『妹の治める町に、立派な宿舎を作りなさい』との事でしたので、かなりの費用が掛かりました。金貨が800枚必要なのは、そう言った経緯があるからなのです。どうかご理解下さい」


「はあ……お姉様ときたら、ろくな事をしませんね。嫌がらせをするにも程がありますわ。それにしても金貨800枚などと言う大金……わたくしでも、すぐに用意出来る額ではありませんわ。ディーネさんも、そうですわよ……ね。え? そ、その革袋はなんですの??」


 パンパンに膨らんだ革袋をみて、ティーニヤさんは目を丸くします。


「すいません。お金を数えていたので最後のほうしか、お話を聞いていませんでした。えーっと、この革袋のことですよね? これはラドブルクで報酬を受け取った時に頂いたものです。バシリスクさん撃退と、石化したエルフさんたちの治療費で1000枚も金貨を貰ってしまったんですよ。まあ、200枚抜いたのでここにあるのは800枚ですけどね」


 『えへへ』と笑って、シリフィさんに革袋を差し出しました。


 そう言えば、前にもこんなやりとりがありましたよね。

 あれはエリミア様のお家を購入した時でしたっけ。


 まだ1か月くらいしか経ってないのに、なんだか懐かしい感じです。


「金貨800枚、確かに受け取りました。費用が抑えられた場合は、すぐにお返し致します。領収書の発行は、その時でも宜しいですか?」


「大丈夫ですよ。ちなみに、お家の修理はどれくらいの日数が掛かりそうですか?」


「そうですね……通常なら2か月以上掛かると思うのですが、本日拠点登録した冒険者の中に地精霊と契約しているドワーフが居ましたから。その方に頼めば2週間ほどで完了すると思われます」


「え? あの中に、ドワーフさんもいたのですか?? エルフさんだけだと思ってました」


「ラドブルクの復興作業で、ディーネ様の噂を知ったそうですよ」


 あ、なるほど。

 ラドブルクの町はフレイムドラゴンさんの被害をかなり受けてましたからね。

 そのお手伝いに来ていたと言うわけですか。


「ではシリフィさん。お家のこと、よろしくお願いします」


「はい。承りました」


 これで、ベリアさんたちの住むお家は確保できましたね。


 あとは町でのお仕事ですが、それはまたあとで考えるとします。


「ティーニヤさん、商談が成立したので帰りましょうか……って。あれ?」


 ティーニヤさんに視線を移したところ、青ざめた表情を浮かべながら固まっていました。


「ど、どうしたんですかっ?!」


「は……」


「は?」


「800枚もの金貨を迷いもなく差し出せるなんて……ディーネさんは、どんな金銭感覚をしてますのーっ!!」


 似たようなセリフをドーラさんも言っていたような……。

 でも貴族さんであるティーニヤさんにとっても、800枚の金貨は大金だったんですね。


 夕暮れのお空に、ティーニヤさんの声が響いていました。

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