『ウンディーネさんと神具の腕輪』
ラドブルクに着くと早々に、女神様は神様の元へ帰ってしまいました。
理由は地上には長居はできないとかなんとか……。
最初にお会いした時も、そんなことを言ってましたよねぇ。
なので、わたしがこれまでの経緯をエリサさんに説明します。
「神様からぁ? 神具を授かったんですかぁ?! その腕輪は女神様しか所持してないんですよぉ。お師匠さまは、すごすぎますぅ~!!」
「どうしてこうなったのか、よくわかりませんけどね。でもこれで、ポルトヴィーンに行けますよ」
「ところでぇ……お師匠さまは、なぜポルトヴィーンに行くのですかぁ?」
「ポルトヴィーンを拠点にしているドワーフの棟梁さんに、お家の修理を頼みたいんですよ」
そう言うと、エリサさんが驚いた表情を浮かべたのです。
「ふえ……? それってまさかぁ、エリミアちゃんのお家ですかぁ??」
「エリサさんはエリミア様をご存じなのですか?」
「同じハイエルフですからぁ。それにぃ…………」
そこまで話して、エリサさんは口を噤んでしまいました。
「それに……なんですか?」
「な、なんでもないですぅ。エリミアちゃんは、すごぉく有名なハイエルフなんですよぉ」
何か隠しているみたいですね。
でも問い詰めたりなどしません。
隠し事のひとつやふたつ、誰にでもあるものです。
わたしも異世界から来たことは黙ってますしね。
言う必要もないと思ってます。
なのでわたしは、そのままお話を続けました。
「そうみたいですね。イールフォリオでは『水の守護神』として町のエルフさんから親しまれていたみたいです。それに、凄い水の魔法使いさんだったと聞いています」
「水の魔法使いですかぁ? エリミアちゃんのジョブは精霊術師ですよぉ??」
精霊術師さん?
聞いたことのないジョブですね。
「それは魔法使いさんとは違うんですか?」
「そぉですねぇ~、魔法使いは基本的にひとりの精霊さんとしか契約できないんですよぉ。でもぉ、精霊術師は複数の精霊さんと契約することができるんですぅ。神官と同様にハイエルフにしかなれないジョブだと言われているんですよぉ~」
なるほど、だからエリミア様は、お水の精霊さんの他に風の精霊さんでもある、フウカさんとも契約ができたんですね。
納得するわたしの前で、エリサさんはさらにお話を続けます。
「……それとぉ、精霊術師は自分が契約した精霊さんを他の方に譲渡することもできるんですよぉ~」
「え? そんなことができるんですか??」
「譲渡する相手の魔力量とか相性にもよるらしいのですがぁ。エリミアちゃんは『できる』って言ってましたよぉ~。確かぁ、お師匠さまが会いに行くドワーフさんもぉ、エリミアちゃんから精霊さんを譲り受けたひとりだったようなぁ……う~ん、間違ってたらごめんなさいですぅ……」
記憶に自信がないのか、エリサさんは頭を抱えてしまいました。
もしそれが本当のお話なら、ペドラさんが言っていた『借り』とは精霊さんのことかもしれません。
「いえいえ、色々教えてくださって助かりました。ありがとうございます」
「お師匠さまにそう言ってもらえるとぉ、嬉しいですぅ♪」
「お家の件が落ち着いたら、ゆっくり遊びに行きますね」
「はいですぅ」
「ではまた」
エリサさんに手を振り、その手を今度は天井に向けて高く突き上げます。
そして手首に光る腕輪を見つめながら、わたしは神具の能力を発動させました。
「門よ開け! 移動目的地イールフォリオ!!」
こんな感じで良かったんですよね?
一応、光の柱が現れていますし……。
そう思っているのも束の間。
今立っている神殿には、わたしたち以外誰もいませんでした。
おお、ちゃんと戻ってきてますね。
神具の移動能力は素晴らしいものがあります。
……って、感動している場合ではありません。
ポルトヴィーンに行く前に、やるべきことがあるのです。
わたしは急いで町の中央にある広場に向かいました。
「ペドラさーん!」
「嬢ちゃんか。そんなに慌てて、どうしたんだ?」
「棟梁さんの紹介状なんですけど、今すぐ書いてもらうことはできますか?」
「それは構わんが……ここで書いてもポルトヴィーンに届く時間は変わらないぞ?」
「馬車ならそうなりますよね。でもわたしには、もっと早く届ける方法があるんですよ」
「ああ、フェンリスヴォルフで移動するのか。それなら確かに馬よりも速いな。わかった、ちょっと待っててくれ」
そう言って、ペドラさんはシュヴァルツさんをちらりと見ます。
何か勘違いしているようですが、訂正とかしない方が良さそうですね。
神具で瞬間移動ができるなんて言っても、信じて貰える気がしませんから。
なので黙って、紹介状が書き終わるのを待っていました。
そして数分後……。
「ほらよ。これを持ってけば、話くらいは聞いてくれると思うぞ」
「ありがとうございます。ちなみに、棟梁さんのお名前はなんと言うのですか?」
「アルマだったかな」
「なんだか女性みたいなお名前ですね」
「みたいもなにも、棟梁は女だぞ?」
「え? あ……そうなんですか」
「女だが腕は確かだ」
それはわかります。
あのお家は見た目も素晴らしく、なによりも住み心地が最高ですから。
「紹介状、ありがとうございます。ではちょっと行ってきますね!」
「気をつけてな」
「はい」
ペドラさんに別れを告げ、再び神殿へと戻ります。
そして祭壇の前で、左手を高く掲げました。
「門よ開け! 移動目的地ポルトヴィーン!!」
再び現れた光の柱。
それが消えると同時に、わたしたちはエルフさんの領地の中で最大の港町、ポルトヴィーンに着くのでした。




