『ウンディーネさんとお家の修理』
「門よ開け! 移動目的地イールフォリオ!!」
神具の腕輪を使って、わたしたちはイールフォリオに戻ってきました。
もちろん、アルマさんも一緒に。
そのアルマさんですが、神殿の中をキョロキョロと見渡しながら不審そうな表情を浮かべています。
「なあ、ディーネの姐さんよ。ポルトヴィーンの神殿と変わらねー気がすんだけど、マジでここはイールフォリオの神殿なのか?」
神殿はどの町でも同じような造りですからね。
疑う気持ちはわかります。
わたしも最初はそうでしたし。
でもここは正真正銘……。
「本当にイールフォリオなんですよ。お外に出ればわかりますから」
百聞は一見に如かずと言いますし。
まずは現実を見てもらとしましょう。
わたしはアルマさんを連れて神殿の扉を開けました。
そしてお外に出た瞬間……。
「…………マジか」
アルマさんはポカンと口を開けたまま、固まってしまったのです。
予想以上にショックが大きかったみたいですね。
無理もありません。
本来なら最短でも8日掛かる距離が一瞬なわけですから。
アルマさんの反応は正しいと思います。
それからしばらくして、アルマさんは冷静さを取り戻しました。
そして、お家のあるエリミア湖へと向かったのです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
聖なる森を進む中、わたしとアルマさんは他愛もないおしゃべりをしてました。
「しっかし神具っつーのはスゲーな。んなもんエルダードワーフでも作れねーわ」
エルダードワーフさん?
ああ、精霊族と同列に位置する上位のドワーフさんでしたっけ。
そう言えば、わたしのこの青いローブを作ってくれたのもエルダードワーフさんでしたね。
そのエルダードワーフさんは、ドワルフ島と言う所に拠点をおく、凄腕の職人さんでした。
青いローブを見つめながら、そんなことを思い出します。
エルダードワーフさんは、確かに優れた技術をお持ちですが……。
「相手は神様ですからね。張り合っても仕方ないと思いますよ?」
「だよなー」
気の抜けた返事を聞いたところで、聖なる森を抜けました。
そこですぐさまアルマさんは、神殿を出た時と同じ言葉を口にしたのです。
「…………マジか」
廃墟と言ってもおかしくないお家の状態を見て、これまたポカンと口を開けたまま固まってしまいました。
こちらも予想以上にショックが大きかったみたいです。
「えーっと、その……本当に申し訳ありません」
「ゴメンナサイデス」
わたしとフウカさんは謝罪の言葉と一緒に深く頭を下げました。
そして頭を上げると同時にアルマさんに訊ねてみたのです。
「こんな状態からでも、お家の修理は可能ですか? もちろん掛かった費用は全てお支払いしますので、どうかよろしくお願いいたします」
穴の開いた屋根にボロボロの壁。
ドアなんて草の上に横たわったままです。
もしかしたら立て直す可能性なんかもあるのかも……。
まあ、その時はその時ですよね。
幸いお金はそこそこ持ってますから、なんとかなると思います。
そんな覚悟をしているわたしの前で、アルマさんは両腕を組みながら正気に戻りました。
「……ちったぁ時間がかかっけど、直せねーことはねーよ。あと金はいらねーから。こいつぁ相棒を助けてくれた礼だからな」
「あ、ありがとうございます。では必要な材料があったら言ってください。それはこちらで用意しますから」
せめてそれくらいのことはさせて欲しいと思ったのですが……。
この提案にアルマさんは首を横に振ったのです。
「いんや、材料もいらねーよ」
「え? ではどうやって修理するのですか??」
「まあ見てろって」
アルマさんは自分の背と変わらないくらい大きな木槌の柄を肩に掛けながら、お家に近づいていきます。
そしてボロボロになった壁に向かって木槌を振りかざしました。
まさか、そのまま壁を叩くわけじゃないですよね?
そんなことをしたら壁に大きな穴が開いちゃいますよっ?!
そう思ったのでが、次の瞬間わたしは信じられないものを目にしたのです。
「頼むぜ! 相棒っ!!」
アルマさんの言葉に反応するかのように木槌がエメラルドグリーンに輝き出しました。
そして壁に触れると同時にボロボロだった壁が綺麗に修復されたのです。
まるで完全回復で傷が癒えていくような感じで……。
「こ、これが木の精霊さんの能力ですか」
「おうともよ! 相棒には木を再生させるチカラがあんだよ。スゲーだろっ!!」
鼻の下を人差し指でこすりながら、得意げに語るアルマさん。
これだけのものを見せられたのですから、納得しないわけはありません。
「はい。本当にすごいですね。この調子ならならすぐに修理が終わるんじゃないですか?」
そう思ったのですが、アルマさんは渋い表情をみせます。
「そーしてーところなんだけどなー。こいつぁバカみてーに魔力を食うんだわ」
「そうなんですか……でも、この感じなら綺麗に直りそうですね」
「そいつぁ任しとけっ! 完璧に直してやっからよ!!」
右手で胸をドンと叩いたのち、アルマさんは再び木槌を振るいました。
少しずつですが確実に、お家が直っていきます。
本来ならホッとするところかもしれません。
ですが木槌が振り下ろされるたびにドキッとするんですよね。
一歩間違えたら、もっと酷い状況になるんじゃないかと思うわけですよ。
なので今度はわたしがポカンと口を開けたまま固まっていました。
予想を遥かに超えた修理の仕方に、ショックが大きかったようです。