『ウンディーネさんとドワーフの棟梁さん ①』
神具の腕輪を使い、ポルトヴィーンの神殿に到着したわけですが……。
「あれ? 誰もいませんね」
ポルトヴィーンの神官さんがいると思いきや、神殿にいるのはわたしたちだけでした。
まあ、女神様以外の……それも人族が突然現れても驚かせるだけですからね。
返って好都合だったのかもしれません。
そんなことを考えつつ開けた扉の先には、現実世界では初めて見る、大海原が広がっていました。
そう言えばポルトヴィーンの神殿は高台にありましたっけ。
見下ろした街並みも素敵ですが、海の青さに感動を覚えます。
それにしても……。
「すごく広いですね~」
そして海から吹く風がとても気持ち良いです。
わたしはニコニコしながら、港の近くにあるギルド会館を目指しました。
それと同時に町の人たちの視線を感じたのです。
ラドブルクの時にもあったこの感覚……。
理由はシュヴァルツさんにあると、すぐに気づきました。
こちらの町でも希少種であり、神獣クラスのモンスターさんは珍しいようです。
その証拠に、いたるところで『フェンリスヴォルフ』と言う言葉が聞こえてきましたから。
そんな周りの声と視線を感じつつも、問題なくギルド会館に到着します。
大きな町のギルドだけあって、建物も立派ですねー。
ラドブルクよりも高い、5階建てですよっ!
では早速お邪魔するとしましょうか。
「シュヴァルツさんとフウカさんは、ここで待っていてくださいね。棟梁さんのお家の場所を聞いたらすぐに戻ってきますから」
「わおん」
「ワカッタデス」
頷くお二人に向かって軽く手を振り、わたしはギルド会館のドアを開けます。
そして入って早々に……。
「そこをなんとかしてくんねーかー?」
「無理なものは無理ですよ」
「頼むよ。このとーりだっ!!」
「そう言われましても……」
……と深く頭を下げるドワーフさんと、困った表情を浮かべるエルフさんの姿が目に飛び込んできたのです。
男性みたいな口調ですが、ドワーフさんは小柄でかわいらしい女性。
一方エルフさんは白いローブをまとった大人しそうな背の高い美しい女性です。
身長差は50センチ以上。
まるで大人と子供です。
白いローブを身に着けていることから、あのエルフさんは神官さんなんでしょうね。
エリサさんと全く同じ格好をしてましたし。
恐らくあの衣装が神官さんの正装なんだと思います。
わたし? わたしはこのフード付きの青いローブが正装ですよ??
神官さんっぽくありませんが……。
それはさておき。
神殿にいないと思ったら、ギルド会館にいたと言うわけですか。
状況的にドワーフさんの依頼かなにかで呼ばれたんでしょうね。
そんなお二人を囲むようにギャラリーと化した冒険者さんたちが、二十名ほど集まっていました。
その様子を横目に見ながら、わたしは受付の前へと足を運びます。
そこで受付を務める女性のエルフさんに訊ねたのです。
「何かあったんですか?」
「お騒がせして申し訳ありません」
「いえいえ」
「あちらにいらっしゃるドワーフの方が、長期間留守にしている間にセイレーンに家を占拠されてしまい……その対応を神官様にお願いしているのです。ですが相手が相手だけに難色を示しているのですよ」
やや困った表情で、受付のエルフさんは答えてくれました。
セイレーンさんと言えば、島や海の近くに住む羽の生えた人型のモンスターさんです。
特性はモンスターさんでありながら、精霊族に属する不思議な存在。
そのほとんどが女性の姿をしていて、とても美しい歌声を奏でます。
ただ問題なのが……この歌声を聴いた人は100%の確率で『魅了状態』に陥るんですよね。
回避できるのは専用のアイテムだけです。
ショックを与えたり、ダメージを受けたとしても、そう簡単に魅了から覚めることはありません。
そのため幻惑を見せるハルシネイトクロウさんよりも厄介なモンスターさんだと言えます。
もちろんこれはゲーム内でのお話ですけどね。
ですがエンシェントワールドは、こちらの世界を元にして作られたとのこと。
なので効果は同じだと考えられます。
それだけに受付のエルフさんの言葉に、わたしは違和感を覚えました。
「え? どうして神官さんにお願いしてるんですか??」
「報告によるとセイレーンが負傷しているとのことです。数日前、セイレーン数体と海賊の間で争いごとがあったそうなので、それが原因で負傷したと思われます。恐らく傷が癒えれば巣に帰るはずなんですけどね。過去にもそう言った事例がありますから……」
なるほど、それで神官さんにお願いしていると言うわけですか。
わたしも過去にセイレーンさんを治療したことがありますからわかります。
結構大変なんですよね。
近づくだけで一苦労でしたから。
当時のことを思い出す横で、受付のエルフさんは言葉を続けます。
「……ただ、その時は町から離れた空き家に棲みついていて、自然回復で傷を癒したのですよ。ですからここまで大事にはなりませんでした」
「あ、そうなんですね。では神官さんが治療するのは今回が初めてと言うことですか」
「はい。でも近づくことが出来ませんから、神官様はお受けにならないと思います」
「魅了されちゃいますもんねぇ」
そう言って苦笑していると、今度は受付のエルフさんから問いかけられました。
「ところで……当ギルドにはどういったご用件で来られたのでしょうか? 見たところ人族のようですが、現在低ランクのクエストは取り扱っていませんので、ご希望には添えないかもしれません」
これでもゴールドランクの冒険者さんなんですけどね。
だからと言って否定するのも面倒なので、わたしはランクのことは口にせず、首を横に振りました。
「いえいえ、クエストを受けに来たんじゃないんですよ。実は人を探しているんです。ドワーフの棟梁さんでアルマさんと言うのですが、住んでいるお家とかご存知ありませんか?」
「もちろん知ってますが……アルマさんなら、すぐそこにいらっしゃいますよ?」
「え? どこですか??」
キョロキョロと周りを見渡します。
そんなわたしに向かって、受付のエルフさんは先ほど話題に出ていたドワーフさんを指差しました。
「神官様にお願いしているドワーフが、アルマさんです」




